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佐藤卓が考える身体的デザイン論。よいデザインは気づかれない?

佐藤卓が考える身体的デザイン論。よいデザインは気づかれない?

富山県美術館
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

デザインが持つ問題意識は、すべての活動につながっていると思います。

―『デザインの解剖』プロジェクトに見られるような、「見えないものを見えるようにする」こと。なぜ、それが重要なのでしょうか?

佐藤:たとえば、このコーヒカップの素材は何か、この一杯を作るために、コーヒー豆を育てるところから始まって、全部でどれだけの水が使われているか、知りませんよね。見えていることの裏側にどれだけ見えないものがあるか、ということなんです。

いまの社会はいろんなことがブラックボックス化していて、以前、中国製の冷凍餃子が問題になったとき、いきなり汚い工場という裏側が見えて驚いたわけですよね。逆に言うと、普段はそんなことは意識しないでも生きられるということ。でも、「既知の未知化」と言いますが、これからはそれをどれだけ意識できるかが、大事になると思うんです。

21_21 DESIGN SIGHT企画展『デザインの解剖展:身近なものから世界を見る方法』(2016年10月14日~2017年1月22日 / Photo:Satoshi Asakawa)
21_21 DESIGN SIGHT企画展『デザインの解剖展:身近なものから世界を見る方法』(2016年10月14日~2017年1月22日 / Photo:Satoshi Asakawa)

佐藤卓

―こうして見ても、佐藤さんの活動領域はとても広いのですが、その中で肩書きをあえて「グラフィックデザイナー」のままにしているのは、なぜでしょうか?

佐藤:「グラフィックデザイナー」という肩書きは、本籍みたいなものなんです。自分のデザインのテクニックは、広告も含めて、グラフィックデザインで身につけたもの。だけど、グラフィックデザインのスキルを、何に生かしても構わないはずですよね。

国によっては、それで仕事の幅が狭まるかもしれませんが、日本はその意味では、あまり肩書きで仕事の幅が左右されない。この肩書きを使うことで、グラフィックデザインのスキルを使って何をやってもいいと、若い人にも伝わればと思っているんですね。

―今、若いデザイナーにとって、大切にすべきことは何ですか?

佐藤:自分の若いころを考えたら、偉そうなことは何も言えないけど(笑)。でも、僕も含めてすべてのデザイナーにとって大事なのは、「気を遣う」こと。気を遣うというのは、第三者のために将来をシミュレーションし、何をやるべきかを察して、今のうちに施すということですよね。それが、まさにデザインなんです。

よく例に出すのは、歩道に大きな石が落ちていて、そのままにすれば誰かが転ぶかもしれない、という状況。誰に言われずとも、石を脇にどけておけば、その事態を避けられるかもしれない。しかも、「誰かがどけてくれた」ことすらも気づかれないのが、行為としてのデザインのあるべき姿だと思うんです。

佐藤卓

―デザインは、目的のための方法だと。

佐藤:そうですね。でも、デザインを目的化してしまう人もいる。昔、先輩から「佐藤くんらしさをもっと出した方がいいんじゃない?」と言われて、「え? デザインで僕らしさを出すってどういうことだろう?」とわからなかった。だって、コップを作ったデザイナーの個性は、コップを使う人には必要ないことだから。

もちろん、個性を押し出すデザイナーもいていいし、それを楽しむ人がいてもいいと思う。だけど、方法としてのデザインのあり方が、もっと認識されてもいい。その問題意識は、すべての活動につながっていると思います。自分を押し出す人は、時代が変わってもスタイルが変わらないけど、僕は自分を殺しているので、つねに変わって当然だと思っているんです。

―みんながバラバラな時代に、「適切」で当たり前のものを作るという佐藤さんのスタイルは、じつはすごく強いデザインなのではないか、とも思いました。最後に、富山県美術館に寄せる期待を聞かせてください。

佐藤:何と言っても、「アート&デザイン」という言葉をつけたこと。日本の美術館としては初めてですね。デザインというキーワードを掲げたのは、素晴らしいと思う。でも逆に言うと、覚悟をしてもらわないといけないということでもある(笑)。富山県美術館がデザインをどう捉えているのか、世界から問われるわけですから。だけど、掲げることによって、考えなくちゃいけない状態が生まれることは大事だと思うんです。

佐藤卓

―そんな富山県美術館で、どんな試みがあったらいいなと思いますか?

佐藤:たとえば日本美術の代表的な作品に尾形光琳の『紅白梅図屏風』がありますが、あれはグラフィックとしてはアートの領域で捉えられるけど、空間を間仕切るプロダクトでもあるわけですよね。当時は明確にデザインという概念はなかったけど、かなりその要素が強い。

そう考えると、すべてのアートをデザイン的な視点から見ることもできると思うんです。絵画は絵の具を使っていますが、絵の具だってプロダクトのひとつですよね。絵一枚を、デザインの側面から解剖するような取り組みがあっても、いいんじゃないかと思います。

―それは面白そうですね。

佐藤:同じ作品を、アートとデザインの側面から分析できる。富山県美術館はその二つの視点を持っているわけで、これはとても意味があることだと思います。それをぜひ、深めてほしいですね。従来のアートとデザインという概念が、一回壊れることによって、それらがどういうものなのか、あらためて考えるきっかけも生まれると思います。

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美術館情報

富山県美術館

3月25日(土)よりアトリエ、レストラン、カフェなどが一部開館した。4月29日(土)には屋上庭園「オノマトペの屋上」が開園。8月26日(土)には全面開館し、開館記念展『LIFE-楽園をもとめて』(~11月5日)がスタートする。

美術館
時間:9:30~18:00(入館は17:30まで)
休館日:毎週水曜日(祝日除く)、祝日の翌日、年末年始

オノマトペの屋上
時間:8:00~22:00
休園:12月1日~3月15日

プロフィール

佐藤卓(さとう たく)

1979年東京藝術大学デザイン科卒業。81年同大学院修了。株式会社電通を経て、84年佐藤卓デザイン事務所設立。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」などの商品デザイン、「ISSEY MIYAKE PLEATS PLEASE」グラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」、「国立科学博物館」、「全国高校野球選手権大会」などのシンボルマークを手掛ける。またNHK教育テレビ『にほんごであそぼ』企画およびアートディレクー・『デザインあ』総合指導、21_21 DESIGN SIGHTディレクターを務める。著書に『デザインの解剖』シリーズ(美術出版社)、『クジラは潮を吹いていた。』(DNPアートコミュニケーションズ)。

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