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『新世紀ゾンビ論』の著者・藤田直哉×大橋可也が誘う舞踏の世界

『新世紀ゾンビ論』の著者・藤田直哉×大橋可也が誘う舞踏の世界

『ザ・ワールド2017「FALLING GOOD SUN / BAD MOON RISING」』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:鈴木渉 編集:山元翔一
2017/09/07
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「アートは難しい」という言葉をよく目にする。たしかに、一見して何を目指しているのか、何を言おうとしているのかわからない表現に出会ったとき、人は思考停止に陥りがちだ。それは今回紹介する大橋可也&ダンサーズの作品も同様である。「舞踏」と呼ばれる日本の前衛ダンスを土台にして、時に緩慢に、時に激しく動く人々の姿から、即座にそれが意味するところを理解するのは容易ではないだろう。

では、そこに補助線を引けばどうだろう? 例えばAI。例えばSF。例えばポストトゥルース(ポスト真実)。近年話題になることの多いそれらの事物を参照してみることで、ひょっとすると、ダンスの見方、ダンスの楽しみ方が理解できるかもしれない……というのがこの記事の主旨である。9月21日、22日に上演される大橋の最新作『ザ・ワールド2017「FALLING GOOD SUN / BAD MOON RISING」』の稽古現場を訪ねたのは、新進気鋭のSF評論家 / 美術評論家として知られる藤田直哉。SF好きという共通点で、以前から親交の深い大橋と藤田の対話から、ひとつのアートの正体を解析する。

僕は「人間である」ってこと、「人間として振る舞う」ってことがよくわからないんです。(大橋)

―まず藤田さんに、稽古のご感想から伺っていいですか?

藤田:大橋さんのダンスには、充実感のある動き、なめらかさとゆったりとしたリズムがありますよね。ダンサーの方の「有機的な丸み」が見ていて心地よかったです。あの動きじゃなかったら、この充実感は発生していないと思うし、大橋さんの作品も成立しないと思うんですよ。

大橋:有機体としてのラインは大事だと思いますね。やはり見た目がすごく大事になるのですが、僕にとって「何が美しいものであるのか?」というと人間性を揺るがすような立ち方や振る舞い、あり方なんですね。そこに至るまでの探求のために稽古を重ねているところはあります。

左から:大橋可也、藤田直哉
左から:大橋可也、藤田直哉

藤田:大橋さんは特にここ数年、人間以外の存在を作品で描かれてきましたよね。SF小説を舞台化することが多いのが気になっていまして。飛浩隆さん原作の『グラン・ヴァカンス』(2013年上演)だったら、情報環境のなかにいるAI。前回の『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』(2016年上演)は、長谷敏司さんの小説を元にした作品で、登場するのはロボット。そういう人間未満みたいな存在を改めて人間が演じ直すことに、大橋さんがこだわるのはなぜでしょう?

『グラン・ヴァカウンス』より / Photo by GO
『グラン・ヴァカウンス』より / Photo by GO

大橋:僕は「人間である」ってこと、「人間として振る舞う」ってことがよくわからないんですね。子どもの頃から、学校に行って、みんなと遊んで、というルーティンを繰り返すことに違和感があった。それが舞踏と出会うことで、人間から一度逸脱する表現を通過することで、はじめて人間として振る舞うことが理解できた感覚があって、今も作品を作り続けているんだと思います。

―舞踏は、土方巽が創始した日本独自の「前衛舞踊」ですね。全身白塗りの人がおどろおどろしく踊る、というのが一般的な認識だと思いますが、健常ではない身体のあり方を通して、人間観や身体性を更新したことで世界的に知られています。

大橋:舞踏の大きな意義のひとつに、「人間」を再定義する試みだったことが挙げられます。ダンスの歴史を振り返ると、特にモダンダンスは人間性を獲得する動き――20世紀初頭の女性参政権運動や黒人民権運動とリンクしていて、いかに個人を主張し、表現するかに重きを置いていました。そこに反旗をひるがえすように逆の見方を提示したのが土方と彼の舞踏で、人間性を否定し、「人間もまたモノなのだ」と主張したわけです。

今、僕が手がけている作品は、舞踏やダンスと言い切れないものになっていますが、例えば『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』は、「人間性のための手続き」のようなものを示した作品でした。

『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』より

―「人間性」、つまり人間らしさはどこかからくるのか? 人間の「人間らしさ」を感じさせるために必要なものは何か、ということを提示した作品だったと。

大橋:そうです。観客に改めて「人間って何だろう?」「人間らしい振る舞いってなんだろう?」ということを感じてほしくて作ったのがあの作品だったんです(参考記事:ロボットの「人間らしい振る舞い」から気づく、人間の身体の存在)。

『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』より /  Photo by GO
『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』より / Photo by GO

―では今回の『ザ・ワールド』のシリーズはどのように始まったのでしょうか? 2013年に始まって、今回で3回目の公演になります。

大橋:ドラマトゥルク(演劇作品における監修者のこと)をしている長島確さんと知り合ったのがひとつのきっかけでした。僕が住んでいる江東区に関する作品をやりたいという思いがあったんですが、「吸血鬼」が今回の『ザ・ワールド』のモチーフになった裏には、あるアイデアがあって。アーティストが街に暮らしながら作品を作っていくということが、吸血鬼的だとずっと感じていたんです。

―アーティストが吸血鬼?

大橋:吸血鬼って人のいる場所で生活して、血を吸わなければ生きていけない生き物じゃないですか。一方アーティスト、特に舞台芸術の場合は観客に観てもらってこそのものである。さらに、僕も普段は別の仕事をしながら作家活動を続けているので、ある意味でそれは、吸血鬼のような異物が仮の姿を借りて社会に潜んでいるとも言えるのかなと。

藤田:吸血鬼がモチーフで『ザ・ワールド』というのは、これはひょっとすると……。

大橋:『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦の漫画作品シリーズ)のDIOですね。好きなんですよ(笑)。

藤田:そうですよね(笑)。

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イベント情報

ザ・ワールド2017
『FALLING GOOD SUN / BAD MOON RISING』

2017年9月21日(木)、9月22日(金)
会場:東京都 豊洲シビックセンターホール
振付・構成・演出:大橋可也
ドラマトゥルク:長島確
音楽:涌井智仁
映像:吉開菜央
出演:
皆木正純
後藤ゆう
山本晴歌
伊藤雅子
田端春花
秋山実優
樋口帆波
高澤李子
高橋由佳
中原貴美子
牧祥子
近藤康弘
料金:
U29(29歳以下)3,000円
前売 一般3,500円 通し券4,000円
当日 一般4,000円 通し券6,000円

プロフィール

大橋可也(おおはし かくや)

振付家。一般社団法人大橋可也&ダンサーズ代表理事・芸術監督。1967年、山口県宇部市生まれ。横浜国立大学を卒業、イメージフォーラム附属映像研究所に学んだ後、カナダ・ヴァンクーバーにてパフォーマンス活動を始める。1992-1994年、陸上自衛隊第302保安中隊(特別儀仗隊)に在籍。1993-1997年、「和栗由紀夫+好善社」に舞踏手として参加し、土方巽直系の舞踏振付法を学ぶ。1999年、大橋可也&ダンサーズを結成。2000年、『バニョレ国際振付賞横浜プラットフォーム』に出場するも、出演者が全裸であるという理由で非公開の審査となる。活動休止期間を経て、国内外にて精力的に作品を発表。2013年、『舞踊批評家協会新人賞』を受賞。ITのエンジニアとして業務アプリケーションからロボットアプリケーションまで幅広いシステムの開発に携わっている。主な作品に『帝国、エアリアル』(2008年、新国立劇場)『グラン・ヴァカウンス』(2013年、シアタートラム)など。

藤田直哉(ふじた なおや)

1983年、札幌生まれ。東京工業大学大学院社会理工学研究科価値システム専攻博士課程修了。博士(学術)。SF・文芸批評家。著書に『虚構内存在』『シン・ゴジラ論』(作品社)『新世紀ゾンビ論』(筑摩書房)、編著に『地域アート 美学/制度/日本』(堀之内出版)『3・11の未来 日本・SF・創造力』(作品社)など。

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