sui sui duckが示す、次世代のバンド論。肩書きを溶かして活動中

アートディレクターを擁する6人組バンド・sui sui duckが、2nd EP『FEEL』を完成させた。7月に発表された『THINK』と対になる内容の本作は、内省的な側面の強かった前作に対し、明るく、キャッチーな側面が強く打ち出された作品。海外インディーのサウンドに影響を受けつつも、あくまでJ-POPであることを自認するバンドのキャラクターがより明確になるものだと言っていいだろう。

『THINK』リリース時の取材では、若くして一度挫折を経験しているフロントマン・渋谷勇太のライフストーリーを追ったが、今回の取材では改めて「sui sui duckとはどんなバンドなのか?」に注目。それをより深く引き出すためにも、彼らが初めてミュージックビデオを撮影したスタジオにて取材を実施し、写真撮影はアートディレクターの高橋一生に担当してもらった。「王道だが王道ではない」という渋谷と高橋の話から、バンドの新たな提案がよくわかる取材になったように思う。

常々思ってるのは、「次の次の流行りを、今やりたい」ということですね。(渋谷)

—前回の取材(sui sui duckが語る、アートディレクターを擁するバンドの在り方)では渋谷くんのこれまでのキャリアを振り返ってもらったので、今回は主にsui sui duckの現在地についてお伺いしたいと思います。

近年は海外インディーからの影響が強いバンドが増えつつありますが、そんななかにあって、sui sui duckとしてはどんな部分を強く押し出していきたいと考えていますか?

渋谷(Vo,Gt):実際、僕らも海外インディーをすごく聴いてますけど、最終的にはそれをまったく感じさせないところまでいきたくて。初期は英語で歌ってたんですけど、それをやめたのも、僕らはJ-POPとして戦わないといけないバンドだと感じたからなんです。なので、これからはより「海外インディーのサウンドだけど、完全にJ-POP」というところを目指したいと思っていますね。

—立ち位置的に近いバンドとして、たとえば、雨のパレードとかがいると思うんですけど、彼らがよく言ってるのは「日本のポップスを更新したい」ということで。sui sui duckとしては、日本の音楽シーンに対してどうアプローチしたいと考えていますか?

渋谷:su sui duckはまず「コンセプトに沿った表現」というのが第一にあって、それ自体は昔からある古典的なものだと思うんです。僕らはまだ「ポップスを更新する」って言えるほど完成されてないですけど、常々思ってるのは、「次の次の流行りを、今やりたい」ということですね。

これから段々横ノリでのれる日本人が増えてくると思うので、だったら、sui sui duckがそれをする必要はない。むしろ、そういうなかで手を挙げさせるぞっていう(笑)。そうやってお客さんを楽しませられる存在になっていきたいです。

渋谷勇太
渋谷勇太

—そう強く思うようになったのはいつ頃ですか?

渋谷:今のメンバーが揃ってからですね。最近は楽器を弾かないパートがあって、みんな打ち込みでやったりするバンドも多いですけど、そういうのを見てると、やっぱりライブ感があんまりなくて、「トラックを流してます」って感じだなと思ったんです。僕は、音楽は瞬間芸だと思っているので、もっと現場での偶発性みたいな部分がほしくて。

—現在の海外インディー寄りのエレクトロポップバンドは必ず先駆けとしてサカナクションと比較されると思うんですけど、今回の『FEEL』は前作より明るい作風ということもあって、むしろ中田ヤスタカさんに近いと思いました。もともとPerfumeが好きだったという話だし、よりJ-POP的という意味でも、親和性が高いのかなって。

渋谷:中田さんのラインにはすごく寄りたいんですけど、やっぱり中田さんのスキルってすごいんですよね。『FEEL』を作ったときは、まだDTMにもそんなに慣れてない状況だったので、「Perfumeをやりたかったけど、まだできてなくて、sui sui duckになった」みたいな感じというか(笑)。でも、「バンドでPerfumeみたいなことをやりたい」っていうのは根本にありますね。

—『FEEL』の楽曲は歌詞の言葉遊びも目立ちますね。

渋谷:中田さんはそのあたりもすごいですよね。「原宿いやほい」とか「にんじゃりばんばん」とか、よく思いつくなって(笑)。僕も、語呂合わせで歌詞を書くのは好きなんです。あと当時はSuchmosをよく聴いてたので、とりあえず韻は踏もうと思って。流行りにモロ影響されるんで(笑)。

渋谷勇太

—トレンドは常に意識していると。

渋谷:めちゃめちゃ取り入れたいです。いいものを聴いたときに、「クソッ!」って思うよりも、「すげえ!」って思うタイプなので。

—言ってみれば、中田さんもDAFT PUNKの影響があった上で、今のエレクトロサウンドのベースを築いたわけで、流行りものに対するアンテナはすごく重要ですよね。もちろん、そのなかに軸となるオリジナリティーは必要だと思うけど。

渋谷:「その人にはなれない」ってわかってるので、自分はちょっと切ないメロディーとかを軸に頑張りたいなと思っていますね。歌メロはホントに誰にも影響されてなくて、自発的に出てきてるものばっかりなので、一番オリジナリティーがあるのは歌詞と歌だと思います。

もっと歌の説得力がないとダメだなって思ったんです。(渋谷)

—前回の取材では、「もともと自分の声があんまり好きじゃなかったけど、ファルセットなら勝負できると思った」ということも話してくれましたが、その後、自分の歌についての考えに変化はありますか?

渋谷:最近感じたのは、オートチューンをかけても、歌の熱量ってすごく伝わるなって。『FEEL』まではより力を抜いて、自分を出さないように歌ってたんですけど、それって「自分の声が好きじゃないから」という理由だけでやってたなと思うんです。

でも、表現方法のひとつとして、「声を張る」ということもかなり重要だなと感じて、「より力を抜く」よりも「ここは出す」っていう、プラスの考え方がいいのかなって最近は思っています。

—ボーカリストで好きな人を挙げると、どんな名前が出てきますか?

渋谷:Passion Pitのボーカルはかなり好きですね。それこそ、ファルセットかなり多めだし。あとはサム・スミス、The Weeknd。この三人は真似したいですけど……根本的に彼らめちゃめちゃ歌上手いんで(笑)、スキルアップは絶対必要だなって。

彼らは自分たちの聴かせどころをすごくわかっていますよね。たとえばサム・スミスって、サビが異様に高かったりして、「ここを聴かせたいんだな」っていうのがわかる。やるからにはそれくらいを目指さないとなって、最近はすごく思ってますね。

渋谷勇太

—ここまでの話を聞くと、『FEEL』はある意味過渡期の作品で、すでに目線は次に向いてるのかなって思うんですけど、『FEEL』の収録曲のなかで、一番この先を提示している曲を挙げるとすると、どれになりますか?

渋谷:最後に入ってる“sugar”ですね。かなりJ-POP要素が強い曲で、これを歌ってみて改めて、もっと歌の説得力がないとダメだなって思ったんです。

でも、これからはより明るくなっていくと思います。自分一人だと結構暗くなっちゃうんですけど、今のメンバーは暗いだけじゃないんで、もっと六人のキャラを押し出す意味でも、より明るい方向にいくと思いますね。あ、今回初めてスタジオでバンドで合わせて作った曲があるんですよ。

—どの曲ですか?

渋谷:5曲目の“swim2”です。みんなで合宿をしたときに、最終日に4時間くらい余って、そのときに作りました。これもわりと明るい曲調で、でも他の曲ともまたちょっと違う感じで、歌も結構いいなって思ってます。

sui sui duck『FEEL』ジャケット
sui sui duck『FEEL』ジャケット(Amazonで見る

—ちなみに、なんで「2」なんですか?

渋谷:もともと“swim”っていう曲を作ってて、単に被っちゃったんですけど、“swim”以外の曲名付けられなくて、じゃあ“swim2”でっていう(笑)。

—“swim”をアップデートしたとかじゃなくて、また新しい“swim”ができちゃったんだ(笑)。

渋谷:そうなんですよ。“swim”はいっぱいできるんです。最終的には“swim1”から“swim10”でアルバムできそう(笑)。

—“swim”というタイトルをつけがちなのは、やっぱりsui sui duckというバンド名からきているのが一番大きいと思うんですけど、ちょっと深読みしてみると、「流されてる感覚」みたいなことの表れだったりもするのかなって。

渋谷:あ、その感覚は実際強いです。小さい頃からやってるチェロも、自分の意志ではなかったので流されてやってきた感覚はあるし、あと小学校で受験して、中高大とエスカレーターだったから、そこも流されてる感がある。でも、sui sui duckに関しては、やっと自分でやりたいと思って始めたバンドなんですよね。

渋谷勇太

—「swim」の意味が「流される」から「自分で泳ぐ」に変わってきたというか。

渋谷:ですね。今の話で“swim3”が書けそう(笑)。最初の“swim”ってかなり暗いんですよ。出だしが「海底に向かって浮上していく」みたいな歌詞で、どんどん自分が深みにはまっていくようなことを書いた曲で。

—じゃあ、アルバムの『swim』は、その深みからいかに抜け出して、どこに辿り着くかを描くコンセプトアルバムだね(笑)。

渋谷:俺もイメージできました。次の次の次くらいの作品として出します(笑)。

(渋谷は)世間の人からは「高尚」と思われてるようなものを、どうエンターテイメントとして受け取ってもらうかを考えている。(高橋)

—ここからは、インタビュー中の写真を撮ってくれていたアートディレクターの高橋くんにも加わってもらおうと思います。高橋くんから見た渋谷くんのクリエイターとしての魅力を話してもらえますか?

高橋(Art Director):渋谷は単にいい曲を書くだけじゃなくて、全体を見た上で、バランスをとる能力に優れてるなと思います。漠然とはしてるんですけど、写真とか映像に対して、「これはもうちょっとこういう色のほうが」とか「こういう流れのほうがいいんじゃない?」とか、音楽以外も含めたもの作りに対する感覚がかなり鋭い人だなって。

あとは「普通」っていうものを作る感覚が研ぎ澄まされてるというか。渋谷自身はいろんな音楽を聴いてるし、美術館とかにも行くタイプで、世間の人からは「高尚」と思われてるようなものにも触れてるけど、それを芸術にそこまで興味ない人に、どうエンターテイメントとして受け取ってもらうかを考えている。その感覚が優れてるなっていうのは、曲を聴いててもすごく感じますね。

渋谷:うちのお父さんは音楽をやってる人なんですけど、「芸術は音楽だけじゃなくて、総合的なものだから」って昔から言うんです。なので、音楽だけに特化しても面白くないっていうのは自分の根本にあって、映画でもなんでも、毛嫌いすることなくまずは触れてみることが大事だなって常に思っています。

俺らがやりたいのって、ファッションブランド的な感じというか。毎年ひとつトレンドを決めて、それに沿ってやる感じなんですよね。(渋谷)

—“feel”のミュージックビデオも、二人でコンセプトを話して撮ったわけですか?

渋谷:そうですね。あれはグリーンバードスタジオという場所で撮ったんですけど、「大きいレコーディングスタジオで撮りたい」っていうのがまず自分のなかにあったんです。高校生のときに一度グリーンバードスタジオでレコーディングをしたことがあって、そのときのことが急にふと思い出されて、あそこで撮りたいなって。

高橋:あとは他のミュージックビデオとの兼ね合いも考えて。メンバーがしっかり出てくるライブシーンのミュージックビデオって、去年の“run”以降なかったんです。「エレクトロポップバンド」って打ち出してるわりには、今のメンバーの温度感があんまり感じられなかったから、ここで一回メンバーの温度感を出したいっていう話もして。

—“run”はまだ今のメンバーが固まってない時期ですもんね。

高橋:そうなんです。

—今のメンバーが揃ったことで、バンドが大きく変わりつつあるっていう、今日の話にも通じますよね。二人では「sui sui duckのコンセプト」っていう、大枠の部分の話もよくするんですか?

渋谷:二人で一番話し合うのは、「sui sui duckとして」というよりも、アルバムごとのコンセプトに対してどうアプローチするのか、ということですね。僕らはsui sui duckという名前で活動はしてるけど、アルバムごとに違うバンドになるようなイメージで。コンセプトアルバムを作るってそういうことだと思うんです。

昔はその0から50くらいまでを自分がやる体感だったんですけど、最近は0から1くらいで、残り99はメンバーとの話し合いで決まるようになってきました。sui sui duckっていう名前は変わってないけど、ほぼ違うバンドになりつつあると言ってもいいかもしれない。今年は「生活に寄り添う」っていうコンセプトで活動してきたけど、それもすでに変わってきてるしね。

高橋:エンターテイメント感が強くなってきてるよね。

渋谷:だから、バンドの紹介文とかも来年になったら変わってると思います。俺らがやりたいのって、ファッションブランド的な感じというか、sui sui duckとしての独自のスタイルがあった上で、毎年自分たちのなかでひとつトレンドを決めて、それに沿ってやる感じなんですよね。去年の年末に、今年の「生活に寄り添う」ってテーマを決めたけど、逆に来年は、浮世離れした、SF色の強い作風になるのも全然アリだし。

高橋:それが今日の美術にもちょっと表れちゃってるよね(笑)。

渋谷:日常生活のなかで蛍光灯下に置かないもんね(笑)。

渋谷勇太

J-POPバンドでありつつ、その周りの面白いことに好奇心で手を出してるだけっていうかね。(高橋)

—高橋くん自身としては、sui sui duckの活動を通じてどんなことをやっていきたいと考えていますか?

高橋:日本特有だと思うんですけど、まだまだクリエイターが名前分けされて、壁を立てがちじゃないですか? コピーライターはコピーしか書かない、デザイナーはデザインしかしない、みたいな。そうじゃなくて、いろんな分野で、もうちょっと境目が溶けたほうがいいと思うんです。

sui sui duckのなかの形ってそれに近くて、僕がアートディレクターではあるけど、すべてをディレクションしてるわけじゃなくて、メンバーと話し合って決めてる。壁を溶かす一番最初の実験の場が、sui sui duckだっていう考えが個人的にはあります。

渋谷:最初から「バンドだからこう」みたいなのはないよね。だから、王道のバンドではまったくないけど、J-POPバンドだっていう、そこが重要かも。「王道ではない王道J-POP」というか……これ、キャッチフレーズになりそう(笑)。

—確かに(笑)。

渋谷:実際、最近はハッシー(高橋)が持ってきた企業の広告案件で、サイトの曲を僕が作ったりもしてるんですよ。ちょっとした会社みたいな感じになってるよね(笑)。

高橋:企業さんの音楽に対するウェイトってまだ軽い部分があって、「フリー素材でいいだろ」と思われてるところもあるんですけど、その企業さんの世界観のある曲を作ると、映像ひとつにしても、めちゃくちゃアドバンテージになるんですよ。そういうことをプレゼンして、渋谷に曲作ってもらうと、企業さんの反応もすごくいいんですよね。

渋谷:やっぱり、もはやバンドではないよね(笑)。

高橋:クリエイティブ集団ね(笑)。

渋谷:最近いじられるんですよ。「クリエイティブ集団ってなんだよ?」って(笑)。俺らも別にそう思ってやってはいなくて、あくまでJ-POPバンドなんですけど。

渋谷勇太

高橋:J-POPバンドでありつつ、その周りの面白いことに好奇心で手を出してるだけっていうかね。

—王道じゃない王道J-POPですね(笑)。では最後に、途中で現在は表現の方向性がよりエンターテイメントに近づいてるという話がありましたが、実際今後どうなっていきそうか、現時点で話せるところまで話してもらえますか?

渋谷:実は来年のコンセプトはもう決まってて、来年はよりデヴィッド・ボウイを目指そうと思ってて、「宇宙とロック」がテーマなんです。

—おお、“Space Oddity”だ。

渋谷:そうなんです。なので、また表現の仕方が変わってきていて、より色とりどりな、スケール感の大きいサウンドになっていくと思います。壮大なんだけど、孤独っていうのがテーマですね。

高橋:ジャケットもミュージックビデオも、大きく変わると思います。

—2018年のS/Sからはまたガラッと変わると。

渋谷:そうなんです。S/SとA/Wで変えたくて、アー写を頻繁に変えるのもそういうことなんですよね。

2017年S/Sのアーティスト写真
2017年S/Sのアーティスト写真

2017年A/Wのアーティスト写真
2017年A/Wのアーティスト写真

渋谷:あとは「どう楽しんでもらうか」をより考えたいと思っていて、自分の発信だけじゃなく、お客さんが主役になれるように、ということをもうちょっと考えたい。お客さんが主役の目線で、宇宙を体験してもらうような、そういう活動ができればなと思っています。

リリース情報
sui sui duck
『FEEL』(CD)

2017年10月4日(水)発売
価格:1,728円(税込)
LUCK-2005

1. No news is good news(SE)
2. feel
3. circle
4. wave
5. swim2
6. pepper
7. sugar

イベント情報
『evening cinema × sui sui duck 共同企画 supported by TOWER RECORDS』

2017年12月4日(月)
会場:東京都 渋谷 WWW
出演:
sui sui duck
evening cinema
and more
料金:前売2,500円 一般2,800円(共にドリンク別)
※来場特典:原田夏樹(evening cinema)と渋谷勇太(sui sui duck)合作のコラボ楽曲にアクセスできるSpotifyコード付きステッカー

プロフィール
sui sui duck
sui sui duck (すい すい だっく)

2015年結成。見覚えあるあの黄色いアヒル。2016年4月からライブ活動をスタート。同年12月に自主制作EP『RUN』『WALK』をリリース。EAGLESとDaft Punkを敬愛するボーカル・コンポーザー渋谷が放つ楽曲からインスパイアされたアート・ファッション・ビデオなどをクリエイティブチームがコンセプチュアルに体現。音楽を中心にライフスタイルを提唱するプロジェクト集団でもある。メンバーは、渋谷勇太(Vo,Gt)、清水新士(Ba)、堀内拓海(Gt)、安達智博(Dr)、加藤亜実(Key,Cho)、高橋一生(Artwork Director)。



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