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田中宗一郎が断言「音楽は歴史だ」 音楽と政治の関係への見解も

田中宗一郎が断言「音楽は歴史だ」 音楽と政治の関係への見解も

SPOON『Hot Thoughts』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:小田部伶 編集:山元翔一 取材協力:ABOUT LIFE COFFEE BREWERS

雑誌では簡単にできて、ウェブではどうにもできないことがある。

―2011年8月号をもって雑誌『snoozer』を終刊され、現在はウェブサイト「The Sign Magazine」のクリエイティブディレクターを務めている田中さんですが、雑誌からウェブに移行したことで、音楽メディアとして情報を発信する際の意識も大きく変わったのではないでしょうか。

田中:雑誌では簡単にできて、ウェブではどうにもならないことがあります。それは、「『面とヒエラルキー』を用いて『文脈と体系』を伝える」ということ。どういうことかというと、雑誌というのは書店に並んだ表紙を見た瞬間に、なにをメルクマール(指標)としているのかが一瞬にしてわかる。そして、手に取ってパラパラとページをめくっていけば、巻頭8ページの記事があり、後ろには2ページの記事がある。この雑誌にとって、どの記事が重要なのかが10秒でわかりますよね。

田中宗一郎

―そうですね。

田中:さらに音楽雑誌なら、ディスクレビューのコーナーがあって。合評で複数人が批評しているアルバムもあれば、1人が書いているアルバムもある。文字数も、後ろのページに進むに従って少なくなっていく。つまりヒエラルキーが存在しているわけです。

それを年間続けてチラ見していくだけで、「あ、なるほど。この1年間の音楽シーンを、この雑誌はこういうパースペクティブ(視座)で見ているんだな」というのが伝わる。それに賛同するにしろ、しないにしろ。「文脈と体系」が手に取るようにわかるわけです。でも、ウェブでそれと同じことをやろうと思っても、非常に難しい。

―記事を相対化しつつアーカイブしていくということに関しては、ウェブは雑誌よりも長けていますけどね。

田中:CINRAさんや「The Sign Magazine」がどんなに頑張って体系を作ろうとしても、ユーザーはSNSを使って個々の記事を断片的にピックアップしていく。CINRAさんが記事を10本作って「文脈と体系」を見せようと思っても、読者は全体を把握することなく「断片」にアクセスする。つまり、そこから文脈が剥がされてしまい、雑誌のように一瞬にして全体の体系が伝わることにはならない。なかなかに難しいんです(笑)。

だから僕らは、記事を10本上げるときには、それぞれ共通の文脈を持てるようにしています。あるいはひとつの記事のなかに、様々なリファレンスを埋め込む。たとえば、SPOONの記事のなかに、アーティストの名前を20個ぐらい出すわけです。そうやって文脈を伝えようとするし、10本の記事にはなにかしらの連続性があって、「文脈と体系」を提示していることを伝えようとしている。だけど、これはほぼ徒労に終わるんですよ(笑)。どの程度伝わっているのか、さっぱりわからない。

田中宗一郎

―うーん、なるほど……。

田中:本にしたとき、台割り / ページネーションだけで伝えることのできた「文脈と体系」が、ウェブだとなかなか伝わらない。SPOONというバンドの魅力を伝えようとしても、タイトルだけ見て、自分とは関係ないと思ってしまう。SPOONそのものの魅力を伝えるには、じゃあエド・シーランと比べるとどうなのか、RED HOT CHILI PEPPERSやスフィアン・スティーヴンス、あるいは星野源と比べたときに、どういう接点があるのか、相違点からなにが見えてくるのか。文脈や体系のなかから、個々の魅力を浮かび上がらせる。本当はそういうやり方が一番適切なんだけど、そういう記事がウェブだと作りにくいんですよね。

SPOONの音楽には、英米の歴史、1990年代のオルタナティブ、80年代のポストパンク、2000年代のUSインディーの歴史が、全て網の目状に入っている。

―たしかに、ウェブで気軽に情報収集ができるようになったことに加えて、サブスクリプションも普及して、受け手は好きな情報や作品にいくらでもアクセスできるようになっていますよね。その結果か、最近は「文脈と体系」を意識しながらインプットしていく行為自体が、難しくなっているように思います。それは音楽だけじゃなくて、映画やアートでも。

田中:特にSPOONのようなバンドは、「文脈と体系」を意識したほうが、リスニング体験も豊かになるんです。「俺は、どのバンドよりもSPOONが好きだ」「SPOONだけ聴いていれば満足」という聴き方よりも、SPOONの音楽の向こう側にある、ジョン・レノンやプリンスを感じたほうが絶対に楽しい。

田中:彼らの音楽には、英米の歴史、1990年代のオルタナティブ、80年代のポストパンク、2000年代のUSインディーの歴史が、全て網の目状のタペストリーとなって入っている。だからこそ、聴けば聴くほど面白いんですよ。日本だと、たとえばceroの音楽を聴けば、そういうリスニング体験ができますよね。

―そういう意味でSPOONは、音楽や映画、アートなどを紐づけ、体系化していくCINRA.NET読者にぴったりのバンドだと思います。

田中:なにより、ボーカルのブリット・ダニエルは超かっちょいい(笑)。今、ロックのボーカリストで、あんなにハスキーな声で、バリトンからファルセットまで歌える人はいない。彼はジョン・レノン的とも言えるし、アル・グリーン的という言い方もできるんです。

―様々な音楽的要素が絡み合っているSPOONの魅力を解き明かしていただきたいのですが、SPOONを聴いた田中さんの第一印象はどんなものでしたか?

田中:初めて聴いたのは、2ndアルバム『A Series of Sneaks』(1998年)だったと思います。印象としては、グランジ以前のたとえばHUSKER DUやPIXIESらの流れに位置しつつ、WIREやGANG OF FOURら、70年代後半のUKポストパンク勢に何かしらの回答を出すようなサウンドで、同時期で言えばMODEST MOUSEやTHE DISMEMBERMENT PLANなどと同じ系譜に位置するバンドだなと思いました。ただ、彼らと比べると少々地味に感じましたね。

『A Series of Sneaks』収録曲
PIXIES『Doolittle』(1989年)収録曲

―最初は、さほどインパクトがなかった。

田中:そう。SPOONはそのあとメジャーをドロップして、2001年から2005年にかけて、『Girls Can Tell』(2001年)、『Kill the Moonlight』(2002年)、『Gimme Fiction』(2005年)と3枚のアルバムを出すんですね。それぞれにいいアルバムだし、出すたびに確実にマイナーチェンジしていく冒険的なバンドではあるんだけど、たとえばRADIOHEADのようにドラスティックな変化があるわけではない。そういう意味でも、やはり強いインパクトはなかったんですよね、2007年の『Ga Ga Ga Ga Ga』が出るまでは。

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リリース情報

SPOON『Hot Thoughts』
SPOON
『Hot Thoughts』日本盤(2CD)

2017年3月17日(金)発売
価格:2,376円(税込)
OLE-11372

[CD1]
1. Hot Thoughts
2. WhisperI'lllistentohearit
3. Do I Have to Talk You Into It
4. First Caress
5. Pink Up
6. Can I Sit Next To You
7. I Ain't The One
8. Tear It Down
9. Shotgun
10. Us
[CD2]
1. Hot Thoughts(David Andrew Sitek Remix)
2. Can I Sit Next To You(Tyler Pope of LCD Soundsystem Remix)
3. Can I Sit Next To You(ADROCK Remix)

イベント情報

『club snoozer』

2017年4月14日(金)
会場:大阪府 CLUB CIRCUS

2017年4月15日(土)
会場:愛知県 名古屋 Live & Lounge Vio

プロフィール

SPOON
SPOON(すぷーん)

1993年、ブリット・ダニエルとジム・イーノにより結成。バンド名はドイツのバンド、CANの曲名“Spoon”より命名された。1996年、「Matador」と契約し、1stアルバム『Telephono』をリリースすると、PixiesやWireを引き合いに各プレスで高い評価を獲得。以降、『A Series of Sneaks』(1998年)、『Girls Can Tell』(2001年)、『Kill The Moonlight』(2002年)とリリースを重ね、2005年にリリースした5thアルバム『Gimme Fiction』で全米44位の好セールスを記録。6thアルバム『Ga Ga Ga Ga Ga』(2007年)では全米10位、7thアルバム『Transference』(2010年)と8thアルバム『They Want My Soul』(2014年)はともに全米4位にチャートインし、名実ともにUSインディーシーンにおけるトップバンドの地位にのぼりつめる。2017年3月、共同プロデューサーにデイヴ・フリッドマンを迎えた9thアルバム『Hot Thoughts』をリリースした。

田中宗一郎(たなか そういちろう)

編集者、音楽評論家、DJ。1963年、大阪府出身。雑誌『rockin’on』副編集長を務めたのち、1997年に音楽雑誌『snoozer』を創刊。同誌は2011年6月をもって終刊。2013年、小林祥晴らとともに『The Sign Magazine』を開設し、クリエイティブディレクターを務める。自らが主催するオールジャンルクラブイベント、『club snoozer』を全国各地で開催している。

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