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『新世紀ゾンビ論』の著者・藤田直哉×大橋可也が誘う舞踏の世界

『新世紀ゾンビ論』の著者・藤田直哉×大橋可也が誘う舞踏の世界

『ザ・ワールド2017「FALLING GOOD SUN / BAD MOON RISING」』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:鈴木渉 編集:山元翔一

「よくわからないもの」としてやっているし、観る側も「よくわからないもの」として受け取ってもらっていいと思っています。(大橋)

―舞踊と『ジョジョの奇妙な冒険』の結びつきは意外でした(笑)。

大橋:最初は吸血鬼という設定だったのが、いつのまにやらスタンド使い(「スタンド」は『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズに登場する架空の超能力)になってしまったのがDIOですけど、その背景も連想しました。

藤田:「ザ・ワールド」というと、時間操作のスタンドですよね。さっき稽古を見せていただいたときも、時間が関わっているように感じました。外の日が暮れていく自然の時間、夜道を車が走っている時間、そしてダンサーが踊る3つの時間がバラバラに動いているのがすごく印象的で。

大橋:それは的確な指摘ですね。今回の作品は「時間の流れを操作する」ということも目標のひとつなんです。本作は2部構成になっていて、日が沈んでいく夕方と、完全に沈んだ後の夜の2つを観ていただこうと思っています。日没って、時間の移り変わりをいちばん強く意識する時間ですよね? そのときに「室内の時間」と「窓の外の時間」が重なり合うことで、何か別のものが見えてくるといいな、と考えています。

藤田:とはいっても、ダンサーの動きは多くの人がイメージするような吸血鬼っぽくはないですよね。ゾンビでもなく、強いて言えばヒルに近いのかなと。

稽古の様子
稽古の様子

大橋:今回の2部構成の作品のうち、日没の前から始まる『FALLING GOOD SUN(よい太陽が沈む)』では、日没の過程のなかで、舞台上の人たち――というか「モノたち」がいて、彼らの時間が変化していく。血を吸われたあとの残骸なのか、血を求めるヒルのようなものなのか……吸血鬼としても人としても主体的な存在としては成り立っていない状態を描こうとしています。

一方、完全に日が沈んだ後に上演する『BAD MOON RISING(悪い月が昇る)』――タイトルはSONIC YOUTHのアルバムから拝借しているのですが、吸血鬼あるいは異質なものたちが地域に現れ、同化し、そして住人たちと入れ替わっていくという過程を描こうと思っています。

『ザ・ワールド2017「FALLING GOOD SUN / BAD MOON RISING」』フライヤー
『ザ・ワールド2017「FALLING GOOD SUN / BAD MOON RISING」』フライヤー(公演詳細を見る

―なるほど。大橋さんはSONIC YOUTHの音楽にどのようなものを見出しているんですか?

大橋:SONIC YOUTHは、ある種の「揺らぎ」を持った音楽だと思うんです。その揺らぎに惹かれたところはあります。SONIC YOUTHでいうころの、不協和音のなかにある「美しさ」や「心地よさ」を形にできたらという狙いはありますね。

―大橋さんもおっしゃる通り、SONIC YOUTHの音楽には、調和とは真逆の「歪さのなかにある『美しさ』」がありますよね。それは、一見不可解な動きによって表現を行う舞踊との共通点もあるように感じます。

大橋:僕のやっていることに関して言うと、「よくわからないもの」としてやっているし、観る側も「よくわからないもの」として受け取ってもらっていいと思っています。もちろん、いろんな形で解釈ができるように作品は作っていますが、「わかりやすいもの」は自分が作りたいものではないし、受け取ってほしいものでもないんです。「よくわからないもの」として、わだかまりとか何らかの心地よさ、美しさを持って帰ってほしい。何年か先に思い出してもらえるものにできたらなと。

『クラウデッド(ザ・ワールド シーズン2)』(2015年)より / Photo: by GO
『クラウデッド(ザ・ワールド シーズン2)』(2015年)より / Photo: by GO

『ヘヴィメタル(ザ・ワールド シーズン2)』(2015年)より / Photo: by GO
『ヘヴィメタル(ザ・ワールド シーズン2)』(2015年)より / Photo: by GO

大橋さんは「人間の振る舞い方」の再定義を通じて、人間性のあり方をアップデートしようとしている。(藤田)

―藤田さんは、大橋さんの表現に対してどのような見解をお持ちなのでしょうか?

藤田:大橋さんの作品について考えるとき、最近のAIやロボット研究、あるいはアスペルガー障害についての研究における「人間」の定義を思い起こすんですね。「人間らしく振る舞っていれば、内面があろうとなかろうと人間であるとみなす」という考え方が増えてきているのを連想します。

例えば、病気なり障害が治っていなくても、治っているかのような振る舞いが完璧にできれば、それは治っているとみなす。極端に言うと、ある人の中身が宇宙人だったとしてもロボットであったとしても、外側から見て「人間のよう」であればよいということです。内面がどうかなんて直接は知りようがないんですから。

―科学や医療分野でも「人間性」の解釈・定義に揺らぎが生じていて、それは大橋さんの表現活動にも通じる部分があると。

藤田:そうです。そういった進展が科学や医療分野にあるのを横目で見ながら、大橋さんは「人間の振る舞い方」の再定義を通じて、人間性のあり方をアップデートしようとしている。アップデートではなくて、別種の見方を提示して問い直す、という言い方のほうがいいかもしれないけれど。それが僕のなかでの大橋可也という作家の理解なんです。

稽古の様子
稽古の様子

大橋:アップデートになっているかわからないですが、今回はいろんな試みをしています。例えば、ダンサーそれぞれの記憶を交換しインストールし直すことで、「純粋な振る舞い」を生み出すとか。

藤田:記憶のインストール! そんなことが具体的に可能なんですか?

大橋:まず説明したいのですが、江東区は面白い土地で、これまで公演を行ってきた森下、清澄白河、そして今回の豊洲と、それぞれ歴史の成り立ちが違います。森下は江戸時代からありますが、豊洲は関東大震災のがれき処理のために埋め立てられた比較的新しい場所なんです。

今、僕たちは、ダンサーやリサーチチームで豊洲の街や周辺を歩き、その記憶をテキストに起こすということをやっているんですよ。街での経験や記憶を直接演じるのではなく、一度テキストに落とし込んで、それを再びダンスにする。記憶のインストールはそういった具合に行います。そのプロセスが上演のなかで直接的ではなくても浮かび上がってくるようにしたいと思っているんです。

藤田:面白いですね。ここにも時間の複数性が関係してくるんですね。

いろんな記憶のレイヤーを重ね合わせることで、「新しい人間の振る舞い」を生み出したいんです。(大橋)

大橋:藤田さんは著作『新世紀ゾンビ論』(2017年 / 筑摩書房)で、フリードリヒ・キットラー(ドイツの文芸・メディア評論家)の『ドラキュラの遺言』(1993年)を参照されていますよね? そのなかで、速記、タイプライターやグラモフォン(蓄音機)で記録したものからドラキュラという実像を浮かび上がらせているように、今回の公演では、いろんな記憶のレイヤーを重ね合わせることで、「新しい人間の振る舞い」を生み出したいんです。

―文字に起こした「豊洲の街の記憶」をダンスに変換し、ダンサーに踊らせる。今回はそういった手続きを通して、「新しい人間の振る舞い」を模索すると。

藤田:キットラーのドラキュラ論って、メディア論なんですよね。ブラム・ストーカー(アイルランドの小説家)のホラー小説『吸血鬼ドラキュラ』(1897年)は、日記や新聞記事などの記述で構成されています。ドラキュラは、さまざまなメディアが衝突するところから発生する虚構の存在なのだとキットラーは主張していて、メディアとメディアの境界線に発生した生き物のようなものとみなしているんです。非常に面白い見方ですよね。

大橋さんの作品にこの図式を当てはめるなら、コンピューターや文字の存在を人間の身体が演じ直すことによるズレのなかに生じる、独特の「存在」のようなものを、舞踏を通じて生み出し、観客と共有しようとしている、ということですよね。

大橋:そうですね。今回の試みで、僕は振付家の立場から、テキスト化された記憶をダンサーに振りとして指示するわけですけど、まったく同じ指示であっても、人ごとに反応は違います。そこに気づくことから生まれるものがあるんですね。

大橋可也

藤田:ひとつのルールに対して、コンピューターなら同じものを読み出すけど、人間だと差が表れる。大橋さんはそれを重視されていると。

―振付家としてのスタンスが、どこかプログラマー的ですよね。

大橋:僕が仕事としてプログラミングをやっていることも影響しているのかもしれませんね。ただし、プログラムはある答えがあって作るものだけれど、作品の場合は必ずしも答えに到達しないし、その必要もないんです。個人差によって勝手にぶれていくものこそが大事で、ぶれたところからまた別のゴールを見つけていけばいいのかなと。

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イベント情報

ザ・ワールド2017
『FALLING GOOD SUN / BAD MOON RISING』

2017年9月21日(木)、9月22日(金)
会場:東京都 豊洲シビックセンターホール
振付・構成・演出:大橋可也
ドラマトゥルク:長島確
音楽:涌井智仁
映像:吉開菜央
出演:
皆木正純
後藤ゆう
山本晴歌
伊藤雅子
田端春花
秋山実優
樋口帆波
高澤李子
高橋由佳
中原貴美子
牧祥子
近藤康弘
料金:
U29(29歳以下)3,000円
前売 一般3,500円 通し券4,000円
当日 一般4,000円 通し券6,000円

プロフィール

大橋可也(おおはし かくや)

振付家。一般社団法人大橋可也&ダンサーズ代表理事・芸術監督。1967年、山口県宇部市生まれ。横浜国立大学を卒業、イメージフォーラム附属映像研究所に学んだ後、カナダ・ヴァンクーバーにてパフォーマンス活動を始める。1992-1994年、陸上自衛隊第302保安中隊(特別儀仗隊)に在籍。1993-1997年、「和栗由紀夫+好善社」に舞踏手として参加し、土方巽直系の舞踏振付法を学ぶ。1999年、大橋可也&ダンサーズを結成。2000年、『バニョレ国際振付賞横浜プラットフォーム』に出場するも、出演者が全裸であるという理由で非公開の審査となる。活動休止期間を経て、国内外にて精力的に作品を発表。2013年、『舞踊批評家協会新人賞』を受賞。ITのエンジニアとして業務アプリケーションからロボットアプリケーションまで幅広いシステムの開発に携わっている。主な作品に『帝国、エアリアル』(2008年、新国立劇場)『グラン・ヴァカウンス』(2013年、シアタートラム)など。

藤田直哉(ふじた なおや)

1983年、札幌生まれ。東京工業大学大学院社会理工学研究科価値システム専攻博士課程修了。博士(学術)。SF・文芸批評家。著書に『虚構内存在』『シン・ゴジラ論』(作品社)『新世紀ゾンビ論』(筑摩書房)、編著に『地域アート 美学/制度/日本』(堀之内出版)『3・11の未来 日本・SF・創造力』(作品社)など。

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