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山縣良和×奥山理子が芸術で掘り下げる、社会と生きづらさの関係

山縣良和×奥山理子が芸術で掘り下げる、社会と生きづらさの関係

『TURNフェス2』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:野村由芽、飯嶋藍子

社会は自分の外にあって隔絶されているものだという意識になって、絶望感を抱いていた。(奥山)

―ここのがっこうでの山縣さんの教育は、生徒自身のルーツを問い直し、それを制作に活かすものです。そのようなプロセスを大事にされているのは、なぜでしょうか?

山縣:自分がなぜか自然にやってしまう行為ってありますよね。僕はクリエイションを、それに近づけていきたいんです。でも、大人でそれが自然にできる人はなかなかいない。だから、自分はどこから来たのか、何を見て来たのかとあらためて問うことで、純度の高いクリエイションを目指しています。

僕自身、自分でも意識していないことに、影響を受けていることはよくあって。たとえば、母とあまり仲が良くなく20年以上会っていなかった伯父さんと再会したのですが、実は僕が驚くくらいエキセントリックな女装癖を持った人だったんです。おばあちゃんからよく「お前に似ている」と聞いていたのですが、なるほどと(笑)。しかも、警備員をしながら詩を書いていて。

奥山:かなり面白そうな方ですね。

山縣:なぜ詩を書いているかというと、僕の親戚に詩人の尾崎放哉(1885年生まれ。自由律俳句で著名)がいて、それに影響を受けているんです。尾崎の生誕の地は、僕の実家のすぐ裏手で、小さいころから不思議な雰囲気を感じていた場所だったのですが、尾崎の存在をずっと知りませんでしたし、20代後半になって初めて女装癖のおじさんにそのことを聞いて、びっくりしました。

尾崎は世捨て人として知られていて、当時、地元ではあまりいい評判ではなかったみたいです。そういうこともあってか、いろいろ苦労したのか、母親はそのルーツを全然語る人ではなかったです。僕はそういった自分の知らなかったルーツに向き合ったもの作りを大切にしたいと思い、2015年の春夏シーズンでは、尾崎の生涯をテーマとしたコレクションを発表しました。

written by 2015SSコレクション。尾崎放哉の人生をテーマに、「漂白の詩人」をイメージして作り上げた
written by 2015SSコレクション。尾崎放哉の人生をテーマに、「漂白の詩人」をイメージして作り上げた

奥山:自分のルーツや現実に向き合いきれず、心身を壊したりしてしまう方は多いはずです。実際、すごく難しいし、どうしても深刻になってしまう。でも、山縣さんの教える姿を見ると、こんな風に深刻にならず、自分を痛めつけるような方法ではない向き合い方があるんだと感じます。向き合い方こそ、想像力が発揮できる部分なんだと。

山縣:僕は悲観的ではあるのですが、物悲しいエピソードもどこか面白おかしく感じちゃうところがあるんですよね。クリエイションってそういうルーツは積極的に掘り返した方が面白かったりしますし、説得力にもなる。

ブランド名の「writtenafterwards」も「あとがき」という意味ですが、僕のクリエイションでは、悲観的でありながらも楽観的で詩的な要素や物語、書き手の意味を込めた過去分詞の「written」の感覚を大事にしていて、そういうのもいま考えると、自分のルーツからの影響が少しはありそうだなと思いました。

―ルーツで言うと、奥山さんがこれだけアートに関わるようになったきっかけは?

奥山:じつは私、不登校だったんです(笑)。原因はひとつではなくて、もともと同年代に馴染めなかったんですけど、思春期に目指したいことや、日常生活の複雑なことのバランスが崩れて、食事が取れなくなったり、学校に行けなくなったりしてしまいました。そのとき、社会は自分の外にあって隔絶されているものだという意識になって、すごい絶望感を抱いていたんです。

奥山理子

奥山:それで、母のいたみずのきに通い始めました。さらに、当時ちょうど、みずのきでも絵画や彫刻ではない、いわゆるリレーショナルな表現をする若いアーティストと関わりが生まれていて、日常生活の何気ない行為や関係性がアートになり得ることに衝撃を受けたんです。そこから、アートの現場に関わるようになったのですが、関わりながら自分が再構築されていく感じだった。社会の一員になれたという思いがしたんですよね。

人生のつまづきや生きづらさという、一見ネガディブな「はずれ」が、表現の世界では好転する。(山縣)

―ご自身の経験を通して、奥山さんは、美術館で展示されたり、市場で売買されたりする作品と、みずのきなどで触れている作品の間に違いはあると思いますか?

奥山:世の中で志向される主流とは異なる方法を探している私たちがやるべきなのは、市場主義ではない、新しいアートの受け止められ方を築いていくこと。それは、アートの論理だけではできなくて、やはり福祉の問題でもあるので、いろんなジャンルの人と関わりながら、考えていきたいです。

山縣:外に開いていく努力は大切ですよね。ファッションで言うと、僕もyohji yamamotoやCOMME des GARÇONSには影響を受けましたが、彼らの時代の目的意識は、ファッションの領域の内部で、いかに世界の中心地に入っていくかだったと思うんです。

そして、当時はその中心に求心力があったので、ほかのジャンルの人々がどんどん関わってきてくれた。でも、いまはそれだけだとダメで、自分たちからファッションの外に出て行って、積極的にファッションというジャンルの意味や価値、社会に貢献できることを示さないといけないと思います。

左から:山縣良和、奥山理子

奥山:現状に満足しているアーティストって、いないと思うんです。自分自身で開拓したい人は多いはずで、そうしたエネルギーをいろんな場所から集めてつなげるのが、TURNや私の役割だと思います。

その意味で言うと、TURNの意義や使命は、プロジェクトが始まった当初とは、まるで違うものにまで広がっている。「私って何だろう」とか、「社会と関係するって何だろう」とか、そうした根本的な問題をいろんな角度から掘り下げて、深め、広げたい。まだ試行錯誤の日々ですけど、最後はそれこそ、自分のクリエイションそのものだと呼べるものにしていきたいです。

―山縣さんとのある対談の中で、哲学者の鷲田清一さんが、「ファッションって人生の『はずれ』を『はずし』に裏返すもの」とおっしゃっていたんです。今日は、お二人の人生と活動にも、TURNにも、似たところがあると感じました。

山縣:鷲田先生、良いことを言いますよねえ。ファッションの「はずし」ってポジティブな意味なんです。人生のつまずきや生きづらさという、一見ネガディブな「はずれ」が、表現の世界では好転する。ファッションやアートには、その「はずれ」を「はずし」にする機能があるということですよね。

それは、まさに僕がやりたいことだし、やるべきことだとも思います。TURNでのプロジェクトも含めて、人とは異なった部分をポジティブに裏返せる場所というものをどんどん作っていきたいです。

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イベント情報

『TURNフェス2』

2017年3月3日(金)~3月5日(日)
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
会場:東京都 東京都美術館1階 第1・第2公募展示室

プロフィール

山縣良和(やまがた よしかず)

1980年、鳥取県生まれ。大阪の服飾専門学校を中退、2005年にイギリスの名門セントラル・セント・マーチンズ美術大学ウィメンズウェア学科を首席卒業。2015年『LVMH Prize』に日本人初ノミネート。ジョン・ガリアーノのデザインアシスタントを務める。帰国後、2007年に自身のブランド「writtenafterwards」をスタート。自由で、本質的なファッションの教育の場として「ここのがっこう」を開催している。

奥山理子(おくやま りこ)

アーツカウンシル東京「TURN」コーディネーター、みずのき美術館キュレーター。1986年京都府生まれ。母の障害者支援施設みずのき施設長就任に伴い、12歳よりしばしば休日をみずのきで過ごす。2007年以降の法人主催のアートプロジェクトや、みずのきの農園活動にボランティアで従事した後、2012年みずのき美術館の立ち上げに携わり、現在企画運営を担う。企画、制作した主な展覧会に『ayubune 舟を作る』(2014年)、『TURN / 陸から海へ(ひとがはじめからもっている力)』(2014-2015年)、『共生の芸術展「DOOR」』(京都府委託事業、2014年、2015年)、『みんなのアート -それぞれのらしさ-』(岐阜市委託事業、2015年)など。

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