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ロボットの「人間らしい振る舞い」から気づく、人間の身体の存在

ロボットの「人間らしい振る舞い」から気づく、人間の身体の存在

大橋可也&ダンサーズ『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』
テキスト
黒田隆憲
編集:飯嶋藍子

ヒューマノイドロボットがダンサーとして投げかける「人間性」への問い

人間とは何なのか、人間性とは如何なるものなのか。そんな根源的な問いに、真っ向から向き合うプロジェクト『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』が、10月28日から東京・木場のEARTH+GALLERYで上演される。

大橋可也&ダンサーズとSF作家の長谷敏司がタッグを組んだ本公演。筆者が訪れた稽古現場にまだその姿は見えなかったものの、ヒューマノイドロボットがダンサーとして参加するという。人工知能が存在感を増している昨今、テキスト(小説)と身体(ダンス=振る舞い)によって、人間らしさを形成していくプロトコル、いわばその「手続き」を本公演では探っていく。

大橋可也 / Photo:Shun Ishizuka
大橋可也 / Photo:Shun Ishizuka

人間は「人間らしい振る舞い」がインストールされている?

大橋可也は1991年、カナダのバンクーバーにてパフォーマンス活動を始め、帰国後は土方巽直系の舞踏振付法を学んだ振付家。1999年に大橋可也&ダンサーズを結成し、以降はコンテンポラリーダンスの第一線で活躍している。実は大橋はソフトウェアのエンジニアとしても知られ、現在はソフトバンク社のヒューマノイドロボット「pepper」のアプリケーション開発も手掛けている。

大橋可也の過去作『グラン・ヴァカンス(2013年)』Photo:GO
大橋可也の過去作『グラン・ヴァカンス(2013年)』Photo:GO

一方、2001年にデビューした長谷敏司は、2009年に『あなたのための物語』を上梓して以降は、人工知能が登場する世界を舞台にした執筆活動を続けており、2015年の『My Humanity』では、『第35回日本SF大賞』を受賞した。

本公演『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』は、長谷がこの舞台のために書き下ろした小説を取り入れて制作されている。とはいえ単に、「原作」と「舞台」という関係ではなく、複数の長谷作品から大橋がテキストを恣意的に抜き出し、それをダンサーに振付としてインストールして、身体化するというプロセスを踏んでいる。しかも、今回のプロジェクト自体が小説の題材となっており、それをまたダンス作品に取り入れるという、円環構造のような関係なのだ。

大橋:そのとき、その振付はテキストが本来属するコンテクスト(文脈)とは切り離されています。さらに、振付を別のコンテクストに配置し直すこともおこないます。そのような作業を繰り返すことで、砂金をふるいにかけて取り出すように、社会や個人から独立した(純粋な)人間の振る舞いが取り出せるのではないかと思っています。

例えば、「百年の歴史の地層を残す巨大なシアトルの街が積み重なっていた」という『あなたのための物語』の中の一文から「地層」という言葉を抜き出した大橋は、そこに粘土や砂、火山灰などが積み重なって出来た縞状の堆積物をイメージし、ダンサーの「振る舞い」として身体化させていく。その際、ビジュアルイメージだけでなく、地層の重さや材質、密度といった情報にも注目し、それらも「振る舞い」に取り入れていく。この考えは、彼が舞踏の振付から学んだものだ。

Photo:Shun Ishizuka
Photo:Shun Ishizuka

人間の身体を通して、人間ではないものを表現する。つまりステージ上のダンサーたちは、一旦その身体から「人間性」を剥ぎ取られ、「非人間的存在」として存在していることになる。

彼らが人間として「振る舞う」ことができるのは、振付家である大橋が「人間らしい振る舞い」をダンサーにインストールしたときのみだ。これは、単なる鉄の塊であるヒューマノイドロボットに、プログラミングを施すことで「人間らしい振る舞い」をさせることとよく似ている。ダンサーもロボットも、それぞれのプロトコルによって「人間らしさ」に近づいていくわけだ。稽古現場で大橋はこんなふうに語っていた。

大橋可也&ダンサーズが実践する振付方法
大橋可也&ダンサーズが実践する振付方法

大橋:別々のプロトコルを舞台上で並べることで、僕らが今までやろうとしていたことが、より深められるのではないかと考えました。つまり本公演は「新しい試み」に挑戦するというよりは、これまでの試みを「補完」するような内容になります。

「振る舞い」から浮き彫りになる人間の不条理と不合理

大橋可也&ダンサーズが今までやろうとしていたこと、それは冒頭でも述べた通り、「人間性とは何か?」を問い直す行為である。大橋は人間性とは「不条理であり不合理であること」と説明する。人間を除く他の動物たちの「振る舞い」は常に理に適ったもので、人間が行なう戦争や性暴力のように、合理性から逸脱することはない、と。

私たち観客は、ダンサーやヒューマノイドロボットがステージの上で「人間らしく」振る舞う様子を見るとき、これまで見て見ぬ振りをしてきた人間の「不条理」や「不合理」を、目の前に突きつけられるような気持ちになるのかもしれない。

大橋可也の過去作『グラン・ヴァカンス(2013年)』Photo:GO
大橋可也の過去作『グラン・ヴァカンス(2013年)』Photo:GO

大橋:もともと僕は、この社会で生きていくこと、社会で人として振る舞うことに違和感がありました。大学卒業後にパフォーマンスに触れる機会があり、社会で決められた振る舞いではなく、自分の身体で振る舞うことや、振る舞いを一から作り上げることに惹かれました。今は、コンテンポラリーダンスの振付に関わることによって、自分のかたち、人としてのかたちが保てているのだと思います。

人が、ヒューマノイドロボットと同じように、後から「振る舞い」をインストールすることが可能な、もともとは「非人間的な存在」だとしたら。私たちは自分の意思で、自由に「振る舞い」をチョイスし、再インストールできるはずだ。そして、そのことを主体的に行なったときに、初めて人は「自分らしく」生きられるのではないだろうか。

あなたがもし、今の世の中に「生きづらさ」を感じていたり、「違和感」を持っていたりするのなら、本公演『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』——「人間性への手続き」は、きっと何かしらのヒントを与えてくれるだろう。

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イベント情報

『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』

2016年10月28日(金)~11月1日(火)全8公演
会場:東京都 木場 EARTH+GALLERY
振付・構成・演出:大橋可也
原作:長谷敏司
音楽:涌井智仁
出演:
皆木正純
平多理恵子
山本晴歌
伊藤雅子
大熊聡美
吉田圭
田端春花
大橋悠太
ヒューマノイドロボット
料金:
前売 一般3,000円 29歳以下2,500円 2回券4,000円(全てドリンク別)
当日 一般3,500円(ドリンク別)
※トークにはゲストと共に長谷敏司と大橋可也が登場し、小説とパフォーマンスの制作過程について話す

プロフィール

大橋可也(おおはし かくや)

振付家。一般社団法人大橋可也&ダンサーズ代表理事・芸術監督。1967年、山口県宇部市生まれ。横浜国立大学を卒業、イメージフォーラム附属映像研究所に学んだ後、カナダ・ヴァンクーバーにてパフォーマンス活動を始める。1992-1994年、陸上自衛隊第302保安中隊(特別儀仗隊)に在籍。1993-1997年、「和栗由紀夫+好善社」に舞踏手として参加し、土方巽直系の舞踏振付法を学ぶ。1999年、大橋可也&ダンサーズを結成。2000年、『バニョレ国際振付賞横浜プラットフォーム』に出場するも、出演者が全裸であるという理由で非公開の審査となる。以降、活動を休止。2003年に活動再開以降、国内外にて精力的に作品を発表。2013年、『舞踊批評家協会新人賞』を受賞。ITのエンジニアとしてJava/.NET/GeneXus等の技術分野を中心に業務アプリケーションの開発業務に携わっている。

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