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水戸芸術館『ハロー・ワールド』展 テクノロジーが作る未来を問う

水戸芸術館『ハロー・ワールド』展 テクノロジーが作る未来を問う

水戸芸術館『ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影・編集:宮原朋之

重要なのは、小規模でも良いから何かを作る側になること。作ることが個人の自律性や人間性を保つことにつながる。

—感情を増幅する装置としてのネット環境をわかりやすく見せているのが、イギリスのレイチェル・マクリーンの映像作品『大切なのは中身』です。主人公はSNSで人気を集める女性ですが、その華々しさに次第に亀裂が入り、最後に彼女は醜い姿になってしまう……。

山峰:SNSでは承認欲求が何より優先されていますよね。どこかに行くにしても、ネット上での見え方を中心に考えられてしまう。でも、それは自分が楽しむためのものではなくて、ただ恐怖を煽られているだけ。自分への評価がクリアに数値化されるから、人に比べて評価が少ないと孤独を感じてしまう。そして、それを埋めるために行動するようになる。

人に良く見られたい、という気持ちは誰にでもあるけど、そればかりでは自分で自分を肯定することが出来なくなってしまう。でも、SNSはそういう状況を助長しているわけです。マクリーンの作品は、そんな他人からの評価に囚われて自分を見失ってしまった女性の凋落を、かなりマッドに、グロテスクに描いています。

レイチェル・マクリーン『大切なのは中身』(2016年) Commissioned by HOME, University of Salford Art Collection, Tate, Zabludowicz Collection, Frieze Film and Channel 4. 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)
レイチェル・マクリーン『大切なのは中身』(2016年) Commissioned by HOME, University of Salford Art Collection, Tate, Zabludowicz Collection, Frieze Film and Channel 4. 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

—展示作品にはほかにも、仮想通貨に切り込んだサイモン・デニーによる『ブロックチェーンの未来予測』や、AIと人との共存を描くセシル・B・エヴァンスによる『溢れだした』など、近年のホットトピックを扱った作品もあります。

山峰:デニーの作品が着眼するのは、仮想通貨のシステムにおける政治性の問題です。この作品では、ブロックチェーンに関連する実在の会社をモチーフにしたボードゲームを展示しています。このボードゲームは、小国が帝国を目指す「Risk」という欧米で人気のボードゲームをモデルに作られています。「Risk」を扱うことで、民主的な貨幣として期待されている仮想通貨を取り巻く状況も、新旧の覇権争いにすぎないと暗に語っています。

一方でエヴァンスは、情報化社会における情報の信ぴょう性をテーマに、フェイクニュースに翻弄される人間とAIの近未来の物語を完全自動の演劇で描いています。ソフトバンクのロボットPepperやソニーのaiboが演じるAIらが、別のAIの死の真相を探りにいくという物語です。今でも、情報の真偽を確かめるのは難しいことです。ですが、技術が発達し、人間と機械がより密接に共生する未来に、それがより難しくなっていく可能性をこの作品は示しています。

サイモン・デニー『ブロックチェーン・リスク・ボード・ゲーム プロトタイプ:暗号/アナーキスト イーサリウム エディション[1:1トラベル版]』(2016年) 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)Art Courtesy of the artist and Galerie Buchholz Cologne / Berlin / New York(参考図版)
サイモン・デニー『ブロックチェーン・リスク・ボード・ゲーム プロトタイプ:暗号/アナーキスト イーサリウム エディション[1:1トラベル版]』(2016年) 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)Art Courtesy of the artist and Galerie Buchholz Cologne / Berlin / New York(参考図版)

セシル・B・エヴァンス『溢れだした』(2016年) Courtesy of the artist and Emanuel Layr Galerie, Vienna 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)
セシル・B・エヴァンス『溢れだした』(2016年) Courtesy of the artist and Emanuel Layr Galerie, Vienna 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

—この作品でも描かれているような、テクノロジーが生み出す複雑に情報が飛び交う環境のなかで、これからの人が意識すべきなのはどんなことでしょうか?

山峰:テクノロジーの発展は誰にとって都合が良いのかを考えることですね。ただ与えられたものを受け入れるだけでは、結局何も見えなくなってしまうと思うんです。

そこで重要なのは、自分で自分の価値観を作ることです。単に既存のものを消費するだけでは、資本の価値観に流されていくことしかできない。そのために何かを作る、ということはとても有効だと思います。目的を設定し、そのプロセスを設計し、実際にやってうまくできたかを確認する。そのときに、生まれる嬉しさとか悔しさとか、そういうものが自分独自の価値観を育んでいくと思います。ここで言う作るものとは、アート作品を指しているわけじゃなく、フリーペーパーやコミュニティとか、多様な形があると思います。

山峰潤也(水戸芸術館現代美術センター 学芸員)

—実際にこの展覧会には、社会への警鐘だけではなく、無意識に生きる環境についてあらためて「知る」ことの楽しさも溢れていますね。

山峰:そう言っていただけるのは嬉しいですね。アーティストと付き合っていて思うのは、彼らがとても誇り高い人たちだということです。彼らには、資本や政治のバイアスに無批判に従いたくないという強い意識があるんですね。その拒否感が「知りたい」ということにもつながっていて、リサーチと想像力を駆使して作品が作られている。

アートというフォーマットの面白さは、事実とそうでないものを等価に扱えることです。今回の参加アーティストたちは、フィクションやアイロニーを交えながら現実とのあいだに距離を生み出し、見る人に想像させている。だから一見ポップだけど、よく見ると、深い社会への投げかけもあり、幅広い議論の場を作り出しています。今の社会に生きづらさや違和感を感じている人がいれば、ぜひ今回の展示を何かを考えるきっかけにしていただきたいですね。

山峰潤也(水戸芸術館現代美術センター 学芸員)

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イベント情報

『ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて』
『ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて』

2018年2月10日(土)~5月6日(日)
会場:茨城県 水戸芸術館 現代美術ギャラリー
時間:9:30~18:00(入場は17:30まで)
参加作家:
デヴィッド・ブランディ
小林健太
サイモン・デニー
セシル・B・エヴァンス
エキソニモ
レイチェル・マクリーン
ヒト・シュタイエル
谷口暁彦
休館日:月曜、2月13日(火)、5月1日(火)
※2月12日(月・祝)、4月30日(月・祝)は開館
料金:前売600円 一般800円 中学生以下、65歳以上・障害者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は無料

関連イベント

キュレーターによるギャラリーツアー
2018年4月14日(土)、4月19日(木)
各日15:00~16:00
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー内ワークショップ室

アーティスト・トーク
2018年4月30日(月)
14:00~15:30(開場13:30)
谷口暁彦(出品作家)、金澤韻(キュレーター / 十和田市現代美術館学芸統括)
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー内ワークショップ室

プロフィール

山峰潤也(やまみね じゅんや)

水戸芸術館現代美術センター学芸員。1983年生まれ。東京芸術大学映像研究科修了。学生時代より映像や舞台作品の制作をしていた経験から、映像やメディアを主題とする展覧会に従事。文化庁メディア芸術祭事務局、東京都写真美術館、金沢21世紀美術館を経て現職。主な展覧会に「3Dヴィジョンズ」「見えない世界の見つめ方」「恵比寿映像祭(第4回-7回)」(以上東京都写真美術館)。その他の活動に、IFCA(2011年、スロベニア)、Eco Expanded City(2016年、ポーランド、WRO Art Center)など海外のゲストキュレーション、執筆、助成金やアワードの審査員、講師、映像作品やメディアアートの研究を行う。2015年度文科省学芸員等在外派遣研修員。

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