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柴田聡子が見た言葉をめぐる展覧会『ヒツクリコ ガツクリコ』展

柴田聡子が見た言葉をめぐる展覧会『ヒツクリコ ガツクリコ』展

『ヒツクリコ ガツクリコ ことばの生まれる場所』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

柴田聡子

歌詞の整合性はないのにパッとつながる線に、意外な感動が詰まっていることがあるんです。

じつはここで朗読されているのは、有名アナウンサーでありながら病に倒れた山川さんの父・千秋さんが、生前に妻と山川さん兄弟に当てた3枚の遺書。壁から骨伝導を通して聞こえたのは、展示もされているその遺書を、彼らがそれぞれ読む声です。

柴田聡子

一方、最初に映像で映されていたのは、NASAが1988年、地球外生命体に向けてボイジャー号に搭載した、55か国の異なる「こんにちは」の声が録音された通称「ゴーデンレコード」。会場には、実際の音声も流れています。つまりこの作品は、未知の存在への出会いの言葉と、地上を去る死者の言葉を並列させたものだったというわけです。

柴田:額を当てながら、聞き入ってしまいました……。この場所に展示されると思わずに書かれた、実際に亡くなった方の文章だから、自然と凄みがあって。それに、私たちが本来聞くべきではない言葉を聞いてしまっているような、後ろめたさもありました。

柴田さんの感じた戸惑いの正体は、究極の1対1の伝達ともいえる「遺書」の言語空間に、他人だったはずの自分が立ち会ってしまったことに由来するのかもしれません。

柴田:声のリズムに合わせて光が明滅していて、振動もすごく来る。お父さんの言葉を追体験させる工夫がたくさんされていました。でも、その演出より、私にはお父さんの実際の遺言の衝撃が強くて……。この作品を消化するのは、時間がかかりそうです。

柴田聡子

言葉をめぐる、アーティストのさまざまなアプローチ。そのなかには、山川さんの作品のように、具体的な言葉で描かれながら受け手の心を揺さぶるものもあれば、いまだ不定形な言語空間を視覚的に表現したものもあります。鈴木ヒラクさんの『GENGA』や『Constellation』といったシリーズは、まさに後者を象徴するような作品です。

鈴木ヒラク『Constellation ♯19』2017年 作家蔵
鈴木ヒラク『Constellation ♯19』2017年 作家蔵

柴田聡子

『GENGA』とは、「言語」と「銀河」を組み合わせた鈴木さんによる造語。映像で次々に流れる象形文字のような不思議な形態は、道路標識など、さまざまなものの断片をつないで彼が描いた新しい言葉です。

一方、「星座」を意味する『Constellation』では、まさに星座が、無数の点のあいだに関係性や意味を見出していくように、なにかを示唆するような記号の断片の集まりが、シルバースプレーによって描かれています。読めそうで読めない鈴木さんの作品を前に、柴田さんも「音楽みたい」と興味津々。

柴田聡子

柴田聡子

ところで、断片と断片をつないでひとつの世界を描くのは、柴田さんの歌詞にも見られる特徴です。たとえば、『愛の休日』の1曲目“スプライト・フォー・ユー”では、歌詞の前半で<富士山見れてうれしかった>という言葉が繰り返し登場する一方、後半ではそれと無関係に思える<泡の飲み物>のありがたさが歌われます。しかし、その日常の断片がひとつの歌詞に収められることで、そこに新鮮な感情が立ち上がります。

柴田:そこは、私が映像を学んでいたことが関係するかもしれません。映像も、複数のシーンをつなぐもの。編集では、どんなシーンをつなぐかで面白さが変わります。

そして歌詞も星座と同じで、整合性はないのにパッとつながる線に、意外な感動が詰まっていることがあるように思います。その方法は言いたいことを直接表現するより、その感情に近いことが思いのほか多い。歌詞を書くときは、一旦遠いところから出発してみたりします。

柴田聡子

柴田聡子『愛の休日』ジャケット
柴田聡子『愛の休日』ジャケット(Amazonで見る

作者以上に世界観を羽ばたかせてくれるのは、見たり聞いたりしてくれる人たちなのかもしれません。

一見バラバラに見える、現実のワンシーンや些細なものたち。それらを編み込むことではじめて語りうる物語や感情の可能性は、最後に訪れたミヤギフトシさんの作品にも共通するものです。展示されているのは、「American Boyfriend」というシリーズ。

柴田聡子

ミヤギフトシ『The Ocean View Resort』(2013年) 提供:ミヤギフトシ
ミヤギフトシ『The Ocean View Resort』(2013年) 提供:ミヤギフトシ

2012年に開始されたこのシリーズでは、リアルかフィクションか判別しがたい語りによって、ミヤギさんの故郷の沖縄県とアメリカとの関係性、男性同士の恋愛、個人のアイデンティティーといった主題が扱われています。驚くべきは、使われるメディアの幅広さ。映像や写真はもちろん、印刷物や関係者への手紙、文芸誌に書かれた小説やブログの文章、さらにはタバコの空き箱や市販のガムまでもが、その世界を構成しています。

ミヤギフトシ『The Ocean View Resort Printed Ephemera』(2013年) 提供:ミヤギフトシ
ミヤギフトシ『The Ocean View Resort Printed Ephemera』(2013年) 提供:ミヤギフトシ

柴田聡子

柴田聡子

柴田:ここにあるものすべてが、ひとつの物語につながっているなんてすごい。しかも、現在進行形で要素が増え続けているのは、ジャングルの増殖みたいで面白いです。文章も、人のすごく柔らかいところを触れてくれるような、想像させる力に溢れていて素敵です。

柴田聡子

一方、ミヤギさんの作品からは、その世界を受け取る人の重要性も感じると言います。

柴田:こうした世界観の断片を、多くの人が受け取って、物語を創造してくれるのは奇跡的なことだなと思います。私の曲も、聞いてくれる人がいないとどうにもならない。作者以上に世界観を羽ばたかせてくれるのは、見たり聞いたりしてくれる人たちなのかもしれません。

柴田聡子

こうして、長時間にわたった鑑賞ツアーは終了。印象的だったのは、じっくりと作品に向き合い、そこにある言語への思考を、自分の言葉で口にしようとする柴田さんの姿です。表現者たちの言葉との戦いは、柴田さんを大いに刺激したようです。

柴田:朔太郎ファンなので、はじまりからとても感化されたし、いろんな人が言葉について考え続けていることが、すごく大切だと思いました。私も考え続けて、現代に石ころくらい投げられたら本望です。

柴田聡子

世の中には、自身の言葉になりにくい感情を、そのまま「言葉にならない」という紋切り型の言語に託してしまう表現も多くあります。しかし、その言葉未満の感情を、視覚や聴覚といったあらゆる手段を通してなんとか「かたち」にしようとする努力から、言葉の可能性は拓かれてきた。そんなことが、この展覧会を歩くことから見えてきます。

柴田:実際には言葉は、どんな風にも表現できる。でも、やっぱり「なんでもアリ」じゃない気もします。戸惑いながらでも、なにかを口にしないと伝わらない。『愛の休日』ではそんな「伝えること」に、これまで以上にもっと取り組もうと。

ここに展示された人たちが見ようとした言葉の可能性に、私も頑張って向き合いたいです。そこから多くの人が考えることをはじめたら、それはとても良いことだと思うんです。

柴田聡子

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イベント情報

『ヒツクリコ ガツクリコ ことばの生まれる場所』

2017年10月20日(金)~2018年1月16日(火)
会場:群馬県 アーツ前橋、前橋文学館
時間:アーツ前橋11:00~19:00、前橋文学館9:00~17:00(共に入場は閉館の30分前まで)
参加作家:
足立智美
荒井良二
浦上秀樹
大澤雅休
大澤竹胎
オノ・ヨーコ
oblaat
河口龍夫
河原温
フランチェスコ・カンジュッロ
北園克衛
草野心平
ジョン・ケージ
塩見允枝子
クルト・シュヴィッタース
白石慶子
鈴木ヒラク
トゥッリオ・ダルビゾラ
トリスタン・ツァラ
東宮七男
TOLTA
新国誠一
ni_ka
萩原恭次郎
萩原朔太郎
福田尚代
文月悠光
ベン・ヴォーティエ
ジョージ・マチューナス
Maniackers Design
フィリッポ・T.マリネッティ
ミヤギフトシ
ムットーニ
山川冬樹
山村暮鳥
横堀艸風
休館日:水曜、12月28日~1月4日
料金:一般700円 学生・65歳以上350円
※高校生以下、障害者手帳をお持ちの方と介護の方1名は無料
※10月20日、10月28日、1月9日は観覧無料日

山川冬樹パフォーマンス

2017年12月2日(土)
14:00~15:30 パフォーマンス
16:00~17:30 山川冬樹×今井朋(本展担当学芸員)対談
会場:群馬県 アーツ前橋 地下ギャラリー
料金:無料(要観覧券)
※申込み不要

『かくとはなす』

2017年12月9日(土)
14:00~14:30 ドローイングパフォーマンス
14:45~16:15 今福龍太(文化人類学者)×鈴木ヒラク対談
会場:群馬県 アーツ前橋 地下ギャラリー(パフォーマンス)、アーツ前橋スタジオ(対談)
定員:50名(対談のみ、事前予約制)
料金:無料(要観覧券)
※本展参加作家の鈴木ヒラクのライブパフォーマンスと今福龍太との対談イベント、申し込みアーツ前橋へ電話(027-230-1144)

書籍情報

『ヒツクリコガツクリコ ことばの生まれる場所』
『ヒツクリコガツクリコ ことばの生まれる場所』

2017年11月1日(水)発売
監修:アーツ前橋、前橋文学館
価格:2,376円(税込)
発行:左右社

プロフィール

柴田聡子(しばた さとこ)

大学時代の恩師の一言をきっかけに活動を始める。作品の発表は数多く、現在までに三沢洋紀プロデュース多重録音による1stアルバム『しばたさとこ島』、自身で録音した2ndアルバム『いじわる全集』、山本精一プロデュースによる3rdアルバム『柴田聡子』、岸田繁(くるり)、山本精一のプロデュース参加を始め、錚々たるミュージシャンたちと紡いだ4thアルバム『愛の休日』を発売。また、フェスティバル / トーキョー13では1時間に及ぶ独白のような作品『たのもしいむすめ』を発表、2016年、初の詩集『さばーく』を発売。第5回エルスール財団新人賞<現代詩部門>を受賞。『文學会』『すばる』に詩を寄稿するなど、歌うことを中心に活動の幅を広げている。

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