
カーネーション×サニーデイ 同じことを何度歌ってもいいじゃん?
カーネーション『Suburban Baroque』- インタビュー・テキスト
- 麦倉正樹
- 撮影:タイコウクニヨシ 編集:矢島由佳子、川浦慧
カーネーションの直枝政広と、サニーデイ・サービスの曽我部恵一。最高のソングライターでありボーカリストでもあると当時に、世代はひと回り違えど、熱心なレコードコレクターであり、読書家であり、文筆家でもあるなど、何かと共通点の多い二人の対談が実現。
1990年代から親交を持ち、つかず離れずの関係性を保ちながら、お互いの活動を見守ってきたという二人。片や今年6月に、通算11作目となるアルバム『Popcorn Ballads』を、Apple MusicとSpotifyのみでストリーミング配信するという大胆なやり方に打って出たサニーデイ。そして、片やこの9月13日に、その新たなる到達点とも言える、通算17作目のアルバム『Suburban Baroque』を完成させたカーネーション。「常に刺激を受け合う関係」であるという二人は、お互いの作品やスタンス、そして近年再び活性化しているように思える両者の活動状況に対して、どんな思いを抱いているのだろうか。
その共通点はもちろん、意外な相違点も浮かび上がる、実に貴重な対談となった。キーワードは、さまざまな意味での「軽やかさ」。
僕は、いい意味で軽くなれないところがあって。こだわっちゃうんだよね、メディアとか形とかに。(直枝)
—お二方とも、すでに長いキャリアをお持ちですが、ここ最近またすごくアクティブに活動されている印象があります。
直枝:最近の曽我部くんは、ホント何をやるかわからない面白さがありますよね。それで、いつもビックリするんだけど、あれも相当すごかったよね。ニューアルバム(『Popcorn Ballads』)を、いきなり配信リリースして。
曽我部:ありがとうございます(笑)。あれは、海外のマネっ子なんですけど、ああいうことを日本では誰もやらないというか、そういうのは「海の向こうの話です」っていうふうになっていることに寂しさがあって(参照記事:サニーデイ×LOSTAGEが腹を割って話す、音楽家兼経営者の胸中)。
直枝:曲数もすごかったよね。全22曲だっけ?
曽我部:そうですね。やっぱりたくさん入ってたほうが、迫力あるんじゃないかって。
直枝:迫力あるよ。ホント困るから(笑)。あれはすごいと思いました。だって、いきなり「新しいアルバムを配信します!」ってTwitterで言って始まったんだよね?
曽我部:そうですね。その一瞬だけでも、盛り上がるかなと思って。いわゆる「バズる」っていうんですか? ちょっと「バズりたい」みたいな(笑)。
直枝:(笑)。でも、それをきっかけに、僕はApple Music契約しましたから。
曽我部:あ、ホントですか? そういう方がいたら、面白いかなって思って。アナログレコードで、できるだけオリジナルなものを掘っていこうとすると、聴くものが大体決まってきちゃうじゃないですか。
直枝:まあ、そうだね。
曽我部:それもつまらないなと思ったんですよね。たまに、Apple MusicとかSpotifyとかを覗いてみると、ディスクユニオンとはまったく違う空間が広がっていて……。
直枝:そうなんだよね。
曽我部:そこを行き来できる大人でいたいなって思ったんですよね。
サニーデイ・サービス『Popcorn Ballads』ジャケット(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)
直枝:いいこと言うなあ……いや、流石だよ(笑)。僕はそこまで、いい意味で軽くなれないところがあって。どうしても馴染んだやり方にこだわっちゃうんだよね、好きなメディアとか形とかに。
曽我部:でも、今回のカーネーションのアルバム(『Suburban Baroque』)を聴いて、そこがホントにすごいなって思ったんですよね。要するに、僕はアイデア先行で、極端な話、完成度は二の次というほうなんですよ。アイデアとひらめきがちゃんとあれば、それは絶対面白いものになるんじゃないかなって。やっぱり、パンクがルーツなので、先にやったもん勝ち、みたいなところがあるんです。
直枝:なるほど。
曽我部:でもやっぱり、このアルバムを聴くと、スキルがあって、演奏はもちろんビシッと上手いし、ちゃんとしっかりした土台の上に音楽があるなあって思うんですよね。ああ、俺もこういうのをやらないとダメかなって。
カーネーション『Suburban Baroque』ジャケット(Amazonで見る)
直枝:いやいや。でも、ベーシック録音の時からホーム・デモを聴きながら録音したりしているんですよね。
曽我部:あ、ホントですか?
直枝:アナログレコーディングでやりつつ、さらに、不自由に。
曽我部:レコーディングは、Gok Sound(吉祥寺にあるレコーディングスタジオ)ですよね?
直枝:うん。前作(『Multimoodal Sentiment』)も、そこで録りました。そう、この間、曽我部くんに「直枝さん、今度一発録りでやったらどうですか?」って言われて、それもいいなって思ってたんだけど、せーので、一発録りだけで完成させる曲も日程も勇気もまだなかった(笑)。
曽我部:でも今回、割と一発録りに近い感じがありますよね?
直枝:そうだね。もちろん、リズムとかは一発で録るんだけど、それでも、あらかじめ組み立てておいたデータや演奏をドンカマ(ドンカマチック=リズムマシンの総称)と同じようにイメージして先に流し込んでおくの。
そうやって効率的に作業してようやく、スケジュールや予算が成り立つような状況なので、ちょっと変わった作り方と言えば、変わった作り方なのかもしれないですが。
リリース情報

- カーネーション
『Suburban Baroque』(2CD) -
2017年9月13日(水)発売
価格:3,300円(税込)
CRCP-40525/6[DISC1]
1. Shooting Star
2. Peanut Butter & Jelly
3. ハンマーロック
4. Little Jetty
5. 夜の森
6. Younger Than Today
7. 金魚と浮雲
8. Girl
9. Suspicious Mind
10. Please Please Please
11. VIVRE
※DISC2にはinstrumental ver.を収録
イベント情報
- カーネーション
『Live Tour 2017“Suburban Baroque”』 -
2017年11月18日(土)
会場:愛知県 名古屋 CLUB UPSET2017年11月19日(日)
会場:大阪府 梅田 Shangri-La
ゲスト:浦朋恵
DJ:キングジョー2017年11月24日(金)
会場:東京都 キネマ倶楽部
ゲスト:
田村玄一(KIRINJI)
吉澤嘉代子2017年12月1日(金)
会場:北海道 札幌 BESSIE HALL2017年12月9日(土)
会場:福岡県 LIVEHOUSE CB
リリース情報

- サニーデイ・サービス
『Popcorn Ballads』 -
2017年6月2日(金)からApple Music、Spotifyで配信
1. 青い戦車
2. 街角のファンク feat. C.O.S.A. & KID FRESINO
3. 泡アワー
4. 炭酸xyz
5. 東京市憂愁(トーキョーシティブルース)
6. きみは今日、空港で。
7. 花火
8. Tシャツ
9. クリスマス
10. 金星
11. heart&soul
12. 流れ星
13. すべての若き動物たち
14. summer baby
15. 恋人の歌
16. ハニー
17. クジラ
18. 虹の外
19. ポップコーン・バラッド
20. 透明でも透明じゃなくても
21. サマー・レイン
22. popcorn run out groove
プロフィール

- カーネーション
-
1983年12月カーネーション結成。1984年ナゴムレコードよりシングル「夜の煙突」でレコードデビュー。以降、数度のメンバーチェンジを経ながら、時流に消費されることなく、数多くの傑作アルバムをリリース。練りに練られた楽曲、人生の哀楽を鋭く綴った歌詞、演奏力抜群のアンサンブル、圧倒的な歌唱、レコードジャンキーとしての博覧強記ぶりなど、その存在意義はあまりに大きい。現メンバーは直枝政広(Vo.G)と大田譲(B)の2人。他アーティストからの支持も厚く、2013年には結成30周年を祝うべく14組が参加したトリビュートアルバム『なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?』が発売された。2016年7月13日に4年ぶり16枚目のオリジナルアルバム『Multimodal Sentiment』をリリース。直枝政広はプロデューサー(大森靖子等)、文筆業などでも活躍している。

- サニーデイ・サービス
-
曽我部恵一(Vo,Gt)、田中貴(Ba)、丸山晴茂(Dr)からなるロックバンド。1994年メジャーデビュー。1995年に1stアルバム『若者たち』、翌年2ndアルバム『東京』をリリース。「街」という地平を舞台に、そこに佇む恋人たちや若者たちの物語を透明なメロディーで鮮やかに描きだし、多くのリスナーを魅了し続けている。2016年8月には通算10枚目のアルバム『DANCE TO YOU』を発売し、現在もロングセラー作品となっている。2017年6月2日、事前告知なしでニューアルバム『Popcorn Ballads』をApple Music、Spotify限定で配信リリース。8月には、結成25周年の総決算として、サニーデイ・サービスと北沢夏音の共著『青春狂走曲』がスタンド・ブックスより発売。