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鳥居みゆきが接続する、内藤正敏のSF、イタコ、民俗学の写真世界

鳥居みゆきが接続する、内藤正敏のSF、イタコ、民俗学の写真世界

『内藤正敏 異界出現』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:木村直大

人が人を救えるって考えは、人間の傲慢だって気もする。(鳥居)

デザイン的な素養を感じさせる最初のコーナーから一転し、ここに並ぶのは即身仏、つまり仏僧のミイラ写真だ。

『鉄門海上人 注連寺』「即身仏」より 1964年 ゼラチン・シルバー・プリント
『鉄門海上人 注連寺』「即身仏」より 1964年 ゼラチン・シルバー・プリント

石田:現在の山形県に暮らした仏僧の即身仏(苦行の末に自らをミイラ化させる)を撮影したシリーズをきっかけに、内藤さんはそれまでの作品とネガの大半を焼き捨て、新しい表現へと挑み始めます。

「私が即身仏の撮影で受けたいちばんの衝撃は『死者から視つめられている』という感覚でした。(略)生きている自分が即身仏に視つめられる。化学を学んできた私にとって、生と死が逆転していることは大変な驚きでした」(『アサヒカメラ』2015年12月号)。

これは、内藤さんがインタビューの中で答えた言葉ですが、即身仏との出会いは、深い歴史の重さと死生観を彼に自覚させ、それまでの技術的な創作を断念させたんです。前の章で展示されているのは、たまたま焼却されなかったネガなどから再プリントした幻の作品なんですね。

鳥居みゆき

鳥居:私も単独ライブのテーマに「死と生」を扱っているので、わかる気がします。「死と生」への意識は気持ちをガラリと変える。でもちょっとだけ疑問に思うのは、即身仏になろうとした人たちの気持ち。人が人を救えるって考えは、人間の傲慢だという気もする。

左から:鳥居みゆき、石田哲朗(東京都写真美術館学芸員)

内藤の研究によると、即身仏の慣習は弥勒菩薩と関連があるのだという。56億7000万年後の未来に人々を救うために降臨する菩薩をアシストするために、仏僧たちは自らの身体をミイラ化させて、未来で蘇ろうとしたらしい。

鳥居:そっかー。でも死んでからの自分を大勢に見られるのは私は無理。「死んだら終わり」がいいです!

鳥居みゆき

暗闇の中ではみんなが平等って世界観は素晴らしいです。(鳥居)

同じ部屋にはもうひとつ、内藤の代表作「婆バクハツ!」シリーズが展示されている。これは青森県恐山のイタコの女性たちを撮影したシリーズ。夜の闇の中、ストロボの閃光で浮かび上がるイタコたちの姿は呪術めいた異界感を放つが、同時にエネルギッシュでもある。

『お籠もりする老婆 高山稲荷』「婆バクハツ!」より 1969年 ゼラチン・シルバー・プリント
『お籠もりする老婆 高山稲荷』「婆バクハツ!」より 1969年 ゼラチン・シルバー・プリント

石田:即身仏の撮影を経た内藤さんは、故人の霊と交信し、「口寄せ」として近親者にメッセージを伝えるイタコの撮影に取り組みます。当初はすごく怖い場所を想像していたのですが、実際には女性たちの陽気さ、楽しさに衝撃を受けたと言います。それが「婆バクハツ!」という、ポジティブなタイトルにつながっているんです。

鳥居みゆき

鳥居:お墓の真ん中で宴会してるじゃないですか! きっとこのバアちゃんたちは、生者と死者を区別せず、一緒に混ざり合って楽しもうとしてるんだね。私、なにかとなにかを線引きして考えるのが大っ嫌いなんです。暗闇の中ではみんなが平等って世界観は素晴らしいです。

『お堂に泊りこむ老婆 恐山』「婆バクハツ!」より 1969年 ゼラチン・シルバー・プリント
『お堂に泊りこむ老婆 恐山』「婆バクハツ!」より 1969年 ゼラチン・シルバー・プリント

鳥居みゆき

いまも、お祭りに見世物小屋が建ったり、喧嘩して流血してる人にも出くわしますけど、こんなにエネルギーはないですよね。(鳥居)

「婆バクハツ!」と同時期に撮影されていたのが、「東京 都市の闇を幻視する」シリーズ。東北に向かった内藤の関心は、身近な東京の闇へも向けられていたのだ。

『酒を飲む浮浪者 新宿』「東京 都市の闇を幻視する」より 1970年 ゼラチン・シルバー・プリント
『酒を飲む浮浪者 新宿』「東京 都市の闇を幻視する」より 1970年 ゼラチン・シルバー・プリント

石田:1970~80年代の新宿、銀座、浅草など、人の集まる猥雑な場所に目を向けたのがこのシリーズです。事故で大きくひしゃげた自動車の横に、子どもがぽつんと立っている写真や、鼻から口に蛇を通してみせる芸人をとらえた見世物小屋の光景は、時代のカオスを伝えています。

見世物小屋の光景を写した作品を観入る鳥居。
見世物小屋の光景を写した作品を観入る鳥居。

『キャバレーの看板 銀座』「東京 都市の闇を幻視する」より 1971年 ゼラチン・シルバー・プリント
『キャバレーの看板 銀座』「東京 都市の闇を幻視する」より 1971年 ゼラチン・シルバー・プリント

石田:一見地味なのですが、ここには奇跡の1枚があります。銀座の路地裏のゴミ捨て場を撮影した写真には、内藤さん曰く7匹のネズミが写っているそうです。ネズミはすばしっこいですから、こんなに集まっている瞬間を撮れることはまずない。この1枚をモノにするために、内藤さんは自宅でネズミを撮る訓練にいそしんだそうですよ。

『残飯をあさるネズミの群 銀座』1977年 ゼラチン・シルバー・プリント
『残飯をあさるネズミの群 銀座』1977年 ゼラチン・シルバー・プリント

左から:鳥居みゆき、石田哲朗(東京都写真美術館学芸員)

鳥居:私、こないだネズミ撮りましたよ! あ、でもそれは死んだネズミだから逃げないやつだった(笑)。いまも、神社のお祭りに見世物小屋が建ったり、歌舞伎町で喧嘩して流血して倒れている人にも出くわしますけど、こんなにエネルギーはないですよね。

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イベント情報

『内藤正敏 異界出現』

2018年5月12日(土)~7月16日(月・祝)

会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 2階展示室

時間:10:00~18:00(木、金曜は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)

休館日:月曜(7月16日は開館)

料金:一般700円、学生600円、中高生・65歳以上500円

※小学生以下、都内在住・在学の中学生、障害をお持ちの方とその介護者は無料

※第3水曜は65歳以上無料

トーク『内藤正敏の世界』

2018年6月29日(金)
会場:東京都 東京都写真美術館 1階スタジオ
時間:18:00~19:30
登壇:
赤坂憲雄(民俗学者、学習院大学教授)
定員:各回50名
※当日午前10時より1階総合受付にて整理券配布

担当学芸員によるギャラリートーク 2018年6月22日(金) 14:00~
2018年7月13日(金) 14:00~
※要展覧会チケット(当日消印)

鳥居みゆき単独ライブ狂宴封鎖的世界『Hotel La.Coffin』

2018年9月14日(金)~16日(日)
会場:東京都 新宿村LIVE
2018年10月6日(土)、7日(日)
会場:大阪府 近鉄アート館

プロフィール

鳥居みゆき(とりい みゆき)

お笑い芸人、女優、映像作家、小説家、絵本作家。1981年3月18日生。秋田県生まれ、埼玉県育ち。BSフジ『東北魂TV』でレギュラーを務めているほか、TBS『陸王』やANB『家政夫のミタゾノ』などにも出演。映画や舞台でも活躍している。絵本『やねの上の乳歯ちゃん』や小説『夜にはずっと深い夜を』『余った傘はありません』も話題を集める。趣味は般若心経、瞑想、被害妄想。

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