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田中宗一郎が断言「音楽は歴史だ」 音楽と政治の関係への見解も

田中宗一郎が断言「音楽は歴史だ」 音楽と政治の関係への見解も

SPOON『Hot Thoughts』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:小田部伶 編集:山元翔一 取材協力:ABOUT LIFE COFFEE BREWERS

一つひとつのアルバムに対して、ここまで具体的なプロダクションのアイデアを持って、それに即した楽曲を書いているロックバンドは思いつかない。

―『Ga Ga Ga Ga Ga』は全米10位を獲得した作品ですが、やはりあのアルバムが彼らのターニングポイントという印象ですか?

田中:先の3枚を僕は「インディー3部作」と呼んでるんですけど、サウンドは硬質、歌詞も曖昧で抽象的な作品だったんですよ。「明確なメッセージを乗せたエモーショナルなメロディーを歌う」ということに、興味はありつつも技術が追いついていない感じ。それが、『Ga Ga Ga Ga Ga』で1960年代ソウル、R&B、ロックンロールにつながる、ソングオリエンテッドな、つまり楽曲志向へとシフトした。アナログな音質で、楽器数も細かいパーカッションや管楽器などがグッと増えて。

『Ga Ga Ga Ga Ga』収録曲
『Kill the Moonlight』収録曲

―サウンドプロダクション的にも、それまでの流れとはかなり違うことをやっていますよね。

田中:バンドメンバーのブリットとジム・イーノ(Dr)の、セルフプロデュースに対する意識もここから高まっていったんだと思います。二人ともプロデューサーとしても一角なんですよ。停滞気味だった!!!(Chk Chk Chk)を復活させたのは、ジム・イーノがプロデュースを買って出たからですし。それに2007年は優れたアルバムが本当にたくさんリリースされた年ですが、なかでも『Ga Ga Ga Ga Ga』は非常に印象に残りましたね。いい意味で完全に異質だった。このアルバムを含めたここ最近の3枚、『Transference』(2010年)、『They Want My Soul』(2014年)ついては、どれもリリースされるごとに驚かされました。

―『Ga Ga Ga Ga Ga』は、フィオナ・アップルなどを手がけたジョン・ブライオンが1曲プロデュースしています。他のアルバムのマイナーチェンジも、プロデューサーによるところは大きいのではないでしょうか。

田中:おっしゃる通りだと思います。SPOONというバンドは、ソングライティングの部分だけでなく、サウンドプロダクションの部分をどう更新させていくかをすごく意識的に考えている。『Girls Can Tell』からずっと一緒に仕事をしているマイク・マッカーシーがほぼハウスエンジニア的な立ち位置になって、そこにジョン・ブライオンや、ここ最近の数枚を手がけるデイヴ・フリッドマンの力が加わって、音色的な部分を含めての更新がなされているのだと思います。

田中宗一郎

―同感です。

田中:今、一つひとつのアルバムに対して、ここまで具体的なプロダクションのアイデアを持って、それに即した楽曲を書いているロックバンドは、そんなに思いつかないんですよね。たとえばRADIOHEADにしても、意外と楽曲ありきで、あとから「さて、プロダクションをどうしよう?」って考えているような気がするし。そしてRADIOHEADには、ナイジェル・ゴドリッチという、バンドと絶妙な距離感を持っているプロデューサーがいますからね。実質彼を入れた6人体制でアルバム制作を行っているというのも、メンバー内にプロデューサー的な存在が二人もいるSPOONとは、大きく違うのかもしれないですね。

音楽をいろいろ聴いていくと、どこかで「音楽って結局、歴史なんだ」って壁にぶち当たっちゃうんですよ。

―それと、ここ最近のブリットのボーカルは、プリンスにも近いものを感じてて。特に『Hot Thoughts』においては、その色が強いように思います。

SPOON『Hot Thoughts』
SPOON『Hot Thoughts』(Amazonで見る

田中:どこから話したらいいだろう……。僕、ここ最近のSPOONに対して、新しいアルバムが出るたびに半分ゲームのような「見立て」をしてるんですね。たとえば、『Ga Ga Ga Ga Ga』のことを「CORNELIUSがプロデュースしたTHE KINKS」といったふうに。で、今作の作品像を掴むための作品としてふさわしいのは「デヴィッド・ボウイの『Lodger』(1979年)と、Kompakt(ドイツのテクノレーベル)が2000年代以降に出したコンピレーション」だと思って(笑)、それを本人に会ったときにぶつけてみたんですよ。

―へえ! なんて言ってました?

田中:今回のレコーディング中は、とにかくデヴィッド・ボウイとプリンス聴いていたんだそうです。最終的な彼の答えは、「ボウイの『Low』(1977年)とプリンスの『Dirty Mind』(1980年)」だったんですけど、それを聞くとかなり腑に落ちますよね。ドープな空気感は『Low』に由来するものだし、リズムオリエンテッドでドンシャリなサウンドは、ボウイとプリンスどちらにも共通する。

デヴィッド・ボウイ『Low』収録曲

田中:と同時に『Ga Ga Ga Ga Ga』ぐらいから顕在化したポイントとして、もともとはポストパンクリバイバル的なところから出発しつつも、60年代のオーセンティックなソウルやR&B、もしくはそれに影響を受けた初期のTHE BEATLESや60年代英国のロックバンドへの愛着がものすごく大きいんだと思います。

それに、ここまでに僕が挙げたバンドやアーティスト以外に、SPOONはエルヴィス・コステロと比較されることも多くて。コステロのバックグラウンドにも、いろんなブラックミュージックがあるじゃないですか。そういう系譜に位置するバンドでもあるんだと思いますね、SPOONは。

―楽曲の構造はシンプルなのに、1曲のなかに含まれる情報量がものすごく多いですよね。いろんなバンドやアーティストの影響が散りばめられているから、聴く人のバックグラウンドによっても、聴こえ方が変わってくるのかなと。

田中:まさに。リスナーそれぞれにとって、作品自体がまるで映し鏡のように、自分を投影することもできる。なので、「SPOONはこういう音楽だ」って言いにくいんですよ。一言で語るにはあまりにも多面的すぎる。

たとえばRADIOHEADの『KID A』(2000年)だと、AutechreやAphex Twinらが属する「Warp Records」系のIDM(インテリジェントダンスミュージック)と、ジャズ畑のベーシストでありながら、コンテンポラリーなバレエ音楽もコンポーズしたチャーリー・ミンガスのような特異なソングライターのかけ算である、という言い方でわりと誰もが腑に落ちるわけです。

田中宗一郎

―たしかにそうですね。

田中:でもSPOONに関して言うと、RADIOHEADのような、わかりやすい、誰もが共有できる方程式みたいなものが成り立たないくらい、いろんなかけ算でできているんです。だから、様々な音楽をたくさん聴いている人ほど、すごく面白い音楽なんだけど、ざっくり聴いてしまうとその微細な要素まで読み取れないのかもしれない。リスナーの引き出しの多さが試される音楽というか(笑)。

―なるほど。そこで思うのが、田中さんの場合、音楽の引き出しが豊富なのは前提で、音楽を音楽としてのみ聴いていらっしゃるわけではないですよね? 今回お話を伺っていて、そう感じたのですが。

田中:音楽をいろいろ聴いていくと、どこかで「結局、音楽って歴史なんだ」って壁にぶち当たっちゃうんですよ。アミリ・バラカ(リロイ・ジョーンズ)っていう黒人音楽評論家がいるんですけど、彼の著作の1行目が「音楽は歴史だ」から始まっていて。

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リリース情報

SPOON『Hot Thoughts』
SPOON
『Hot Thoughts』日本盤(2CD)

2017年3月17日(金)発売
価格:2,376円(税込)
OLE-11372

[CD1]
1. Hot Thoughts
2. WhisperI'lllistentohearit
3. Do I Have to Talk You Into It
4. First Caress
5. Pink Up
6. Can I Sit Next To You
7. I Ain't The One
8. Tear It Down
9. Shotgun
10. Us
[CD2]
1. Hot Thoughts(David Andrew Sitek Remix)
2. Can I Sit Next To You(Tyler Pope of LCD Soundsystem Remix)
3. Can I Sit Next To You(ADROCK Remix)

イベント情報

『club snoozer』

2017年4月14日(金)
会場:大阪府 CLUB CIRCUS

2017年4月15日(土)
会場:愛知県 名古屋 Live & Lounge Vio

プロフィール

SPOON
SPOON(すぷーん)

1993年、ブリット・ダニエルとジム・イーノにより結成。バンド名はドイツのバンド、CANの曲名“Spoon”より命名された。1996年、「Matador」と契約し、1stアルバム『Telephono』をリリースすると、PixiesやWireを引き合いに各プレスで高い評価を獲得。以降、『A Series of Sneaks』(1998年)、『Girls Can Tell』(2001年)、『Kill The Moonlight』(2002年)とリリースを重ね、2005年にリリースした5thアルバム『Gimme Fiction』で全米44位の好セールスを記録。6thアルバム『Ga Ga Ga Ga Ga』(2007年)では全米10位、7thアルバム『Transference』(2010年)と8thアルバム『They Want My Soul』(2014年)はともに全米4位にチャートインし、名実ともにUSインディーシーンにおけるトップバンドの地位にのぼりつめる。2017年3月、共同プロデューサーにデイヴ・フリッドマンを迎えた9thアルバム『Hot Thoughts』をリリースした。

田中宗一郎(たなか そういちろう)

編集者、音楽評論家、DJ。1963年、大阪府出身。雑誌『rockin’on』副編集長を務めたのち、1997年に音楽雑誌『snoozer』を創刊。同誌は2011年6月をもって終刊。2013年、小林祥晴らとともに『The Sign Magazine』を開設し、クリエイティブディレクターを務める。自らが主催するオールジャンルクラブイベント、『club snoozer』を全国各地で開催している。

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