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津田大介×国境なき医師団 日本の悪循環を断ち切るメディア戦略

津田大介×国境なき医師団 日本の悪循環を断ち切るメディア戦略

国境なき医師団「病院を撃つな!」キャンペーン
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之、野村由芽

「国境なき医師団」創設の背景と、その理念

加藤:そうなってくると、私たちの活動は、ますます難しくなってくる。国境なき医師団は、医師とジャーナリストが創設した団体なので、「伝える」ということは、非常に重要な要素なんですが。

―そもそも国境なき医師団とは、どういった背景から始まったのでしょうか?

加藤:ナイジェリア内戦で独立したビアフラの飢餓を救うべく活動していた国際赤十字(戦争での傷病者や捕虜の救護活動を目的に設立された国際組織)のメンバーが、現地での活動だけでは救えない人たちを救うために、もっと世の中に現状を伝えていく必要があると考えたのですが、当時の赤十字には沈黙の原則があったため、証言活動が許されませんでした。

それなら新しい組織を立ち上げようということで始まったのが国境なき医師団です。ですから、「現地での医療活動」と「証言活動」は、国境なき医師団にとってどちらも欠かすことのできない重要な2本の柱なのです。

左から:津田大介、加藤寛幸

津田:赤十字と、ある種の思いは同じだけれども、やり方が違うと。

加藤:そうです。そういう中で、私たちの信念である中立性、公平性、独立性を保ちながら―つまりすべての政治的な勢力や権力から距離を置くというスタンスを取りながら、現地で見たことを、私たちの患者さんを救うために伝えてきました。

でも今、世の中の人たちは無関心を選び、テクノロジーの進歩は、それをますます後押ししているような状況がある。これから先、国境なき医師団として、証言活動をどういう形で次の世代を担う若い人たちに伝えていくのか、本当に大きな課題です。

火傷を負ったシリアの男の子。民間人を巻き込む無差別攻撃で人びとは追い詰められている ©MSF
火傷を負ったシリアの男の子。民間人を巻き込む無差別攻撃で人びとは追い詰められている ©MSF

シリア内戦が始まってから6年が過ぎてなお事態は収まらず、その苦しみは国内外に広がっている ©MSF
シリア内戦が始まってから6年が過ぎてなお事態は収まらず、その苦しみは国内外に広がっている ©MSF

「病院を撃つな!」キャンペーンの背後にある、現地の絶望的な状況

―国境なき医師団は、昨年5月より「病院を撃つな!」キャンペーンを展開してきました。その背景と主旨について、改めて教えていただけますか?

加藤:まず、紛争地で医療を行う病院への攻撃がここ数年で急増し、今なお継続しているという現実があります。しかし、地理的に離れていることも影響してか、その現実がなかなか認知されていません。

去年1年で、国境なき医師団が支援・運営する施設だけで50回以上も爆撃を受けています。シリアでは、毎週のように病院が攻撃されているような現状です。大国の利益だけが基準となって、そこで起こっている事態が問題化されることもあれば、逆に見過ごされたり無視されるケースもあります。理由はなんであれ。

病に苦しむ人たち、傷ついた人たちが助けを求める医療機関が攻撃されることなど言語道断だと私たちは考えており、この問題を、みなさんに考えてもらいたいというのが、私たちがこの「病院を撃つな!」キャンペーンをやってきた理由です。

2015年10月3日、アフガニスタン北部クンドゥーズで国境なき医師団が運営していた病院が米軍によって1時間以上にわたる空爆を受けた ©Andrew Quilty
2015年10月3日、アフガニスタン北部クンドゥーズで国境なき医師団が運営していた病院が米軍によって1時間以上にわたる空爆を受けた ©Andrew Quilty

管理棟に負傷者が殺到し、無事だったスタッフが仮設の手術室で救命救急に全力を尽くしたが、患者、スタッフを含む計42人が死亡した ©MSF
管理棟に負傷者が殺到し、無事だったスタッフが仮設の手術室で救命救急に全力を尽くしたが、患者、スタッフを含む計42人が死亡した ©MSF

―津田さんは、国境なき医師団の施設が爆撃されたことについて、どのように感じましたか?

津田:そのニュースを知ったときは、すごく衝撃を受けました。テロや爆撃のニュースがたくさん報じられることで麻痺しがちになっている部分は僕にもあったのですが、病院や医療機関を爆撃するというのは完全に一線を越えている。

それによって、紛争地に行こうという人もためらうようになるだろうし、現地のインフラも弱くなる。加藤さんにとっても、「まさか、こんなことまで……」という思いがあったのでしょうか?

加藤:おっしゃる通りです。病院が攻撃されるということは、そこにいた患者さんや医療スタッフが亡くなるだけではなく、その地域の医療へのアクセスが失われることを意味します。ですから、その影響は、何百万という人たちに及ぶ可能性があります。これはもう、本当にあってはならないことです。病院というのは、命を守る最後の砦なんです。皆さんやそのご家族がかかる病院の上に爆弾が降ってくることを想像してみて下さい。

爆撃により破壊された病院内部。壁にミサイルが開けた穴が残る ©Victor J. Blue
爆撃により破壊された病院内部。壁にミサイルが開けた穴が残る ©Victor J. Blue

自分の損得にしか関心を持てないほど、追い詰められている若い世代

―そういう報道やキャンペーンが広まらない原因はどこにあるのでしょうか?

津田:今の日本は、将来が見通せない不安が強くなっていることと関係していると思います。去年の米大統領選でトランプ候補が次期大統領に決まったとき、日本の大学生が軒並み、先生に「大丈夫ですか?」って聞いてきたそうなんですね。それは何に対する不安かというと、トランプが大統領になったことでリーマンショックのような金融危機が起きて、僕らの内定がなくなったらどうしようっていう不安なんですよ。

加藤:ああ、そっちの不安なんですね。まさに、自分の損得の問題として捉えているということですね。

津田:まだ就職が決まってない若者であるからこそ、自分たちが歴史的な大きな変化の潮目にいて、世界の情勢や紛争がどうなるんだろう、というような想像力を持った方がいいと思うんですよね。社会人になったらそういうことを考える時間的余裕もなくなるわけで。だけど今はもう学生のうちから社会人のような不安を抱えざるを得ない。世界がどうなるかよりも、目の前の自分の就職のみになっている。

これは大学生の彼らを責めたいということではありません。むしろそういうことにしか目が向けられないぐらい、生活も含めて今の日本人は追い詰められているということなんだろうなと。

津田大介

―確かに、若い世代は特にそうかもしれないですね。そして、情報を発信する側も海外とでは少し状況が異なるように思いますが、いかがでしょうか。

津田:それは日本のメディア特有の問題でもあるでしょうね。その最たるものが、国際報道です。ニューヨーク・タイムズ、ガーディアン、ルモンドといった世界の高級紙のトップは、基本的に国際ニュースです。ところが日本は、国際面が中面にあって、ページ数もすごく少ない。海外の支局がどんどん閉鎖されているような状況もあって、日本人はどんどん国際ニュースを読まなくなっているんです。

ネットニュースではYahoo!ニュースが世界各国にありますが、そのニュースのトピックス欄を見ると、他国は、ほぼ国際ニュースが並んでいます。しかし日本は多くがエンタメのニュースで占められている状況。国際ニュースを掲載しても読んでもらえないので、ページビューが期待できるゴシップばかりを載せている。

左から:津田大介、加藤寛幸

―その原因はどこにあるのでしょうか?

津田:商業的な面ばかり追いかけざるを得なくなって、メディアが公共的な役割を果たせなくなってしまっているということでしょう。とりわけ日本はメディアが大きなビジネスになっているため、その傾向により拍車がかかっていく。高給取りの人員を大量に抱えているからこそそれを維持することに重きが置かれる。あるいは、メディアの側にも、こんな深刻な問題を真正面から取り上げても、読者は反応してくれない、お金にはならないという先入観がある。

読者や視聴者が反応してくれないからこそ、続けるべきだと思うんですけど、なかなかそうはならない。そんなことをやっているうちに、新聞もテレビもどんどん苦境になってきたから、ますます取り上げなくなっていく。そういう悪循環があるように思います。

加藤:「反応してくれないからこそ、続けるべきだ」というのは、私も全く同感です。そうは言ってもなかなか難しい問題ですね。

ネットで起きたことを、テレビや新聞が後追いしていく構造に見出す活路

―新聞やテレビはそういう状況にある中で、インターネットの存在はどうでしょうか?

津田:最終的にはネットでやっていくしかないんじゃないですかね。この6年ぐらいで、日本のメディアの状況は大きく変わりました。ひとつはスマートフォンの契約数です。2011年の3月の時点で、どれぐらいだったと思いますか?

津田大介

加藤:震災のときですよね。2000万ぐらいでしょうか?

津田:1000万いってないんです。960万ほど。震災のとき、Twitterが注目されましたが、アクティブユーザーは670万人。それが今、スマホの契約数は8000万を超え、Twitterも4000万まで増えたんです。

つまり、6年前は12人に1人しかスマホを持ってなかったのに、今は2人に1人以上がスマホを持つようになっている。Twitterも20人に1人しか使ってなかったものが、今や3人に1人がTwitterで読み書きするような時代になった。

左から:津田大介、加藤寛幸

―そう考えると、かなりドラスティックに変化していますよね。

津田:最近では、ネットできちんと話題になったら、テレビや新聞があとからそれを取り上げてくれるという構造ができてきました。だから、この「病院を撃つな!」のようなキャンペーンを広めるのであれば、まず今はネットに注力する。こういう問題に興味を持つインフルエンサーに取り上げてもらって、それを話題にしてもらうところからスタートするのがいいと思います。

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国境なき医師団「病院を撃つな!」キャンペーン

プロフィール

津田大介(つだ だいすけ)

ジャーナリスト / メディア・アクティビスト。ポリタス編集長。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学文学学術院教授。大阪経済大学情報社会学部客員教授。テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」選出。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。

加藤寛幸(かとう ひろゆき)

1965年生まれ、東京都出身。小児科医。人道援助活動家。北海道大学中退。島根医科大学卒業(1992年)、タイ・マヒドン大学熱帯医学校において熱帯医学ディプロマ取得 (2001年)。東京女子医大小児科、Children's Hospital at Westmead(Sydney Children's Hospital Network)救急部、静岡県立こども病院・小児救急センターなどに勤務。MSF参加後は、スーダン、インドネシア、パキスタン、南スーダンなどへ赴任し、主に医療崩壊地域の小児医療を担当。東日本大震災、エボラ出血熱に対する緊急援助活動にも従事した。

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