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河瀬直美×永瀬正敏が『カンヌ』最高賞ノミネート作『光』を語る

河瀬直美×永瀬正敏が『カンヌ』最高賞ノミネート作『光』を語る

『光』
インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:田中一人 編集:飯嶋藍子

俳優を見守ることも仕事なんです。(河瀬)

―邪魔になるもの、というのは?

河瀬:たとえば、演出部だったら、目の不自由な雅哉が歩く部屋の導線をもう一回自分で歩いてみてもらう。備品が不用意な場所に置いてあったり、照明の足が出ていたり、ということが最低限ないようにしてほしいんです。人間の普段の生活にはそういうものはないじゃないですか。あと、撮影のときは、重要なシーンが終わったあとも、できるだけ俳優に触らないでほしいと伝えます。

河瀬直美

―それはなぜですか?

河瀬:次のシーンへのブリッジとしての時間ってすごく重要なんです。だから、その時間を分断してしまうような、過剰なケアはやめてほしい。スタッフによっては、まるで自分の仕事がなくなってしまったかのように感じると思うのですが、見守ることも仕事なんです。

そこで「生きている」人の時間を切り取るときに、何かやるべきことは必ず出てくるから、そのときのためにすべてを尽くして待っている状態が理想です。

永瀬:そうした場を作るというのは、本当に大変なことだと思うんです。時間をかけるということは、それだけ様々な問題も出てくる。だけど監督はじめ皆さんが、それこそ戦ってそういう場を必死に作ってくれている。それだけ雅哉として生きる時間を大切にしていただけてるんです。だからこそ、演者も本気でそこで生きなければいけない。「永瀬正敏」としてのエゴが少しでも画面に出てはいけないわけです。

30年以上も役者をやっていると、どうしても芝居の垢がついていて、雅哉にとって余計なものをつい上乗せしてしまう。それは全部、監督にバレるんですよね。カットがかかったあとに、「今の、お芝居やったなあ」って……(笑)。言われる前に自分でもちょっと気づいているので、「……ですね」としか言えません。

美佐子(水崎綾女)と失明した雅哉 / ©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE
美佐子(水崎綾女)と失明した雅哉 / ©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

―監督にはお見通しなんですね。

永瀬:そうなんです。人の一生なり半生なりを演じるということは、本来はこうあるべきなんだなとも思います。俳優を生業にしている人は、一度は河瀬組を経験すべきですよ。

愛を持って誰かとコネクトしていこうとする人たちの物語を作りたい。(河瀬)

―今作のトピックとしては、視覚障がいという点が取り沙汰されやすいですが、それ以上に、最初は分かり合えなかった雅哉と美佐子が、やがて正面から向き合っていく物語だと思います。お二人は今作のテーマについてどうお考えですか?

河瀬:『あん』もハンセン病がテーマだと捉えられたりしますが、今回もテーマの間口が狭くて、多くの人にはなかなか伝わらないのではないかという声もありました。でも、あえてマイノリティーの人たちを主人公においているわけではありません。そういった、ジャンルの簡単な切り分け方では表現は届かないと思う。もっと根源的な表現をこの時代に残したいんです。

―根源的な表現というと?

河瀬:『あん』のときに音声ガイドを制作して、初めて今作のモチーフになっている世界に触れたのですが、音声ガイドの皆さんの映画への愛に本当に感動したんですよ。その愛で、目の不自由な人たちに映画を届けようとしていて。

私は、そういう愛を持って誰かとコネクトしていこうとする人たちの物語を作りたい。だから『光』でも「映画ってさ、誰かの人生と繋がることじゃない?」という象徴的な台詞を入れています。

―表面的な繋がりが多い時代に、生を賭けた繋がりを描く作品は、とても貴重なものだと思います。

河瀬:ただ、そうしたメッセージを説教くさく入れてしまうと、映画の世界から必ず浮いてしまう。だから、スッと、それこそ光が差し込んでくるみたいに、軽やかに伝えたくて。そのうえで、何かを失ってしまったときに、執着を超えて新しい光と共に生きていく人たちを描きたかった。

映画『光』メインビジュアル / ©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE
映画『光』メインビジュアル / ©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

―今回の映画のために、実際に視覚障がい者の方々に取材したそうですね。

河瀬:はい。そのなかで、青年時代は田舎で天才的な絵描きとして期待されていたのに、東京に出てきたあとに失明してしまった、という人に出会いました。失明したときは、もう生きている意味はないんじゃないかと思ったとおっしゃっていて、本当に苦しんだそうです。

でも、「もう見えないんだ、そのなかで生きていくんだ」と思い至った瞬間からは、見えない世界での新しい生をまっとうされていて。文章で表現をされたり、ジムでウェイトリフティングにハマって才能を発揮されたり。昔から鍛えていたのか聞いたら、力が強いことに最近気づいたとおっしゃっていました(笑)。

―新しい生きる道を見出されているんですね。

河瀬:そう。その方と喋っていると、こちらがすごく元気になります。何かを失ったあとでも、生というのは光と共にあると思いました。そう、だから、永瀬さんのおじいさんが写真をやめざるをえなかった、というエピソードは本当に印象的で。

―永瀬さんのおじいさんですか?

永瀬:僕の祖父は写真家だったのですが、友人の裏切りで、写真を諦めざるをえなかった人でして。最初に台本を読ませていただいたときは、雅哉と重なる部分があって、泣きそうになりました。

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作品情報

『光』

2017年5月27日(土)から新宿バルト9、丸の内TOEIほか全国公開

監督・脚本:河瀬直美
出演:
永瀬正敏
水崎綾女
神野三鈴
小市慢太郎
早織
大塚千弘
大西信満
堀内正美
白川和子
藤竜也
配給:キノフィルムズ / 木下グループ

プロフィール

河瀬直美(かわせ なおみ)

生まれ育った奈良で映画を創り続ける。1997年劇場映画デビュー作『萌の朱雀』で、カンヌ国際映画祭カメラド-ル(新人監督賞)を史上最年少受賞。2007年『殯の森』で、審査員特別大賞グランプリを受賞。昨年は短編部門、シネフォンダシオン部門の審査委員長を務める。映画監督の他、CM演出、エッセイ執筆などジャンルにこだわらず表現活動を続け、故郷の奈良において『なら国際映画祭』をオーガナイズしながら次世代の育成にも力を入れている。

永瀬正敏(ながせ まさとし)

俳優。写真家としても活動する。1983年『ションベンライダー』で映画デビューし、1990年にジム・ジャームッシュ監督の『ミステリー・トレイン』に出演。1991年には、山田洋次監督の『息子』で、日本アカデミー賞、ブルーリボン賞など多数受賞。2015年には河瀬直美監督『あん』に出演。同作は『第68回カンヌ国際映画祭』の「ある視点」部門に出品され、オープニング上映された。今作『光』で河瀬直美監督と再びタッグを組む。

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