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佐藤卓が考える身体的デザイン論。よいデザインは気づかれない?

佐藤卓が考える身体的デザイン論。よいデザインは気づかれない?

富山県美術館
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

僕のデザインは「やりたいこと」ではなくて、「やるべきこと」をやっているんです。

―身体感覚といえば、佐藤さんはサーフィンもやられるそうですね。

佐藤:最近は寒い時期にはやっていませんが、大好きでね(笑)。サーフィンなんて、身体と環境の関係そのもの。波が来たときに何かを考えていたら乗れません。経験を積むと意識しないでボードに立てる。スポーツはそういうものですよね。

それと、昔はバンドもやっていて、レコードジャケットからグラフィックデザインの世界に入ったようなものですが、音楽も理屈抜きで感動する。スポーツや音楽から考えさせられることは多いです。

佐藤卓

―サーフィンも、波という環境とボード、そして自分が、ある一点でうまく作用したときに乗れるわけですよね。それはさきほどの、ガムのパッケージの話とも通じていると感じます。

佐藤:そうですね。環境というものを人はどんな風に感じるのか、できるだけ体験的にシミュレーションするんです。サーフィンで言えば、自分にどれだけ力がないかを自覚しないと、波に巻かれてしまって死んでしまうこともあるんです。

だから自分の状態や、刻々と変化する波の状態を見極めることが大事で、自分を客観的に判断しないと、適切な対処ができない。だからすごく集中します。それはあらゆるデザインに活かせることだと思う。

佐藤卓

―ただ、キャリアが長くなるほど、感覚だけになるのは難しそうです。

佐藤:感覚だけになろうと考えること自体が、脳で考えていることだからね。そこからは逃れられない。でも、この年齢になると、逆にそんな状態になれるところはあるかもしれないけど(笑)。

僕のデザインは「やりたいこと」ではなくて、「やるべきこと」をやっているだけです。デザイナーの仕事の主体は、自分ではなく、デザインを施す対象にある。だから、僕のこれまでの仕事からは、あまりスタイルは感じられないと思います。スタイルを作るつもりも、さらさらないんです。

デザインの目的は人と中身をつなぐことで、そこにデザインがあるなんて意識は必要ない。

―とはいえ、いまおっしゃった「適切」や、「やるべきこと」という言葉は、ある意味で佐藤さんのさまざまなデザインに通底している感覚でもあると思います。

佐藤:考えるのはつねに自分だから、そこにはどうしても何かの個性は出てしまう。だから僕は、個性は出すものではなくて、出てしまうものだと思うんです。

よく、「自分の個性が何かを考えなさい」と教育の現場で言われているけど、あれは完全に間違っていると思います。個性がない人なんて、いないんですよ。なのに「考えろ」と言うから、「自分とは何か」をずっと問うことになってしまう。本来、心配する必要は何もないんです。

佐藤卓

―実際、個性的であるより、「適切」であることの方がずっと難しいかもしれませんね。牛乳のパッケージでは、フォントの非常に細かな調整や混合によって、牛乳にふさわしい見た目を実現したことが知られています。

佐藤:細かく文字配置を調整すると、「デザインが消える場所」があるんです。それを見つけるのが面白くて。パッケージデザインの目的は人と中身をつなぐことで、多くの人にとって、そこにデザインがあるなんて意識は必要ない。牛乳のパッケージにエンターテイメント性を求める人はいませんよね。牛乳だとシンプルにわかればいいわけです。

明治おいしい牛乳
明治おいしい牛乳

佐藤卓

デザインに関わりがない物事なんてない。すべてにデザイン的な人の手が入っています。

―生活の中のそんなデザインの存在を、佐藤さんは先ほどの教育番組や21_21での展覧会企画を通しても、提示されていますね。デザインと社会の接点を作るようなこうした領域に、足を踏み出されたのはなぜだったんですか?

佐藤:そもそも、社会と接点がないデザインというものはないんですよね。メディアでよく使われる「デザイン家電」とか、「デザイナーズマンション」とか、何か特別なものにだけにデザインが施されているような表現は、間違った使い方です。

たとえば、右側通行と決めることによって、多くの人がぶつからずに心地よく生活できる。このルールもデザインの領域です。そう考えると、デザインに関わりがない物事なんてない。政治、経済、医療、福祉、教育、都市……。すべてにデザイン的な人の手が入っています。

佐藤卓

―確かにそうですね。

佐藤:だけど、僕が若かった1980年代に「グラフィックアート」というジャンルが流行しましたが、ときに人はアートとデザインを無闇に混同してしまう。僕はそれが疑問でした。安易に混ぜるのではなく、デザインの領域をしっかり認識しようよと。

「デザイン=特別なもの」という視点ではなく、身の回りを眺めると、生活のあちこちに山ほどデザインは存在している。そうしたことを考えるきっかけを作りたいと思って、あらゆるものをデザインの視点から見る『デザインの解剖』プロジェクトが始まり、それが21_21での『デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法』や教育番組にもつながった。見えないものを見えるようにすることも、デザインの役割であり機能だと思います。

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美術館情報

富山県美術館

3月25日(土)よりアトリエ、レストラン、カフェなどが一部開館した。4月29日(土)には屋上庭園「オノマトペの屋上」が開園。8月26日(土)には全面開館し、開館記念展『LIFE-楽園をもとめて』(~11月5日)がスタートする。

美術館
時間:9:30~18:00(入館は17:30まで)
休館日:毎週水曜日(祝日除く)、祝日の翌日、年末年始

オノマトペの屋上
時間:8:00~22:00
休園:12月1日~3月15日

プロフィール

佐藤卓(さとう たく)

1979年東京藝術大学デザイン科卒業。81年同大学院修了。株式会社電通を経て、84年佐藤卓デザイン事務所設立。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」などの商品デザイン、「ISSEY MIYAKE PLEATS PLEASE」グラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」、「国立科学博物館」、「全国高校野球選手権大会」などのシンボルマークを手掛ける。またNHK教育テレビ『にほんごであそぼ』企画およびアートディレクー・『デザインあ』総合指導、21_21 DESIGN SIGHTディレクターを務める。著書に『デザインの解剖』シリーズ(美術出版社)、『クジラは潮を吹いていた。』(DNPアートコミュニケーションズ)。

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