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満島ひかり主演『海辺の生と死』が描いた奄美という特別な場所

満島ひかり主演『海辺の生と死』が描いた奄美という特別な場所

『海辺の生と死』
インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:鈴木渉 編集:飯嶋藍子、宮原朋之

唄によって、どんなつらいときも奄美の人々は乗り越えてきたし、また唄を生み出していったんです。(朝崎)

越川:朝崎さんに満島さんを稽古していただいたのは都内のカラオケボックスです(笑)。その練習の場に参加すると、その日は一日、朝崎さんの唄と声がグルグルと僕の体のなかをめぐって大変なんです。ハッキリ言って仕事にならない(笑)。それくらい、朝崎さんの歌う島唄というのは力のあるものなのだと思います。

越川道夫

―唄者(ウタシャ)の方の体のなかも、まさにそうした声や記憶がめぐるのでしょうね。

越川:今回の映画で用いた朝花節(アサバナブシ)は、もともと台本にあった歌詞ではなくて、朝崎さんがお母さんのうたっていらした歌詞を教えてくださったんです。島尾ミホさんの生きていたころの押角の言葉はもう再現不可能ですが、息子の島尾伸三さん(写真家)が、覚えていらっしゃる母・島尾ミホさんの言葉や周囲で耳にしていた言葉をもとに、テキストを朗読してくれました。役者たちはその音声をもとに演技しています。

そんなふうに、朝崎さんの記憶、島尾ミホさんの記憶、そして満島さんのもっている記憶といったものを、ひとつの花束みたいに束ねていくと、映画という虚構なりの、ひとつの「場所」がたちあらわれてこないか、と思いながら作っていました。

―島唄そのものが、すでにそうした「記憶の束」のようなものですよね。

朝崎:奄美の人というのは、不安があったり、困難に出くわしたり、悲しいことがあったり嬉しいことがあったり、というときにいつも唄をうたってきましたし、唄は常にそうしたなかで生まれてきたんです。ですから、島唄にはいろんな歴史や記憶が刻まれているんですよ。

朝崎郁恵

朝崎:江戸時代に薩摩の支配を受けていたころには、奄美の古い記録や文書が処分されて失われてしまっていますが、それ以前から島唄はうたい継がれてきました。私たちは唄の「背景」に残っているものから、その内容がいつの時代のものなのか、大体わかるんですね。唄によって、どんなつらいときも奄美の人々は乗り越えてきたし、また唄を生み出していったんです。

自分の目で見た奄美の色とか、島で耳にした音を、なるべく映画に「定着」させようと頑張りました。(越川)

―そうした豊饒な場にカメラを構えることには、困難が予想されますね……。

越川:スタッフが照明を立てたり、小道具を置いたり、準備が終わってカメラをまわしていると、そこはもう島ではなくなっているんです。どこかで僕らは島を踏み荒らしてしまっている。分かりやすい例では蝶やトンボが飛んでいたのに、みんないなくなってしまっているので、俳優たちに「ハイ、じゃあ演技をしてください」といっても、画面には島は映らない。

ですから、僕は2~3分待ってくれと言って、その間に僕は島と話をします。「もういい?」「いや、まだかな」って(笑)。「もういいんじゃない?」「まあ、いいんじゃないの」という空気になってきたら、ようやくカメラを回して撮影をはじめる。そのころにはだんだん、島という場所に役者たちの体も馴染んできて、蝶やトンボも戻ってきているんです。

『海辺の生と死』場面写真 ©2017島尾ミホ/島尾敏雄/株式会社ユマニテ
『海辺の生と死』場面写真 ©2017島尾ミホ/島尾敏雄/株式会社ユマニテ

越川:作中に本土から来た兵隊たちが、奄美の座敷にあがって “同期の桜”をうたうシーンがあるんですが、あれは奄美に乗り込んでいって映画を撮影している僕たちの姿を、自戒を込めて描いたつもりです。

―そうした姿勢だからこそ、豊かな世界が込められた映画になっていると感じます。

越川:そうであれば嬉しいです。自分の目で見た奄美の色であるとか、島で耳にした音を、なるべく映画に定着させようとしました。島があって、そこに人がいて、島唄がうたわれている——そういう映画を作っているのだから、そこは裏切ってはいけないポイントだとずっと思いながら作っていました。

映画ですからもちろん画も見てほしいんですが、この作品ではぜひ、耳をそばだてて音を聞いてほしいです。そうすると、たくさんの音が聞こえてくるはずです。そして、トエ(満島ひかり)と朔(永山絢斗)が生きていた時代に鳴っていた音も響いていると思うんです。打ち寄せる波の音は、きっと彼らの耳にも届いていたはずです。

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作品情報

『海辺の生と死』

テアトル新宿ほか全国順次公開中

監督・脚本:越川道夫
原作:島尾ミホ『海辺の生と死』(中公文庫)、島尾敏雄『島の果て』ほか
出演:
満島ひかり
永山絢斗
井之脇海
川瀬陽太
津嘉山正種
上映時間:155分
配給:フルモテルモ、スターサンズ

プロフィール

朝崎郁恵(あさざき いくえ)

1935年11月11日、奄美・加計呂麻(カケロマ)島・花富生まれ。奄美群島で古くから唄い継がれてきた奄美島唄の唄者(ウタシャ)。島唄の研究に情熱を傾けた父・辰恕(たつじょ)の影響を受け、また、不世出の唄者と謳われる福島幸義に師事し、10代にして天才唄者といわれた天性の素質を磨きかける。千年、あるいはそれ以上前から唄われてきたともいわれる奄美島唄の伝統を守り、その魂を揺さぶる声、深い言霊は、世代や人種を超えて多くの人々に感動を届けている。

越川道夫(こしかわ みちお)

1965年生まれ、静岡県浜松市出身。立教大学を卒業後、助監督、劇場勤務、演劇活動を経て、映画の宣伝・配給に従事。1997年に映画製作・配給会社スローラーナーを設立。『洗濯機は俺にまかせろ』(1999、篠原哲雄)、『孤高』(1974、フィリップ・ガレル)、『太陽』(2005、アレクサンドル・ソクーロフ)などの配給・宣伝に携わる。主なプロデュース作品に、『路地へ 中上健次の残したフィルム』(2001、青山真治)、『幽閉者 テロリスト』(2007、足立正生)、『海炭市叙景』(2010、熊切和嘉)、『ゲゲゲの女房』(2010、鈴木卓爾)、『かぞくのくに』(2012、ヤン・ヨンヒ)、『ドライブイン蒲生』(2014、たむらまさき)、『白夜夜船』(2015、若木信吾)など。本作『アレノ』は第28回東京国際映画祭にてプレミア上映された。新作『月子』も8/26から新宿K’s cinemaにて公開される。

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