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「常識」をひっくり返す楽しさをレアンドロ・エルリッヒが語る

「常識」をひっくり返す楽しさをレアンドロ・エルリッヒが語る

『「大地の芸術祭」の里 越後妻有2017夏』
インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:馬込将充 編集:宮原朋之、飯嶋藍子

楽しい体験って、あることについての知識が人それぞれで違うことを知るときの「驚き」ともつながっている。

―今話してきたような特徴を活かしたエルリッヒさんのアートについて、一方では、遊園地などにあるアトラクションとどう違うのか? と問う人もいると思います。エルリッヒさんはこれまで「自分の作品からメタファーを感じたり、哲学的な思考を引き出されることもあり得る」とおっしゃっていますが、そこは今も一貫していますか?

エルリッヒ:僕がこの場所から去り、またはこの世界から去った後には、作品は一人で歩き出し、語り続けると言えます。僕の視点から言えば、自分の作品は世の中のいろんなものから着想して生まれたものだし、結果的に多様なメタファーや投影にもなっていると思う。

ただ、全ての人がこうした世界の解釈を受け取るとは限らないですよね。シンプルに体験そのものを楽しんでくれるだけかもしれない。でも同時に、何かのインスピレーションを得たり、彼ら自身の物語に引きつけて感じることに興味を持ってくれる人もいると思っています。

レアンドロ・エルリッヒ

―そういった出会いを模索する中で、越後妻有には長い期間関わり続けていますね。アーティストとして、ひとつの場所に関わり続けることの魅力や可能性とは?

エルリッヒ:ちょうど今日ここに来る車の中で、そのことを考えていたんです。これまで越後妻有には何度も訪れてきていて。同じ年の違う季節とか、数年ぶりにとか。目的も仕事だけじゃなく、観光もしたし、地元に暮らす人々との出会いもありました。

その全てが、僕にとって新しい体験だったんです。同じ土地でも、いつだって学びがあった。そうして今は、前よりもこの場所のことがだいぶわかってきたように思います。それは、たとえば一人でこの土地のどこかにこもり続けるより、ずっといい体験だったと思うし、作品作りに限らず、たくさんのインスピレーションをもらいました。

レアンドロ・エルリッヒ

レアンドロ・エルリッヒ『トンネル』。越後妻有に実際に存在するトンネルからインスパイアされ制作された。Photo:Osamu Nakamura
レアンドロ・エルリッヒ『トンネル』。越後妻有に実際に存在するトンネルからインスパイアされ制作された。Photo:Osamu Nakamura

―固定観念をひっくり返すような作品作りにおいて、逆にそういう「古いもの」の存在が、エルリッヒさんの創作に欠かせない条件とも言えませんか? また、古いもの=悪い、新しいもの=いいと単純に言えない関係があるように思います。

エルリッヒ:その通りですね。これは僕の個人的な感覚で、多分みんなも一緒じゃないかと思うんだけど、楽しい体験って、あることについての知識が人それぞれで違うことを知るときの「驚き」ともつながっていると思うんです。僕らがこの世界で巡り会うものって、実は既存の知識の振り返りや参照であることも多い。でもそうしたときにも、驚きや反転の瞬間は訪れる。

たとえば象徴的な表現だとか、古くからある知識やリアリティーも、実は僕らの理解の範疇よりずっと広い可能性を持っていると思う。そして、そのことに向き合えたとき、僕はハッピーになれるんです。

僕らは「何もかも悟った人間」という理想像を追い求めるけど、同時に「未知のものがあってほしい」と願っている。

―エルリッヒさんの作品は、単に「古い物事」への揺さぶりではないということですか?

エルリッヒ:僕ら人間はずっとこの世界を理解したい、理解しようと努力し続けてきたけど、未だに知らないことがたくさんありますよね。でも同時に、僕ら自身が「まだ知らないこと」の存在を期待してもいる。

「何もかも悟った人間」という幻想みたいな理想像を追い求めるけど、同時に「まだ未知のものがあってほしい」と願っている。これは物事の表と裏みたいな組み合わせだと思います。それは人類の歴史の中で、宗教や科学を通じて続いてきた営みとも言えますよね。

―確かにそうですね。それにわかっているようで、本当はわかっていないことも多い気がします。

エルリッヒ:たとえば、僕は宇宙の果てしなさを頭では理解しているつもりだけど、少なくとも今のところ、それを実体験できるわけじゃない。こういう世界って完璧な正解が出せるものではないと思うんです。

一方で、僕らにはまた、日々の暮らしもある。スーパーで買い物して、ご飯を作り、子どもが生まれたら世話をして、ときどきは散歩もしたい。そうした中で、それでも「新しい未知のスペース」を探しているんじゃないかな。

―エルリッヒさん自身もそういう旅の途中ということですね。

エルリッヒ:もちろん僕も、そういった世界のうごめきの中にいます。人生はいつも、僕らに新しい信念、新しい挑戦を与えるものですから。僕らが何を知っていて、何を知らないかってことでいえば、この間こんな話をしていたんです。

地球が丸いことは今や常識だけど、もし誰かが今「地球はフラットで、水平線のところで切れている」と信じたとして、それはその人の日常生活に何か影響を及ぼすかな? って。

レアンドロ・エルリッヒ

―地球のかたちに関わる強い宗教観とかを持っていなければ、意外とそんなに変わりはないかもしれませんね。

エルリッヒ:人類は科学技術を通じて大いに進歩したし、今はスマホもネットもあって、未来に住んでいるような気もするけど、ふだんの生活体験は昔からそれほど変わっていない部分も多い。時代を問わない、人生につきもののテーマもありますよね。食、愛、自然と人間の関係などなど……。

僕の作品がボーダーレスだと言ってくれたことにつなげると、僕の作品はそうした誰もが持っている世界とつながる空間です。そこに、体験する人々の過去の知識や個人的な知識もつながって、それぞれの体験になっていくと思っています。

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イベント情報

『「大地の芸術祭」の里 越後妻有2017夏』

2017年8月5日(土)~8月20日(日)
会場:新潟県 越後妻有エリア各所
料金:共通チケット 大人2,000円 小中学生500円

プロフィール

レアンドロ・エルリッヒ

1973年ブエノスアイレス(アルゼンチン)生まれ、モンテビデオ(ウルグアイ)在住。2000年の『ホイットニービエンナーレ』をはじめ、2001年、2005年の『ヴェネチア・ビエンナーレ』、サンパウロ、リバプール、イスタンブールといった多くの国際展に出展。世代や国境を超えて人々が共有できる体験の場を創造してきた。日本国内では美術館のみならず、『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』『瀬戸内国際芸術祭』などでも作品を発表。

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