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河瀬直美×永瀬正敏が『カンヌ』最高賞ノミネート作『光』を語る

河瀬直美×永瀬正敏が『カンヌ』最高賞ノミネート作『光』を語る

『光』
インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:田中一人 編集:飯嶋藍子

祖父も写真を撮ることが難しくなってからの人生があった。むしろ、そのほうが長かったわけです。(永瀬)

―おじいさんはなぜ写真を諦めざるをえなかったのですか?

永瀬:祖父は戦前、鹿児島で写真館を営んでいました。戦中戦後は大変だったみたいで、カメラ1台を持って僕の故郷でもある宮崎に帰ってきた。そこで近所の子どもたちの七五三を撮るような、出張カメラマンみたいなことをしていたらしくて。

ただ、それも戦後の混乱期で、家族も多くて食えなくなったので、カメラを知り合いに渡し、買い戻すという約束で米に替えてもらう約束をした。しかし、その友人がカメラをそのまま持ってどこかへ行ってしまったんです。

カメラを覗き込む雅哉 / ©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE
カメラを覗き込む雅哉 / ©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

―それは辛い出来事ですね。

永瀬:そうですよね。厳しい時代だったから、誰も責められないと祖父は言っていたようですが……。やっぱりショックだったんでしょう、それからカメラを持つことはなくなってしまいました。

―じゃあ、永瀬さんは写真家としてのおじいさんはご存知ないのですね。

永瀬:はい。僕もこの仕事を始め、写真も撮るようになって随分経ってから、かつて祖父が撮った写真のネガや研究ノートのようなものを発見したんです。それらを見て「じいちゃんは、本当に写真が好きだったんだなぁ、悔しかっただろうな」って……。もし戦争がなければ、もし友人とそうしたことがなければ、僕は写真館の孫だったんだなって、それを見て思いました。

それから、自分で撮る写真も変わってきましたね。祖父も雅哉と同じように、写真を撮ることが難しくなってからの人生があった。むしろ、そのほうが長かったわけです。だから、僕が雅哉として、この映画に関わらせていただけたことを、祖父もきっと天国で喜んでいると思います。

驕りや執着を超えた先に必ず光はあるんです。(永瀬)

―そういった根源的な思いを、河瀬さんと永瀬さんは共有されていますね。お二人にとって、お互いはどんな存在なのでしょうか。

河瀬:そうですねえ……永瀬さんは、18歳で映画を撮り始めた私にとって、ずっと憧れの存在でした。おそれ多いのですが、永瀬さんの「映画への愛」は本物で、きっとその思いは共有できると思って。それで、『あん』のとき、永瀬さんに絶対出演していただきたいと思ったんです。

でも、芸能界との接点なんてほとんどなくて、どういうルートでお声がけしたらいいのか最初は分からなかった。だから、もう本当にダメ元で、Facebookで「私の映画に出演してください」とメッセージを送ったんです(笑)。

―Facebookですか!?

永瀬:そうそう(笑)。嬉しいと同時に、信じられませんでした。事務所のスタッフとも「嘘でしょ?」って話していた。名前を騙っているんじゃないかと思って……(笑)。

河瀬:ニセ河瀬だと思われてたんだね(笑)。もちろんFacebookでは返事はこなくて、ちゃんと正式にオファーをしたんです。

河瀨直美、永瀬正敏

―憧れである永瀬さんと、実際にご一緒してみていかがでしたか?

河瀬:ものすごく真面目で、丁寧で、ときに不器用にさえ思えるほど実直な方です。先ほどのおじいさんの話もそうですが、きっと永瀬さんの先祖の方々も同じような人々だったんじゃないかと思えるんですね。

―先祖、ですか?

河瀬:私は「人はそこにポッと一人で生まれてきたわけではない」ということを、自分のルーツも探りながら、ずっと表現してきた。だから、いま目の前にいる人以前の人たちとも繋がりたいという感覚があるんです。

―永瀬さんにはそういったことが感じられると。

河瀬:はい。永瀬さんのような先代からの何かとしっかり繋がってきた方を前にすると、そういう人に信頼してもらいたい、自分もそういうことに対してまっとうでいたい、と強く思うんです。

永瀬:ありがとうございます。僕も河瀬監督との信頼関係はもうできていると思っているし、河瀬監督の映画作りは、100%、いやそれ以上に大賛成です。映画のなかにすべてを置いてこようと思っていたので、実際に自宅に帰ってからも、何をしていいのか分からなくて、魂が抜けたような生活をしていました。雅哉の世界がプツンと終わるのが切なくて、お願いして、雅哉の部屋のヤカンとか、変なものをいっぱいもらって帰りましたね(笑)。

二人にとって象徴的な夕日の見える山で口づけを交わす美佐子と雅哉 / ©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE
二人にとって象徴的な夕日の見える山で口づけを交わす美佐子と雅哉 / ©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

―そんな信頼関係と繋がりで作られた映画『光』ですが、どう世の中に届いてほしいですか?

河瀬:「私たちは完璧な存在ではない」ということが伝わればいいですね。人は、どこかで自分が何者よりも優れていると思いがちですが、そんな存在ではまったくないんです。そうした驕りや執着が、もしかしたら世界を壊してしまうかもしれないという感触さえあります。

永瀬:誰かにだけ特別な光が届くわけではなくて、誰にでも、どんなつらい状況にあっても、その驕りや執着を超えた先に必ず光はあるんですよね。このメッセージは、年齢、性別、人種も関係なく、伝わっていくと思います。

映画は時代を超えていくものだから、たとえば小さなお子さんが観ても、まさに美佐子が雅哉の写真に感じたように、「あの夕日がキレイだったなあ」とか、何かしら心に刻まれるものがあるはず。それで10年後に、もう一回また観てもらえたら嬉しいです。

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作品情報

『光』

2017年5月27日(土)から新宿バルト9、丸の内TOEIほか全国公開

監督・脚本:河瀬直美
出演:
永瀬正敏
水崎綾女
神野三鈴
小市慢太郎
早織
大塚千弘
大西信満
堀内正美
白川和子
藤竜也
配給:キノフィルムズ / 木下グループ

プロフィール

河瀬直美(かわせ なおみ)

生まれ育った奈良で映画を創り続ける。1997年劇場映画デビュー作『萌の朱雀』で、カンヌ国際映画祭カメラド-ル(新人監督賞)を史上最年少受賞。2007年『殯の森』で、審査員特別大賞グランプリを受賞。昨年は短編部門、シネフォンダシオン部門の審査委員長を務める。映画監督の他、CM演出、エッセイ執筆などジャンルにこだわらず表現活動を続け、故郷の奈良において『なら国際映画祭』をオーガナイズしながら次世代の育成にも力を入れている。

永瀬正敏(ながせ まさとし)

俳優。写真家としても活動する。1983年『ションベンライダー』で映画デビューし、1990年にジム・ジャームッシュ監督の『ミステリー・トレイン』に出演。1991年には、山田洋次監督の『息子』で、日本アカデミー賞、ブルーリボン賞など多数受賞。2015年には河瀬直美監督『あん』に出演。同作は『第68回カンヌ国際映画祭』の「ある視点」部門に出品され、オープニング上映された。今作『光』で河瀬直美監督と再びタッグを組む。

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