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彫刻家・中谷ミチコがドイツで得た、自分の帰る場所を作る覚悟

彫刻家・中谷ミチコがドイツで得た、自分の帰る場所を作る覚悟

『未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影・編集:久野剛士
2018/01/09
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自分の帰る場所はどこか? ドイツ東部の街・ドレスデンで滞在制作を行ってきた中谷ミチコは、それを探し求める彫刻家だ。彼女が現在、拠点としているのは三重県津市白山町。はじめて耳にする土地で、ネットで行き方を調べると、京都や名古屋から、たっぷり2時間はかかる。取材の日は、8月の敬老会特別企画 中谷ミチコ『When I get old』を津市の私立大室美術館で開催中だった。

なぜ彼女は都会から離れた津市を拠点に活動しているのか? ドイツでの生活の孤独さから抜け出したきっかけや、文化庁による海外研修の成果を示す『未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展』参加の思いまでを、語ってもらった。

帰る場所が定まっていれば、旅に出るにも勇気が持てる。

—中谷さんは長年ドイツを拠点に活動している印象があったのですが、いまは三重県の津市にお住まいなんですね。しかも、相当に自然豊かな場所に。

中谷:(笑)。ドイツには合計7年住んでいて、日本に戻ってきたのは数年前です。実家は東京なのですが、制作場所の確保と大型作品の保管場所を考えて、亡くなった祖父が住んでいたこの空き家に越してきました。

隣のガレージはアトリエに改装して、祖父が営んでいた犬の首輪工場は「私立大室美術館」という名前で展示スペースにしています。美術館と言っても、私のパートナーが改装、運営しているものなのですが。

8月に、三重県「私立大室美術館」にて取材中の中谷ミチコ
8月に、三重県「私立大室美術館」にて取材中の中谷ミチコ

—工場の痕跡が、ほぼそのまま残っている美術館ですね。

中谷:ええ。周囲に住んでいる人も遠縁の親戚が多いので、スッと入って行けるコミュニティーのある環境で、子育てにも合っています。それが、ここを住処に選んだ理由です。

—いまは、日本よりもドイツのほうが作品制作の面でも生活の面でも恵まれている印象があります。

中谷:それはそうかもしれませんが、ドイツでの暮らしでは借り住まいのような感覚を強く持っていました。なので、いつでも帰ってこられる場所を作りたいと考えていたのです。帰る場所が定まっていれば、旅に出るにも勇気が持てます。

「私立大室美術館」内観
「私立大室美術館」内観

—ドイツではドレスデンにお住まいでしたよね。最初の5年は自費留学、そして後半の2年は文化庁の在外派遣だと聞きました。なぜドイツだったんでしょう?

中谷:多摩美術大学の彫刻科を卒業して半年後に渡独しました。大学ではかなり保守的な具象彫刻を作っていましたが「このままではいけない!」と感じていたのです。それで、それまでの自分のコンテクストから離れた場所に行きたいと思い立ち、ドイツの語学学校に入りました。でも全然ダメでした。

—ダメというと?

中谷:それまでの作品を見せても「こんなのいまのドイツでやってるヤツはいないよ!」と全否定されたり……(苦笑)。しかも、ハイデルベルグという田舎町の語学学校に行って、制作と語学勉強にどっぷり浸かるつもりが、ちょうど与えられた宿舎は、その街には唯一と言ってよいくらいの13階建てのビルの最上階の部屋で、私以外に誰もいないのです。しかも英語もドイツ語も分からないから、誰とも喋らない生活。毎日窓から地平線まで広がる畑に夕日が沈むのを眺めていた最初の1ヶ月でした。

中谷ミチコ

—孤独ですね。

中谷:そのときに身近にあったのは、絵を描くことと、花だけ。毎日花を摘んで帰宅して、空きペットボトルに飾っていました。当時唯一日本語で話しかけても許してくれると思える共同生活者のような存在がその花でした。そのうちペットボトルじゃ申し訳なくなってきて空き瓶に生けるようになり、その周囲を自分で描いた沢山のドローイングで飾るようになった……。3週間くらい経ったときに、これはいよいよ精神的に追い詰められているなと気づきました。

—(笑)。

中谷:暗黒時代でしたね。でも後から考えると、その感覚と経験はすごく大切な事だったと思っています。

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リリース情報

『未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』
『未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』

2018年1月13日(土)~3月4日(日)
会場:国立新美術館 企画展示室 2E
料金:1,000円

『未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』アーティスト・トーク『具象彫刻/在り方の可能性―現れる私』

2018年1月17日(土)
会場:国立新美術館企画展示室2E入口特設会場
出演:
中谷ミチコ
棚田康司
料金:無料

『日比谷図書文化館特別展 DOMANI・明日展 PLUS × 日比谷図書文化館 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果 Artists meet Books 本という樹、図書館という森』

2017年12月14日(木)~2018年2月18日(日)
会場:東京都 千代田区立日比谷図書文化館1F 特別展示室
料金:300円

プロフィール

中谷ミチコ(なかたに みちこ)

1981年東京都生まれ。ドレスデン造形芸術大学 Meisterschülerstudium修了。近年の主な個展に『私は1日歌をうたう』(さいたま市プラザノース、埼玉県、2017)『暗い場所から、明るい場所まで』(Maki Fine Arts、東京、2015年)、『souzou no kage』(森岡書店、多摩美術大学彫刻棟ギャラリー、ともに東京、2014年)、『Souzou no Yoroi』(Galerie Rothamel、フランクフルト、2014年)、『Schatten der Vorstellung』(Galerie Grafikladen、ドレスデン、2014年)など。

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