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田中宗一郎が断言「音楽は歴史だ」 音楽と政治の関係への見解も

田中宗一郎が断言「音楽は歴史だ」 音楽と政治の関係への見解も

SPOON『Hot Thoughts』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:小田部伶 編集:山元翔一 取材協力:ABOUT LIFE COFFEE BREWERS

「音楽に政治を持ち込むな」って言っている人たちがいたじゃないですか? でも、作品を買った時点で、聴いた時点で、音楽は政治的な行動になるんですよ。

―「音楽は歴史だ」というのは、どういうことなのでしょうか?

田中:そもそも音楽って時代や社会、政治や経済の問題と切り離せないんですよ。特にロックの場合、その源泉であるブルーズそのものが象牙海岸から始まるアフロアメリカンの歴史とは不可分ですよね。あるいは、THE BEATLESがアメリカで爆発的に売れたのは、『エド・サリヴァン・ショー』というテレビ番組によるところがあるし、そのあとTHE WHOやLED ZEPPELINっていうブリティッシュバンドが売れるようになったのは、アメリカ中にDIYのFMラジオ局がたくさんできて影響力を持ったから。産業の変化とも不可分なんです。

マイケル・ジャクソンが初めて黒人ミュージシャンであれだけ売れるようになったのは、全米中のFM局で「ブラックミュージックはNO」と言われていたなかで、新興のメディアだった『MTV』が取り上げたからですし。

田中宗一郎

―メディアの発展という視点で見ると、政治の歴史も大きく関わっていると。

田中:そうなると、あらゆる音楽は、すべて政治や経済とつながっているという事実に直面せざるを得ない。だから単純に自分自身の快楽のために音楽は聴けなくなってしまうんです。たとえば、ロックの定義ってなんだと思いますか?

―……様々なレイヤーがあるので、一言で表すのは難しいですね。

田中:いろいろありますけど、アール・パーマーが発明した2拍4拍を強調したバックビートのことを言うんだっていう考えがひとつあります。アール・パーマーがリトル・リチャードやファッツ・ドミノのバックで例のバックビートを叩かなければ「ロック」は生まれなかった。これは絶対的な事実なわけです。

田中:でも、「俺たちはロックだ!」って言っている「J-ROCK」のバンドの大半は、アール・パーマーが8ビートを生み出したから、今の時代に「ロック」と呼ばれるサウンドがあるということを知らないですよね? おそらくファンもそう。これ、極論すると、ヒロシマ / ナガサキのことを知らないのと同じなんですよ。少なくとも知っておいた方がいい。もちろん、知っていることで足かせになることもあるんですけど、歴史や背景に目を向けることで視界が開けるんですよね。

そうなると、音楽を音楽としてだけ聴いていられなくなっちゃうんです。産業の問題としても聴いちゃうし、政治や経済と関わるものとして聴いてしまう。ただ同時に、現実から目を背けさせてくれる逃避主義的な音楽は大好きなんですけどね。それこそがまず音楽の大切な役割だとも思うから。

―歴史や政治的背景を知ることで「視界が開ける」、そして作品を受け取るための解像度が上がるっていうのは大事なことですよね。

田中:一方で、去年「音楽に政治を持ち込むな」って言っている人たちがいたじゃないですか?(『FUJI ROCK FESTIVAL』に「SEALDs」の元代表・奥田愛基の出演が発表された際、SNSを中心に議論が巻き起こった) 俺もそう思うんです。政治的な主張を持っているメッセージソングはノーサンキュー。工夫のないものは特に。

―音楽をプロパガンダの道具にされることに対しては、拒否反応があるということですね。

田中:ただ同時に、これも極論かもしれないけど、ある作品を聴いた時点で、買った時点で、それも政治的な行動なんですよ。そこからは逃れることができない。それが意識されていないというのは、今の社会において音楽というアートが趣味の慰みものに堕している証明だと思います。

田中宗一郎

―音楽がこの世に生きる人によって作り出されるものであり、お金を支払って楽しんでいるものである以上、それは政治や経済活動の一端で。つまり突き詰めると政治的行動でもある。だからこそ、音楽を聴くことを通して、作品の向こう側にあるものにも目を向けざるを得なくなると。では最後になるのですが、田中さんが今後やろうと思っていらっしゃることを教えていただけますか。

田中:やろうと思ってることは山ほどあるんですけど、とにかく自分がキャパシティの低い小者なので(笑)。数年前から「やりたい!」って言ってることの20%も手をつけていないという状況なんですよ。残り80%を、60歳を迎えるまでのあと6年でどれだけできるか……。それ以降にやりたいこともたくさんありますしね。

ただ、まずこの6年でいろんな若い方にバトンを渡していきたいんです。もう俺、50代でしょ? 50代の人間がテイラー・スウィフトやヘイリー・スタインフェルドについて語っても、なにも面白くない。やっぱりリスナーやアーティストと同世代の人が、その視点からでしか見えないことを語ったりしたほうが面白いじゃないですか。

―ええ。

田中:そうやって、10代から40代まで、それぞれの視点を合わせれば、音楽を捉える視座も豊かになる。そういうことを、テキストベースでも編集ベースでも、産業ベースでも作れないかなという思いは、常に軸としてあります。それを具体的にどう落とし込んでいくかは、様々なところでトライアルしようとはしてるんだけど、一人じゃどうにもならない。二人でもどうにもならない。だからCINRAさん、協力してください(笑)。

田中宗一郎

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リリース情報

SPOON『Hot Thoughts』
SPOON
『Hot Thoughts』日本盤(2CD)

2017年3月17日(金)発売
価格:2,376円(税込)
OLE-11372

[CD1]
1. Hot Thoughts
2. WhisperI'lllistentohearit
3. Do I Have to Talk You Into It
4. First Caress
5. Pink Up
6. Can I Sit Next To You
7. I Ain't The One
8. Tear It Down
9. Shotgun
10. Us
[CD2]
1. Hot Thoughts(David Andrew Sitek Remix)
2. Can I Sit Next To You(Tyler Pope of LCD Soundsystem Remix)
3. Can I Sit Next To You(ADROCK Remix)

イベント情報

『club snoozer』

2017年4月14日(金)
会場:大阪府 CLUB CIRCUS

2017年4月15日(土)
会場:愛知県 名古屋 Live & Lounge Vio

プロフィール

SPOON
SPOON(すぷーん)

1993年、ブリット・ダニエルとジム・イーノにより結成。バンド名はドイツのバンド、CANの曲名“Spoon”より命名された。1996年、「Matador」と契約し、1stアルバム『Telephono』をリリースすると、PixiesやWireを引き合いに各プレスで高い評価を獲得。以降、『A Series of Sneaks』(1998年)、『Girls Can Tell』(2001年)、『Kill The Moonlight』(2002年)とリリースを重ね、2005年にリリースした5thアルバム『Gimme Fiction』で全米44位の好セールスを記録。6thアルバム『Ga Ga Ga Ga Ga』(2007年)では全米10位、7thアルバム『Transference』(2010年)と8thアルバム『They Want My Soul』(2014年)はともに全米4位にチャートインし、名実ともにUSインディーシーンにおけるトップバンドの地位にのぼりつめる。2017年3月、共同プロデューサーにデイヴ・フリッドマンを迎えた9thアルバム『Hot Thoughts』をリリースした。

田中宗一郎(たなか そういちろう)

編集者、音楽評論家、DJ。1963年、大阪府出身。雑誌『rockin’on』副編集長を務めたのち、1997年に音楽雑誌『snoozer』を創刊。同誌は2011年6月をもって終刊。2013年、小林祥晴らとともに『The Sign Magazine』を開設し、クリエイティブディレクターを務める。自らが主催するオールジャンルクラブイベント、『club snoozer』を全国各地で開催している。

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