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片渕須直×西川美和対談 盛り上がる日本映画とその未来を語る

片渕須直×西川美和対談 盛り上がる日本映画とその未来を語る

『永い言い訳』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:中村ナリコ 編集:山元翔一

同じく2016年秋に公開され、大きな話題を呼ぶと同時に、年度末には数々の映画賞に輝くなど、高い評価を獲得した2つの日本映画――『永い言い訳』の西川美和監督と、『この世界の片隅に』の片渕須直監督の対談が実現した。

今年2月、ともに出席した『毎日映画コンクール』の授賞式で、初めて言葉を交わしたという二人。実写とアニメという手法の違いはもちろん、性別も年代も異なる両者は、お互いの映画をどんなふうに見たのか。さらには、この2作をはじめ、作品的にも興行的にも、大きな盛り上がりをみせた、昨年の日本映画の状況に対し、二人はそれぞれどんな思いを抱いているのか。

奇しくも『この世界の片隅に』の舞台である広島県の出身である西川と、彼女の作品をすべて見ながら、その核心に「嘘」があることを見抜いた片渕。まったく違うようでいて、随所で思わぬ意気投合ぶりをみせる対談の行方は? 日本映画の未来が、ここにある。

人の心という迷路に分け入っていくのが、西川さんはお好きなんじゃないかなって思いました。(片渕)

―片渕監督は、西川監督の映画『永い言い訳』を、どんなふうにご覧になられましたか?

片渕:以前から西川監督のことは存じ上げていたんですけど、今回の『永い言い訳』を見て……「この主人公は、なんでこういう人柄なんだろう?」っていうことを思ったんですね。それで、1作目の『蛇イチゴ』(2002年)から、西川さんの作品を改めて遡るように全部見させていただいたんです。

西川:ありがとうございます。

左から:片渕須直、西川美和
左から:片渕須直、西川美和

片渕:そうしたら、『永い言い訳』で本木雅弘さんが演じている主人公は、「嘘をついている人」なんだなっていうことが、だんだんわかってきたんです。彼は不倫をしている役でしたけど、西川さんは嘘をついている人物のなかにある真実みたいなものを、撮り続けているんじゃないかなって思って。

―なるほど。

片渕:最初、主人公はあそこまで女性に対してゆるくなくてもいいだろうって思ったんです(笑)。でも、ああいった振る舞い自体に、彼が自分の「正体」に対して嘘をついていることを感じさせて。ある種、自分を装って生きている人ですよね。

片渕:で、そうやって見ると、『蛇イチゴ』の宮迫(博之)さんとか、『ディア・ドクター』(2009年)の(笑福亭)鶴瓶さんとか、みんないろんな類の嘘つきなんですよね。嘘をついている人だからこそ、最後の瞬間にポロッと真実が出てきたときに、「ああ、やっぱり人の心って、こうありたいよね」っていう思いが、作品としてちゃんと込められているように感じて。それがすごく印象的でした。人の心というのは迷路のようになっていて、そこに分け入っていくのが、西川さんはお好きなんじゃないかなって思いました。

嘘で覆い隠したもののなかに、自分自身の本当の姿があるような気がしているんです。(西川)

―西川さん、いかがですか?

西川:そうなのかなあと思います。自分もやっぱり、いろんな嘘をついて生きているし、嘘をつかなくてもいいところで、なんとなく嘘をついてしまったり、見栄を張ってしまったりすることがあるので。

その裏に潜んでいるものというか、嘘で覆い隠したもののなかに、自分自身の本当の姿があるような気がしているんですよね。それは私だけではなく、人間みんなそうだとは思うんですけど。でもやっぱり、自分自身の嘘つき体質が反映されているのかな、とは思います(笑)。

西川美和

―本木さんが演じている主人公のモデルは、西川さんだという説もありますが。

西川:そうですね(笑)。自分に程近いところはありますし、今回の作品は、自分がこれまで生きてきたなかにおける、生活とか人生の実感を投影したところがあります。ただ、それを映画監督という設定にすると、あまりにもストレートにすぎるので、小説家という形をとって……あと、女性を主人公として描くよりも、男性で描くほうが思いきれるところもあったので、こういう形になったんです。

本木雅弘演じる主人公・衣笠幸夫 / ©2016「永い言い訳」製作委員会
本木雅弘演じる主人公・衣笠幸夫 / ©2016「永い言い訳」製作委員会

片渕:僕、実はいちばん映画監督を感じたのは、『ディア・ドクター』で鶴瓶さんが演じているお医者さんだったんですよ。

西川:ああ……はい。

片渕:西川さんはいざ知らず、自分の立場で言うと、映画監督って、名乗ろうと思えば誰でも名乗れちゃうんですよね。資格を取る必要もないし、正規の教育を受けている必要もないので。

西川:ええ、そうですね。

片渕:で、鶴瓶さんが演じていたニセ医者は、なんとなく見聞きしたことのなかで、「このときはこうだな」「このときはわからないから、ちょっと調べよう」っていうことをやっているじゃないですか。いざとなったら、看護師さんとか、製薬会社さんの営業の人とか、その場においてはプロフェッショナルな人たちが、彼のことを支えてくれるんですよね。で、よく考えたら、映画も、それと同じように作られているなって思って。スタッフの存在ですよね。だから僕は、あのニセ医者さんが、全然嫌いになれないんですよ(笑)。

西川:ふふふ。

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リリース情報

『永い言い訳』
『永い言い訳』(DVD)

2017年4月21日(金)発売
価格:4,104円(税込)
BCBJ-4726

原作・脚本・監督:西川美和
原作:西川美和『永い言い訳』(文春文庫)

『永い言い訳』(Blu-ray)

2017年4月21日(金)発売
価格:5,616円(税込)
BCXJ-1054

原作・脚本・監督:西川美和
原作:西川美和『永い言い訳』(文春文庫)

作品情報

『永い言い訳』
『この世界の片隅に』

2016年11月12日(土)からロングラン上映中
監督・脚本:片渕須直
原作:こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社)

プロフィール

西川美和(にしかわ みわ)

1974年、広島県出身。2002年『蛇イチゴ』でオリジナル脚本・監督デビュー。2006年、長編第二作『ゆれる』を発表し、第59回カンヌ国際映画祭監督週間に出品。国内で9か月のロングラン上映を果たす。また撮影後に初の小説『ゆれる』を上梓した。2009年、僻地の無医村に紛れ込んでいた偽医者が村人からの期待と職責に追い込まれてゆく『ディア・ドクター』を発表。本作のための僻地医療の取材をもとに小説『きのうの神さま』を上梓。2011年、伯父の終戦体験の手記をもとにした小説『その日東京駅五時二十五分発』を上梓。2012年『夢売るふたり』を発表。2015年、小説『永い言い訳』を上梓、初めて原作小説を映画製作に先行させた。2016年、映画『永い言い訳』を発表。

片渕須直(かたぶち すなお)

アニメーション映画監督。1960年生まれ。日大芸術学部映画学科在学中から宮崎駿監督作品『名探偵ホームズ』に脚本家として参加。『魔女の宅急便』(1989年 / 宮崎駿監督)では演出補を務めた。TVシリーズ『名犬ラッシー』(1996年)で監督デビュー。その後、長編『アリーテ姫』(2001年)を監督。TVシリーズ『BLACK LAGOON』(2006年)の監督・シリーズ構成・脚本。2009年には昭和30年代の山口県防府市に暮らす少女・新子の物語を描いた『マイマイ新子と千年の魔法』を監督。口コミで評判が広がり、異例のロングラン上映とアンコール上映を達成した。またNHKの復興支援ソング『花は咲く』のアニメ版(2013年 / キャラクターデザイン:こうの史代)の監督も務めている。

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