特集 PR

『ふじのくに⇄せかい演劇祭』宮城聰が語る、今芸術が必要な理由

『ふじのくに⇄せかい演劇祭』宮城聰が語る、今芸術が必要な理由

『ふじのくに⇄せかい演劇祭 2018』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:今井正由己 編集:宮原朋之

今年のプログラムには「今日のヨーロッパ演劇が直面する課題」が反映されているんです。

2018年3月に東京都内で行われた『ふじのくに⇄せかい演劇祭 2018』の記者会見で、宮城は『民衆の敵』をヨーロッパ演劇の主流を継承する「先端」、『夢と錯乱』をそれとは対極的な「極北」、そして『リチャード三世 ~道化たちの醒めない悪夢~』を「流行」と呼び、「先端」「極北」「流行」の3つを座標軸にすることで「ヨーロッパ演劇の今を伝えたい」と述べていた。

狂王として知られるイングランドの王を主役にした、ジャン・ランベール=ヴィルドの『リチャード三世 ~道化たちの醒めない悪夢~』は、見世物小屋のような騒々しさを特徴とするが、狂気と表裏一体の孤独を描いた作品と言える。

ジャン・ランベール=ヴィルド『リチャード三世 ~道化たちの醒めない悪夢~』 © Tristan JEANNE-VALÈS
ジャン・ランベール=ヴィルド『リチャード三世 ~道化たちの醒めない悪夢~』 © Tristan JEANNE-VALÈS

宮城:『リチャード三世』を「流行」と表現したのは、本作にはヨーロッパが直面する課題が見え隠れしているからです。現実問題として、ヨーロッパの演劇界にお金がなくなってきています。

これまでの基本的な経営手法は、劇場で新作を作り、他の劇場に買ってもらい、ロングツアーを組むことで制作費を回収する、というものでした。しかし、予算が限られていくなかで、仮にビッグスケールの作品を作れたとしても、他の劇場が買うことができないという状況が起こっています。

宮城:そのなかで『リチャード三世』が成功したのは、優れた作品であることはもちろんですが、大作戯曲をわずか2名で演じる、という戦略によるものでもありました。制作の過程にはリーマンショック以降の厳しい台所事情があるんです。

『民衆の敵』のオスターマイアーは、自身が芸術監督を務めるベルリン・シャウビューネ劇場の生存戦略として、海外ツアーを選んでいますし、『夢と錯乱』のレジが一人芝居や二人芝居に力を入れているのは、カンパニーの制作体制を維持するためでもあります。つまり、今回のプログラムには「今日のヨーロッパ演劇が直面する課題」が反映されているんです。

宮城聰

フラメンコダンサーの小島章司さんが発する声の実直さ、たどたどしさは、演劇祭全体に関わる「孤独」や「発信」にも結ばれていくでしょう。

演劇祭の後半には、宮城の代表作『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』を皮切りに、舞踊家の小島章司と、女形の歌舞伎舞踊を習得したアルゼンチン出身のコンテンポラリーダンサーが共演する『シミュレイクラム/私の幻影』、オーストラリア先住民の俳優が主演する『ジャック・チャールズvs王冠』、メキシコの女優2名が空き店舗を会場に演じる『大女優になるのに必要なのは偉大な台本と成功する意志だけ』が登場する。そしてままごと、劇団子供鋸人、康本雅子、テニスコーツなど、日本各地のカンパニー&アーティストが集うプログラム『ストレンジシード』も行われる。

『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』(2012年) / 舞台芸術公園 野外劇場での公演より ©日置真光
『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』(2012年) / 舞台芸術公園 野外劇場での公演より ©日置真光

『ジャック・チャールズvs王冠』©Bindi COLE
『ジャック・チャールズvs王冠』©Bindi COLE

宮城:演劇祭の後半に予定しているプログラムの狙いは、非西欧圏で何が起こっているかを伝えることです。単純に言えば、前半で登場するヨーロッパを相対化する目線を獲得するためのプログラム。

例えば『シミュレイクラム/私の幻影』は、ノルウェー人が演出し、日本人とアルゼンチン人が主演しますから、どこの国の作品とは言いきれないところがあります。そして演劇的なるものとダンス的なるものが触れ合う「界面」としても、ユニークな作品です。

フラメンコの世界で活躍してきた小島さんは、70歳になるまで舞台上でセリフを喋った経験のない人。だから、この作品で発せられる言葉や声は、対話する相手がいて、かろうじて生み出されるものなんです。その実直さ、たどたどしさは、演劇祭全体に関わる「孤独」や「発信」にも結ばれていくでしょう。

『シミュレイクラム/ / 私の幻影』©Erik BERG
『シミュレイクラム/ / 私の幻影』©Erik BERG

宮城聰

宮城の発言を引きながら、『ふじのくに⇄せかい演劇祭』だけでなく、現在の日本やヨーロッパが直面する状況についても触れてきた本記事だが、最後にあらためて『寿歌』について、少しだけ書き加えたい。

『寿歌』が描かれた1979年から見た世界の終末を、2018年の自分があるリアリティーをもって受け止めてしまうことの奇妙さは、どこから来るものなのだろう? それはおそらく、場所も登場人物も時間もでたらめな『寿歌』に、時間をぐにゃりと歪ませるような不可思議な力があるからだろう。タイムマシーンを持たない私たちは、過去から未来へと進む時間をさかのぼることはできない。でも芸術を通じてならば、そのありえない現実を創造することもできるのではないだろうか?

愛知県芸術劇場にて3月下旬に初演された『寿歌』は、『ふじのくに⇄せかい演劇祭』では野外劇場「有度」にて上演される
愛知県芸術劇場にて3月下旬に初演された『寿歌』は、『ふじのくに⇄せかい演劇祭』では野外劇場「有度」にて上演される

そういったパラレルワールド的な思考は、例えばSF映画の『インターステラー』や『メッセージ』などに顕著だが、西欧圏の支配を受けたことのないアフリカの架空国家を描いたアメコミ原作の映画『ブラックパンサー』が、観客から熱狂的に支持されたことも、芸術表現が持ちうる「異なる価値観にに観客の想像力を接続する」可能性を示す出来事だったと言えるだろう。そして、この「希望」とも呼べる接続が起こる手前には、宮城が言ったような「宙ぶらりん」の時間が、流れているように私は思う。

宮城:これは余談なのですが、僕の今回の演出は、『寿歌』という戯曲が示そうとしている、ある種の「無残さ」に対して美しすぎる気がしています。これは初演した夜にはじめて思ったことで、僕はまだこの作品の全部を掴めていないのかもしれません。

宮城聰

宙ぶらりんであることを無意識的に描いた北村想の『寿歌』と格闘した宮城もまた、演出家としてこれまでにない宙ぶらりんの感覚を覚えたのかもしれない。その意味でも、この新しい『寿歌』はいまだ完成と未完成のあいだを浮遊し続けている。

様々な声と身振りで「世界」とつながることを試みる演劇祭の幕開けを告げる言祝ぎの歌。それは粗暴な声の大きさで「正しさ」と「正しくなさ」を仕分けしてみせるツイートやポストとは、まるで違うメロディとリズムを持っている。『寿歌』は、宙ぶらりんな曖昧さのなかで、私たちに躊躇することや迷うことの意味を問いかけている。

宮城聰

Page 3
前へ

イベント情報

『ふじのくに⇄せかい演劇祭 2018』
『ふじのくに⇄せかい演劇祭 2018』

2018年4月28日(土)~5月6日(日) 会場:静岡県 静岡芸術劇場、舞台芸術公園、駿府城公園、レストラン フランセ

上演作品:
『寿歌』(演出:宮城聰、作:北村想)
『民衆の敵』(演出:トーマス・オスターマイアー、作:ヘンリック・イプセン)
『夢と錯乱』(演出:クロード・レジ、作:ゲオルク・トラークル)
『リチャード三世 ~道化たちの醒めない悪夢~』(演出・出演:ジャン・ランベール=ヴィルドほか、原作:ウィリアム・シェイクスピア)
『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』(演出:宮城聰、台本:久保田梓美)
『シミュレイクラム/私の幻影』(演出・振付:アラン・ルシアン・オイエン)
『ジャック・チャールズ vs 王冠』(演出:レイチェル・マザ、作:ジャック・チャールズ、ジョン・ロメリル)
『大女優になるのに必要なのは偉大な台本と成功する意志だけ』(演出・作:ダミアン・セルバンテス)
料金:一般4,100円 全演目パスポート16,000円
※障害者割引2,800円(要障害者手帳、付添1名無料)

プロフィール

宮城聰(みやぎ さとし)

1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡辺守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出で国内外から高い評価を得る。2007年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、「世界を見る窓」としての劇場づくりに力を注いでいる。14年7月アヴィニョン演劇祭から招聘された『マハーバーラタ』の成功を受け、17年『アンティゴネ』を同演劇祭のオープニング作品として法王庁中庭で上演、アジアの演劇がオープニングに選ばれたのは同演劇祭史上初めてのことであり、その作品世界は大きな反響を呼んだ。他の代表作に『王女メデイア』『ペール・ギュント』など。04年第3回朝日舞台芸術賞受賞。05年第2回アサヒビール芸術賞受賞。平成29年度(第68回)芸術選奨文部科学大臣賞(演劇部門)受賞。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

LUMINE ART FAIR - My First collection / Art of New York City

10月12日、13日にルミネ新宿で開催する『LUMINE ART FAIR -My First Collection』のために制作された動画。現地アーティスト2名の言葉と、リアルな空気感とともにNYのアートシーンを紹介している。「NY、かっこいい!」という気持ちがムクムク膨れ上がってくるはずだし、アートに触れるきっかけはそれくらいがちょうどいいと思う。(石澤)

  1. 東京パラリンピック開会式の演出はKERA、閉会式は小林賢太郎 出演者募る 1

    東京パラリンピック開会式の演出はKERA、閉会式は小林賢太郎 出演者募る

  2. 『ONE PIECE』×カップヌードルCMの第3弾 ビビが仲間への想いを語る 2

    『ONE PIECE』×カップヌードルCMの第3弾 ビビが仲間への想いを語る

  3. 平野紫耀、永瀬廉、高橋海人が『婦人公論』で座談会 タキシード姿も披露 3

    平野紫耀、永瀬廉、高橋海人が『婦人公論』で座談会 タキシード姿も披露

  4. 有安杏果、結婚を発表。その経緯、お相手など、赤裸々に語る 4

    有安杏果、結婚を発表。その経緯、お相手など、赤裸々に語る

  5. 神木隆之介が母子で「au PAYで!」特訓&松本穂香の姿も 「高杉くん」新CM 5

    神木隆之介が母子で「au PAYで!」特訓&松本穂香の姿も 「高杉くん」新CM

  6. 『アナと雪の女王2』の歌に注目。エルサのメイン曲など新曲多数 6

    『アナと雪の女王2』の歌に注目。エルサのメイン曲など新曲多数

  7. 大友良英が『いだてん』音楽で伝える「敗者がいて歴史ができる」 7

    大友良英が『いだてん』音楽で伝える「敗者がいて歴史ができる」

  8. ソフトバンク新CMで岡田准一と賀来賢人が教師、リーチマイケルが校長に 8

    ソフトバンク新CMで岡田准一と賀来賢人が教師、リーチマイケルが校長に

  9. ポン・ジュノ『パラサイト』が東京&大阪の2劇場で先行上映、特別映像付き 9

    ポン・ジュノ『パラサイト』が東京&大阪の2劇場で先行上映、特別映像付き

  10. 星野源、Apple Music『歌詞のままに生きる』登場 日本のアーティストは初 10

    星野源、Apple Music『歌詞のままに生きる』登場 日本のアーティストは初