
藤井麻輝×出雲重機 森岡賢が欠けたminus(-)、新体制で本格始動
minus(-)『R』- インタビュー・テキスト
- 今井智子
- 撮影:豊島望 編集:矢島由佳子
同じことを続けてもしょうがないし、自分は生きているから動くし。動いた結果は変わっていく。(藤井)
―大久保さんが2006年に「出雲重機」の画集をお出しになったあと、悶々としていたと発言されているのを読みました。それはどんな心境だったんでしょう?
大久保:自分はメカの仕事をやっているとはそんなに自覚してなくて、仕事の6割以上は広告の仕事だったりするんですよ。ちゃんとメカでやっていこうと思ったのは、この2、3年で。2006年に本を出して、そんなにリアクションがなかったというのが大きかったです。仕事に全然つながっていかなかった。
あと、一番大きいのは2011年に地震があって、クライアントからの仕事も減っちゃいましたし、子どももいたので「これはまずいぞ」というのと。こういうもの作りをしていて、なにができるかをすごく考えちゃったんですよね。もっと人のためにならないとあかん、と。
藤井:僕と同じなのね。ふふふ。
大久保:とはいえ、やれることに限界があったので、ゲーム会社に入って、療育用のアプリ開発などに携わらせていただいていたんですよ。そこで、社長やスタッフの方々によくしていただいて、自信を取り戻して。
同時に、今この「出雲重機アートトイ」を作ってる玩具会社(1000toys)の方が、2006年の画集をご存じで、ぜひオファーしたいという話をいただいて。それでもう1回ちゃんとやろうと復帰したのが、3年ぐらい前なんですね。
出雲重機×1000toys「小型自律稼働式重機 1/12 Probe 20WT」
―藤井さんもご自身の作品への複雑な思いと、2011年の地震があって音楽から離れられていましたよね(minus(-)藤井、震災後に建築現場で働くことを選んだ表現者の想い)。
藤井:うん、音楽作るより建物作るほうがいいなって。へぇー、なるほどねー。それで『オーバーロード』もやったんですか?
大久保:それも不思議な縁で。ゲーム会社にいるときに、療育用アプリの開発のあとにソシャゲの制作にも参加させていただいて。ラノベ原作でアニメの放送と同時にリリースする予定のゲームを作っていたんですね。ゲームの開発って、ビジュアル素材の制作が先行するんです。でもアニメって、制作序盤に企画会議を重ねて、絵とか決まるのは割とあとのほうなんですね。だからアニメの素材を待っていると、リリースが放送開始のタイミングに間に合わない。
たまたま自分は世界観に沿った絵が描けるので、アニメ制作に先立って設定画を作り始めていたんですよ。そうしたらアニメ制作側の要請で、ゲームのほうで先行している設定画を使いたい、という流れで、なんとなくアニメに合流する形になって。ゲーム会社を離れてからも「アニメの仕事お願いできませんか」という流れで、いまだに続いている感じですね。
藤井:深夜のアニメ、大抵1話を見たらもういいやってなるんだけど、『オーバーロード』は本当にハマって。主題歌(オープニングはOxT、エンディングはMYTH & ROIDが担当)も、歌ってる方をminus(-)のゲストボーカルに呼ぼうかと思うほどハマった。
『オーバーロード』エンディングテーマ―藤井さん、アニメ主題歌とかやったことあるんですか?
藤井:昔は結構誘われたんですけど、断り続けてるうちに来なくなった(笑)。でも今はやりたいですね。最近のアニメ主題歌って、下手に一般的に流れている音楽よりクオリティー高い気がして。
大久保:ちょっと、プロデューサーに話してみます(笑)。
藤井:ギャラ高いとか時間かかるとか噂が流れてると思うんで、多分来ないと思います(笑)。出雲重機のMusic CIみたいのとか、架空の30秒スポットとか作るなら協力しますよ。
大久保:そういうの、ちょっと考えてはいたんです。
藤井:楽しいかも。最後に「ポテーン」とか、サウンドロゴだけでもいいし。
―「出雲重機」社歌とか?
藤井:やたら金属音が入って? レイバッハみたいになりそうだな。でも出雲重機のコンセプトってそうでもないと思うから。
大久保:そうですね、割とノイズない感じですよね。クリーンな感じ。出雲重機は裏テーマみたいなのがあって。将来人手不足になっても、ドローンみたいのが活躍するから大丈夫ですよって謳いながら、実は人間を排除していくっていう。
藤井:まさにRejectだ。
大久保:アンチという意味では、1970年代からのおもちゃっぽいロボカルチャーへの反発はありますね。もっと価値観は変わってるんじゃないかと思うんですよ。藤井さんが見た『ニュータイプ』の企画は、まさにガンダムでそれをやろうとしたもので。もしガンタムのことをなにも知らない作家が、あのストーリーから改めてビジュアライズしようとしたらどうなるかって。
その当時、映画『猿の惑星』をティム・バートン監督が「Re-Imagination」と言って、再解釈して映像化したんですね。それと同じことをガンダムでやったんです。ものすごく叩かれたんですけど(笑)。
藤井:まさに今の話を聞いて思ったのが、今回『R』を作り終えた感覚と似てて。「これがminus(-)か?」と言われる可能性は非常に高いんです。実際違うし。うん。大久保くんに頼んでよかったな。
同じことを続けてもしょうがないし、自分は生きているから動くし。動いた結果は変わっていくし。うん。なんか、腑に落ちちゃった。変えると、人は叩くんですよね。で、叩かれて潰れる人は潰れちゃう人で終わるし。うん。
大久保:そうですね。僕は、そういうプリミティブな感覚でゼロから作るというのが好きなんですよね、意味を考えなきゃいけなくなるので。そのときに既にある手法を応用するよりは、自分でゼロからやるほうが好きですね。
藤井:ああ、近いところありますね。でも、もの作る人はすべからくそうじゃなきゃいけないと思うし。僕がアナログシンセのプリセットできないものを好むのもそういうことで。毎回違うものからスタートして、イニシャライズした状態から始めるほうが楽しいんですよね。フォーマットができちゃうと、決まったことにしかならないし。
―今後、お二人でコラボしたいこととかありますか?
大久保:僕は、SOFT BALLETと大友克洋と『スターウォーズ』でできているので(笑)、こうして一緒にやれていることが信じられないですよ。今日もここに向かうまで信じられないような感覚がありました。ファンの人たちに怒られないように頑張ろうと思うだけです。
藤井:ロゴはそんなに頻繁に変えるものじゃないし。これを使って面白いことができたらいいなとは思いますけどね。
リリース情報

- minus(-)
『R』(CD) -
2017年9月27日(水)発売
価格:2,160円(税込)
AVCD-937291.Below Zero
2.Drop
3.Spell-subtraction
4.LIVE-advanced
5.Spell-ver.1.0
イベント情報
- 『minus(-)LIVE R2+1』
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2017年10月5日(木)、10月6日(金)
会場:東京都 渋谷 CHELSEA HOTEL
プロフィール

- minus(-)(まいなす)
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元SOFT BALLETの藤井麻輝によるユニット。2014年5月、森岡賢と共に結成。ニューウェーブ、エレクトロニカ、ノイズという要素を交え、他にはないオリジナリティに溢れたサウンドを構築。10月22日に1stミニアルバム『D』をリリースし、その後、LUNA SEA主催のフェスを始め、ヒカシュー、BELLRING少女ハート、石野卓球、SUGIZO、THE NOVEMBERSといった幅広い相手との対バンを行なう。2015年12月9日には2ndミニアルバム『G』をリリース。その後も精力的に活動を続けていた最中、2016年6月、森岡賢が急逝。その後、赤坂BLITZでのライブを経て、藤井麻輝のソロユニットとして活動を継続。12月28日には1stフルアルバム『O』と、赤坂BLITZワンマン公演を収録した、初映像作品「V」を同時リリースした。
- 大久保淳二(おおくぼ じゅんじ)
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フリーランスのデザイナー / イラストレーターとして映像作品・ゲーム・トイ・広告・グラフィックデザインなど幅広い分野で活動中。「出雲重機(いずもじゅうき)」は主にメカデザイナーとして活動する際の名義であると同時に、個人的なアートプロジェクトの名称。2016年末にクラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」にて1000toysによる「出雲重機アートトイ」開発の支援募集を行い110%でサクセス。現在シリーズ化に向けて企画が進行中。11月には「出雲重機」オフィシャルブック『INDUSTRIAL DIVINITIES 2017』を発売予定。