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美輪明宏インタビュー 稀代の表現者がシャンソンに捧げた60年

美輪明宏インタビュー 稀代の表現者がシャンソンに捧げた60年

『美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~』
インタビュー・テキスト
宇野維正
編集:山元翔一
2017/08/22
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毎年、春は演劇、秋は音楽会と、定期的に東京と日本全国で連続公演をおこなっている美輪明宏。今年9月から開催される音楽会は『美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~』という、美輪明宏がこれまで65年以上に及ぶ歌手人生のすべてを捧げてきた「シャンソン」に焦点が当てられたものとなる。

「シャンソン」はそのものずばりフランス語で「歌」を意味する言葉だが、一般的に、フランスで特定の時代においてポピュラーな大衆音楽の形式であったとされる「シャンソン」という文化は、美輪にとって、そして戦後の日本にとって、どうして特別なものであり続けてきたのか? 今回の取材は、文字通りの「リビングレジェンド」である美輪明宏に、真正面からそのことについて問う貴重な機会となった。

※本記事は『美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~』開催期間限定公開(2017年11月12日まで)となります

私が歌っているのは移り変わっていくものではなく、いつの時代も変わらない本物の歌。お芝居もそう。

美輪:このあいだ美容室で若い子たちに挨拶をされたので「私のこと誰だかわかるの?」って訊いたら、「声優さんですよね?」って返ってきたんです。

―(苦笑)。でも、それだけ『もののけ姫』(1997年公開。山犬・モロの君の声を務める)や『ハウルの動く城』(2004年公開。荒地の魔女の声を務める)での美輪さんのお仕事は強烈なインパクトがありましたから。

美輪:「私はシャンソン歌手なのよ」って言ったら、「シャンソンって楽器の名前ですか?」って。別の機会に、また若い子に「シャンソンってどういうものか知ってる?」って訊いたら、そのときは「化粧品の名前ですか?」って。

―(笑)。

美輪:もういろんなことが乖離してしまっていますよね。特に昔のことをちゃんと知っている世代と、何も知らない世代の乖離が進んでいる。この何十年、私はずっと春はお芝居、秋はコンサート、そうやって全国のステージに立って、その合間にテレビに出たり、本を書いたり、講演会をやったり、それで65年やってきたわけでしょ?

どうして65年もやってこられたかっていうと、シャンソンがそのすべてのバックにあったからなんです。シャンソンといっても、私が歌っているのは移り変わっていくものではなく、いつの時代も変わらない本物の歌。お芝居もそうですね。

美輪明宏
美輪明宏

美輪:いろんなオファーをいただきますけど、「これは永久に残るようなお芝居ではないな」「本物ではないな」というものはお断りしてきました。そう言いつつも、なかなかいい作品に出会えないから、生意気にも「じゃあ自分で脚本を書こう」と。そうやって、これまで自分のステージに立ってきたんです。

―美輪さんの芸術に値する判断基準というのは、残るか残らないかというのが一番大きいのですか?

美輪:「残る / 残らない」というよりも、人生の真実に近いものかどうかということ。基準があるとしたら、そこですね。

当時のシャンソンは本来の姿のものではなかったから、僭越ながらぶっ壊したほうがいいんじゃないかと思ったんです。

―これだけ長年、とても幅広いジャンルのお仕事をされてきたわけですけど、もし肩書きを一つだけ挙げるとしたら、それは「シャンソン歌手」ということになるわけですよね?

美輪:もちろん、そうですね。シャンソンというのが、やはり私の出発点ですから。ただ、一口にシャンソンと言っても、多岐に分かれているんですよ。

―せっかくの機会なので、詳しく教えていただけますか?

美輪:まず、「Chanson de voir」。これは見世物としてのシャンソンです。今で言うところのポップス。歌詞とはほとんど関係のない振り付けで、踊りながら歌う。その歌も、物語としてはあまり意味がないもの。印象に残るような言葉を、字余りでもいいので散りばめているだけ。これは、一時期流行ったけれど、もうパリでもほとんど死に絶えています。

―なるほど。

美輪:それと、「Chanson de charme」。これは美しいメロディーと甘い歌詞。聴き手を誘惑するような情緒的なシャンソン。

―「charme」はチャーミングという意味の言葉ですね。

美輪:そう。あと、「Chanson realiste」。これは政治や経済といった世の中の出来事についての歌だったり、社会を風刺した歌だったり、恋愛についても甘いだけじゃない、リアルな恋愛の悲しみや痛みを歌った歌。

美輪明宏

―美輪さんのやられているシャンソンは、そのChanson realisteになるのでしょうか?

美輪:簡単に言えばそう。それと、「Chanson fantastique」ですね。これは直訳すると「幻想的な」となりますけど、シャンソンのお芝居ですね。お芝居とシャンソンが一緒になったモノミュージカル、つまり一人芝居。こうして、同じシャンソンと呼ばれる音楽でもそれぞれ役割が違って、歌い手も分かれていたんです。

イヴ・モンタン(1921年~1991年。イタリア出身のシャンソン歌手)はChanson fantastiqueが得意で、エディット・ピアフ(1915年~1963年。フランスで最も愛されている歌手の一人)はChanson realisteとChanson fantastiqueの両方にまたがっていた。日本では、本来そのようにいろいろな種類のあるシャンソンが分けられてきませんでした。

―それはどうしてなんでしょう?

美輪:シャンソンが日本に最初に入ってきたのが、宝塚だったから。あそこの社長、小林一三氏(1873~1957年。日本の実業家、政治家)のモットーというのは「清く、正しく、美しく」で、当時の宝塚は上流社会のお嬢様の溜まり場だった。

だから宝塚がシャンソンを取り入れたときに、ちょっと卑猥な歌詞や政治的な歌詞は、全部差し障りのない歌詞に異訳されてしまったんです。それで、日本におけるシャンソンはそのイメージで定着していった。お高くとまった女性たちに対して「おシャンソン族」なんて悪口が生まれたくらい、シャンソンは上流社会のものだと思われていたんです。

―そのイメージを覆したのが、美輪さんだった?

美輪:そうですかね。だって、それはシャンソンの本来の姿ではなかったから、僭越ながら壊したほうがいいんじゃないかと思ったんです。

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イベント情報

{作品名など}
『美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~』

2017年9月8日(金)~9月24日(日)
会場:東京都 東京芸術劇場 プレイハウス
構成・演出・出演:美輪明宏
演奏:セルジュ染井アンサンブル

『美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~ 地方公演』

2017年10月7日(土)
会場:福岡県 福岡市民会館 大ホール

2017年10月9日(月)
会場:群馬県 ベイシア文化ホール 大ホール

2017年10月13日(金)
会場:愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール

2017年11月5日(日)
会場:宮城県 仙台電力ホール

2017年11月10日(金)~12日(日)
会場:大阪府 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

プロフィール

美輪明宏
美輪明宏(みわ あきひろ)

小学校の頃から声楽を習い、国立音大付属高校を中退し16歳にしてプロの歌手として活動を始める。クラシック、シャンソン、タンゴ、ラテン、ジャズを歌い、銀巴里やテレビに出演するようになり、1957年、「メケ・メケ」が大ヒット。ファッション革命と美貌で衝撃を与える。日本におけるシンガーソングライターの元祖として「ヨイトマケの唄」ほか多数の唄を作ってきた。俳優としては、寺山修司の「演劇実験室◎天井棧敷」の旗揚公演「青森県のせむし男」、「毛皮のマリー」への参加・主演を機に、三島由紀夫に熱望され「黒蜥蜴」(江戸川乱歩原作)を上演、空前の大絶賛を受けた。いまやその演技のみならず、演出・美術・照明・衣装・音楽など総合舞台人として、また現代日本のオピニオンリーダーとして、その活躍は常に耳目を集め、さらなる伝説の炎が噴出し始めている。

関連チケット情報

2017年9月8日(金)〜9月24日(日)
美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~
会場:東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2017年10月7日(土)
美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~
会場:福岡市民会館 大ホール(福岡県)
2017年10月9日(月)
美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~
会場:ベイシア文化ホール 大ホール(群馬県)
2017年10月13日(金)
美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~
会場:愛知県芸術劇場 大ホール(愛知県)
2017年11月5日(日)
美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~
会場:電力ホール(宮城県)
2017年11月10日(金)〜11月12日(日)
美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(大阪府)

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