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Mr.とphaの「つながりながら、ひきこもりたい」理想の生き方対談

Mr.とphaの「つながりながら、ひきこもりたい」理想の生き方対談

『ヨコハマトリエンナーレ2017』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

「成功」とか「売れる」とか、アートにとって正しいことではないと思うんです。(Mr.)

―Mr.さんの近年の考え方の変化とは、どのようなものですか?

Mr.:僕には1歳上の兄貴がいるんですが、ほぼ働いたことがなくて、初代ニートみたいな人なんです。その兄貴が昔は好きじゃなかった。働かない意味がわからんと。でも、当時は時代が成長期だったから、そう思ったんじゃないか。

逆にいまの環境で、若い人は大きな目的をなかなか持ちにくい。彼らに対して、「でかい目標を持つべき」と言う筋合いはまるでないなと思いはじめて。すると兄貴の生き方も許せるようになったんですね。

Mr.

pha:僕も若い人と触れる機会は多いですが、ガツガツしていない人が多いですね。でも僕もやりたいことはなかったし、みんなも好きに生きればいいのに、と思う。

Mr.:そうした姿勢から考えさせられることもあって。たとえば、Twitterなんかにアニメ絵とアートの中間みたいな個人的な絵を載せている人がたくさんいて、僕はそれをわりとフォローしているんです。彼らを年長者が見ると、ふと「10年後にそれで食っていけるのか」と思いがちだけど、僕は、辞めたら辞めたでいいと思う。

アートは本来、美術館に作品が収められるという理想があって、それが成功かどうかの基準だったと思うんですけど、じゃあ、若い人たちはそこに向けて売ることを目標にすべきなのか? 辞めてしまうのが悪いのか? 彼らを見ると、そんな価値観をすごく考えさせられる。

pha:Mr.さんが若いころにネットがあったら、絵をネットにあげていましたか?

pha

Mr.:あげていたと思いますね。それにネットがあったら、当時あんな孤独じゃなかった気がする。孤立した環境で誰にも見てもらえないと、どんどんやる気がなくなるんです。

いまネットで絵を描いている子が数年後にお母さんになって、描くことをやめていてもぜんぜんいいなと。「成功」とか「売れる」とか、アートにとって正しいことではないと思うんです。

pha:僕も最近、シェアハウスに集まる若者にアルバイトを紹介することがあるんです。若い人の悩みはさまざまですけど、「会社に行けない=普通じゃない」みたいに思い込んで悩む人も多い。でも、そうじゃないよと。僕も先行世代に救われてきたので、自分も少しずつだけど、生きづらい若い人を受容できる場所が作れたら、と思いますね。

好きなことをやっていると、勝手に勇気づけられる人が出てくる。(pha)

―今回のMr.さんの出品作品について聞かせてください。Mr.さんは近年、シアトル・アジア美術館での個展や銀座の『GUCCI 4 ROOMS』の展示などで、震災の影響を思わせる黙示録的な作品を作られました。今回のインスタレーションもその延長にあるものですか?

Mr.:実害があったわけではないけど、震災後はだいぶ不安定でした。シアトルの展示にはその不安定な部分がわりと影響していて、またゴミ集めをはじめて、日本から送ったそれらだけを寄せ集めて10メートル近い「芋虫」を作った。この芋虫は、カフカの『変身』から着想を得たもので、成虫になれず、繭に閉じこもっている幼虫に日本を重ねるものでした。

『Live On: Mr.’s Japanese Neo-Pop』シアトル美術館 2014年 撮影:Joshua White ©2014 Mr. / Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
『Live On: Mr.’s Japanese Neo-Pop』シアトル美術館 2014年 撮影:Joshua White ©2014 Mr. / Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

Mr.:その意味では、ヨコトリのテーマの「ガラパゴス」にも似ているかもしれないですね。ただ、今回はインスタレーションを見せるというより、ドローイングなどの単独作品も多く持ち込んで、一点ずつじっくり見られるような構成を目指しました。

Mr.(ミスター)『ごめんなさい』展示風景 Photo:TANAKA Yuichiro ©2017 Mr. / Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会
Mr.(ミスター)『ごめんなさい』展示風景 Photo:TANAKA Yuichiro ©2017 Mr. / Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

『ヨコハマトリエンナーレ2017』でのMr.の展示作品を実際に観る二人
『ヨコハマトリエンナーレ2017』でのMr.の展示作品を実際に観る二人

―会場では、それこそコンビニや公園、夕暮れの書き割りのような写真を背景に、初期作品も含むフィギュアやドローイングが並び、いくつもの風景が現れています。

pha:展示を拝見して、ふだん自分が散歩しているときの感覚も想起しました。あらためて感じたのは、風景のなかにいる女の子のキャラクターの面白さです。僕には、彼女たちがMr.さんの分身のようにも見える。Mr.さんの心のなかにも、この子たちがいるんだろうなと。彼女たちがいることで、なんでもない風景がとても魅力的に見えてくる。

Mr.:たしかに描いているとき、この子たちになりたいという気持ちがありますね。

pha

pha:それはどこか、さっき言ったメタ的な主体のあり方ともつながっている気がして。風景のなかにキャラがいることで、その場所が現実でも架空でもあるような、独特の雰囲気を帯びていると感じたんです。それは自分が書くものとも共通している気がして。

つくづく思うのは、べつに誰かを勇気付けようとか、世界の見方を変えようとか思って活動していなくても、自分の好きなことをやっていると、勝手に勇気づけられる人が出てくるということ。Mr.さんの作品も同様で、今日はそれを体験できました。

Mr.:好きなことをやっているかどうか、まさにそうですよね。僕は、人間にとってヌルさやユルさはけっこう大事だと思っていて、孤立したとき、ほかのアーティストの自由な活動を見て、勇気付けられたり世界が広がったりすることがある。アーティストには「成功」とは別にそうした側面があるし、自分もそんな作品を作っていきたいですね。

左から:pha、Mr.

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イベント情報

『ヨコハマトリエンナーレ2017』
『ヨコハマトリエンナーレ2017』

2017年8月4日(金)~11月5日(日)
会場:神奈川県 横浜美術館、横浜赤レンガ倉庫1号館、横浜市開港記念会館 地下
時間:10:00~18:00(10月27日~10月29日、11月2日~11月4日は20:30まで、最終入場は閉場の30分前まで)
参加アーティスト:
アイ・ウェイウェイ
ブルームバーグ&チャナリン
マウリツィオ・カテラン
ドン・ユアン
サム・デュラント
オラファー・エリアソン
アレックス・ハートリー
畠山直哉
カールステン・ヘラー、トビアス・レーベルガー、アンリ・サラ&リクリット・ティラヴァーニャ
ジェニー・ホルツァー
クリスチャン・ヤンコフスキー
川久保ジョイ
風間サチコ
ラグナル・キャルタンソン
MAP Office
プラバヴァティ・メッパイル
小沢剛
ケイティ・パターソン
パオラ・ピヴィ
キャシー・プレンダーガスト
ロブ・プルイット
ワエル・シャウキー
シュシ・スライマン
The Propeller Group、トゥアン・アンドリュー・グエン
宇治野宗輝
柳幸典
青山悟
ジョコ・アヴィアント
イアン・チェン
マーク・フスティニアー二
木下晋
小西紀行
Mr.
アン・サマット
瀬尾夏美
照沼敦朗
タチアナ・トゥルヴェ
ザオ・ザオ
『Don't Follow the Wind』

プロフィール

Mr.(みすたー)

村上隆の弟子として約20年、共に歩んで来た作家。画風は今現在の日本の住宅地の中にいるかわいい少女をアニメ風、ゲームキャラクター風に描く事に集中し続けている。アニメっぽい絵でキャンヴァスや紙にペィンティングやドゥローイングを描いていいんだ、、、とMr.の存在自体が免罪符となって、pixiv等のソーシャルネットワークの中で、Mr.のフォロワー作家が急増中。Mr.以前にはこうした作家は存在しなかった。最近日本で出現したカオス*ラウンジの展示方法等Mr.が開発したフォーム、「汚い自分の部屋の中に作品が転がってる」に強い影響を受けている。マイナーな、存在だった彼が、いまや、メジャーシーンへと飛び出して来ている。

プロフィール

pha(ふぁ)

1978年生まれ。小さい頃から労働意欲に欠け、京都大学を卒業して適当な会社に入社するも3年で辞め、以降ふらふらと定職に就かずにシェアハウスで暮らしている。著書に『持たない幸福論』『しないことリスト』『ひきこもらない』などがある。

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