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「常識」をひっくり返す楽しさをレアンドロ・エルリッヒが語る

「常識」をひっくり返す楽しさをレアンドロ・エルリッヒが語る

『「大地の芸術祭」の里 越後妻有2017夏』
インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:馬込将充 編集:宮原朋之、飯嶋藍子

『Lost Winter』は「別のものを見る」効果を、空間に鏡を交差して立てることで実現しているんです。

―新作『Lost Winter』はどういった経緯で制作することになったんでしょうか?

エルリッヒ:今作は、宿泊施設「三省ハウス」に恒久設置できる作品をという話がきっかけで、以前に作った作品『Lost Garden』(2009年)をベースにして生まれたものです。

今回『Lost Winter』にしたのは、まずこの地域はトリエンナーレなどで多くの人が訪れるようになったけど、冬の妻有を体感してもらう機会は少ないと思ったから。本当は雪景色もとても特徴的な土地なので、その冬のなごりを、季節を問わずお客さんに感じてもらえたらと思って。

レアンドロ・エルリッヒ『Lost Garden』(2009年) / variable dimensions. metal structure, bricks, windows, mirrors, fluorescent lights and artificial plants / MOLAA, Long Beach, California, US © Jon Endow, courtesy of Leandro Erlich Studio
レアンドロ・エルリッヒ『Lost Garden』(2009年) / variable dimensions. metal structure, bricks, windows, mirrors, fluorescent lights and artificial plants / MOLAA, Long Beach, California, US © Jon Endow, courtesy of Leandro Erlich Studio

新作『Lost Winter』の中に入るエルリッヒ。一見ただの中庭だが、杉の木を中心に2枚の鏡が立てられており、中を覗き込むと全ての窓から自分の姿が見える(※実際にはガラス戸があり、中に入れませんのでご注意ください)
新作『Lost Winter』の中に入るエルリッヒ。一見ただの中庭だが、杉の木を中心に2枚の鏡が立てられており、中を覗き込むと全ての窓から自分の姿が見える(※実際にはガラス戸があり、中に入れませんのでご注意ください)

―つららや雪だけでなく、この地域ならではの冬の特徴が盛り込まれている?

エルリッヒ:そうです。当然、ここで作るからにはここにあるものを取り入れたかった。たとえば窓の向こうに見える、薄雪をかぶった1本の針葉樹は、このあたりによくある杉。その根元から、フキノトウが顔を覗かせています。

あと窓の下にある柵は「雪囲い」と言って、この地域で冬の積雪から窓を守るもので、実際に使われていたものです。他にもあまり目立たない、気づかない部分にも、そういう工夫をしています。

―なるほど。「三省ハウス」はもともと小学校だったと伺いました。

エルリッヒ:そう。作品を設置した部屋は、図書室だったらしいです。今も本があって、人々が自由にくつろげる場所になっています。ここで常に冬を感じてもらえたらと、ストーブも置いてあるし、普通の窓もあるから、作品を通じての「雪の残る風景」と、実際の風景とのコントラストも感じられると思います。

レアンドロ・エルリッヒ

―鏡を立てかけた仕掛けがあるのにもかかわらず、一見すると、この地域のごく当たり前の自然の姿があることが面白いです。

エルリッヒ:今、気づいたんだけど、この作品は自然史博物館なんかにある、森と生物たちのいる風景と似ていますよね。違うのは、ここには動物はいないこと。代わりに「自分自身が何かを見つける姿」を見つけることになる。つまり、自然そのものというより、自然と人との関係を見せるものとも言えると思います。

―つまり、そこに「見えている」四角い庭だけではなく、何か別のものを見ることになる?

エルリッヒ:そう。お客さんは窓の向こうに「あ、小さな中庭がある」と覗き込むんだけど、ふと気づくと、斜め前にある別の窓からも、自分自身が庭を覗き込んでいることに気づくんです。

レアンドロ・エルリッヒ

―「Winter」の前にある「Lost」も気になります。

エルリッヒ:これはコンセプト上の遊びという面もあって。まず元になった作品『Lost Garden』には、アダムとイブの「失われた楽園」というイメージがあります。かつては存在したけれど今はない、またはそこから出ていかねばならない場所。

さらに、『Lost Winter』はさっき話したような「別のものを見る」効果を、空間に鏡を交差して立てることで実現しているんです。つまりこの四角い庭の4分の3は実際には存在していない。その「ないもの」を見ているという点も、タイトルとつながっています。

―展示室にある電気ストーブは水蒸気に赤い光があたり、まるで本当に燃えているように見えますね。これも作品?

エルリッヒ:いや、それは去年、六本木で見つけて購入しました(笑)。部屋全体の冬の演出にはぴったりだと思って。作品自体は、じつはさらに手を加えようと思っています。まず、杉の枝葉が、風を受けているみたいに静かに揺れるようにしたい。

あと、ここに泊まる人たちが楽しめるよう、夜が近づくと庭の光が夕陽になったり、フクロウの声が聞こえたり、そんなことができたらいいなと思って。今のこの中庭はまだ時間が止まっているけど、その時間を流してみたいと思っています。

奥に見えるのが電気ストーブ
奥に見えるのが電気ストーブ

―今作が展示されているのは美術館などの施設ではなく、言われなければ最初はアート作品だとさえ気づかないかもしれない。そのことが、見る者の驚きを一層増すようにも感じます。こうした環境での作品作りに、どんな可能性を感じますか?

エルリッヒ:美術館に展示してあるものは、みんなもすぐわかると思うけど、誰に言われなくても「これはアートです」って受け取られますよね。その意味では美術館って、作品をいろんな意味で「守る」ものだと思うんです。

だけど同時に、それがお客さんとある種の距離を生んでしまう可能性もある。モノとしてすんなり向き合うというより、作品と人との間に、何かのフィルターがあるみたいな。でも僕は、そういう体験より、一瞬にして感じてもらえる体験、その楽しさを大切にしたい気持ちが強いです。

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イベント情報

『「大地の芸術祭」の里 越後妻有2017夏』

2017年8月5日(土)~8月20日(日)
会場:新潟県 越後妻有エリア各所
料金:共通チケット 大人2,000円 小中学生500円

プロフィール

レアンドロ・エルリッヒ

1973年ブエノスアイレス(アルゼンチン)生まれ、モンテビデオ(ウルグアイ)在住。2000年の『ホイットニービエンナーレ』をはじめ、2001年、2005年の『ヴェネチア・ビエンナーレ』、サンパウロ、リバプール、イスタンブールといった多くの国際展に出展。世代や国境を超えて人々が共有できる体験の場を創造してきた。日本国内では美術館のみならず、『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』『瀬戸内国際芸術祭』などでも作品を発表。

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