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満島ひかり主演『海辺の生と死』が描いた奄美という特別な場所

満島ひかり主演『海辺の生と死』が描いた奄美という特別な場所

『海辺の生と死』
インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:鈴木渉 編集:飯嶋藍子、宮原朋之

最近の若い人たちは世界中の音楽を聴いているから、本当に耳がいいし、感性が豊かなんです。(朝崎)

―この作品を映画館で観た人は、暗闇から路上に出たときに、普段耳慣れている周囲の音がまったく違って聞こえるはずだと思います。この映画では、木々や風の音、鳥や虫の鳴き声、そして波の音、どんなシーンでも常に島の騒めきが入り込んできていますよね。

越川:島唄の世界も、そうした島の音と共にあるはずなんです。トエがうたっていると向こうでリュウキュウコノハズクが鳴くシーンがあるんですが、あれはあとから処理してつけた音ではなくて、シンクロの音なんです。ほんとうにトエさんが歌うと向こうの森の奥で、島唄に呼応するようにリュウキュウコノハズクが鳴く。人と鳥が寄り添っているというよりは、基本的にはバラバラにいるはずのものが、一瞬、唱和する瞬間がある。

左から:越川道夫、朝崎郁恵

朝崎:とてもよくわかるお話です。動物がみんな集まってくるんですよね。

越川:そしてまたバラバラに戻るということを、あの場所は繰り返しているのだと、ずっと撮影中は考えていました。鳥は鳥の都合で鳴く、カエルはカエルの都合で鳴く、物語のためになんか鳴かないと、よく言っていました。

朝崎:私は長年、奄美の外の方々とかかわって、奄美を扱おうとするテレビ番組であるとか、様々な人と出会ってきましたが、越川さんほど熱心に奄美を語られる方に出会った記憶は、ちょっとないですね。

私個人としても、そういう方がこの映画を作られたことを、本当に嬉しく思います。それこそ(満島)ひかりちゃんも含めて、皆さんを奄美の島の神様が引き合わせてくださったんでしょうね。

左から:越川道夫、朝崎郁恵

―だからこそ、若い世代も体感できる瑞々しさになっているのだと思います。

朝崎:最近の若い人たちは、世界中の音楽を聴いているからだと思うのですが、本当に耳がいいし、感性が豊かなんです。私のライブには若い方々も多く来てくださって、人によっては涙まで流してくださる。

私が25歳で結婚して上京し、こちらでうたいはじめたころに、渋谷のレコードショップに、自分の唄を吹き込んだカセットテープを持って行ったんです。そこの店の人に「朝崎さん、言葉の意味もわからない唄を聴くのは、3曲が限界だよ」と言われて……、ショックでしたね。それがいまでは、皆さんちゃんと唄を聴いてくださる時代になっている。そんな若い人たちが生まれて育つまで、私も生きてこられてよかったなあと思っているんです。

戦争に裏打ちされたロマンティシズムなんて、肯定するわけにはいかないんですよ。(越川)

―若い人の感性というと、この映画の背景にある戦争というテーマも、また違って感じられる気がします。1926年生まれの作家、故・河野多惠子さんに取材したとき、「私は家事が本当に好き。そんな豊かな家事の時間を、戦争は奪う」とお話をされていたんですが、そうした感覚はいまの若い世代も生き生きと感じられると思います。

越川:はっきり言えば、戦争に裏打ちされたロマンティシズムなんて、肯定するわけにはいかないんですよ。結局は戦争が好きなんじゃないか、と思えるようなロマンティックな恋愛は、撮りたくない。

越川道夫
越川道夫

越川:僕はこの映画のなかでどのシーンが好きかと言われたら、かまどの火を熾すシーンが好きです。火を熾し、火種を絶やさず、朝食を作る。こうした日常の暮らしを紡いでいくことが感覚は戦争に限ったことではなく、震災時でもやはり人にとって大事なのではないかと考えています。

ご飯を作る、唄をうたうといった行為は、そういう状況に対する抵抗になりえる。あるいは、木々が芽吹く、蝶が飛ぶといった、そうした一つひとつを戦争に対峙させていくことに、僕は希望を抱いています。

朝崎:島唄というのは、本当に日常の生活の唄なんです。先ほど薩摩の時代の奄美の話をしましたが、そのころの奄美ではサトウキビ栽培をして砂糖を作り、薩摩に納めていたんですね。大変な負担と抑圧だったんですが、その時期から残る島唄の歌詞には「心配だ、心配だ、砂糖作りは心配だ」とうたわれている。下手をすると手枷足枷、打ち首や島流し、という時代です。その日常を唄にうたうことで、人々は困難を乗り越えてきました。

でも、そうしたことを紙に残すと焼き捨てられてしまうんです。だから唄にして、親から子へ、子から孫へと口伝えしてきた。だから普段うたっている唄は、日常の会話なんですよ。

越川:そうした島の日常、この世界のあり方すべてを、目で、そして耳をそばたてて、いまの若い世代の人たちに感じてもらえればいいなと思います。

左から:越川道夫、朝崎郁恵

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作品情報

『海辺の生と死』

テアトル新宿ほか全国順次公開中

監督・脚本:越川道夫
原作:島尾ミホ『海辺の生と死』(中公文庫)、島尾敏雄『島の果て』ほか
出演:
満島ひかり
永山絢斗
井之脇海
川瀬陽太
津嘉山正種
上映時間:155分
配給:フルモテルモ、スターサンズ

プロフィール

朝崎郁恵(あさざき いくえ)

1935年11月11日、奄美・加計呂麻(カケロマ)島・花富生まれ。奄美群島で古くから唄い継がれてきた奄美島唄の唄者(ウタシャ)。島唄の研究に情熱を傾けた父・辰恕(たつじょ)の影響を受け、また、不世出の唄者と謳われる福島幸義に師事し、10代にして天才唄者といわれた天性の素質を磨きかける。千年、あるいはそれ以上前から唄われてきたともいわれる奄美島唄の伝統を守り、その魂を揺さぶる声、深い言霊は、世代や人種を超えて多くの人々に感動を届けている。

越川道夫(こしかわ みちお)

1965年生まれ、静岡県浜松市出身。立教大学を卒業後、助監督、劇場勤務、演劇活動を経て、映画の宣伝・配給に従事。1997年に映画製作・配給会社スローラーナーを設立。『洗濯機は俺にまかせろ』(1999、篠原哲雄)、『孤高』(1974、フィリップ・ガレル)、『太陽』(2005、アレクサンドル・ソクーロフ)などの配給・宣伝に携わる。主なプロデュース作品に、『路地へ 中上健次の残したフィルム』(2001、青山真治)、『幽閉者 テロリスト』(2007、足立正生)、『海炭市叙景』(2010、熊切和嘉)、『ゲゲゲの女房』(2010、鈴木卓爾)、『かぞくのくに』(2012、ヤン・ヨンヒ)、『ドライブイン蒲生』(2014、たむらまさき)、『白夜夜船』(2015、若木信吾)など。本作『アレノ』は第28回東京国際映画祭にてプレミア上映された。新作『月子』も8/26から新宿K’s cinemaにて公開される。

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