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鳥居みゆきが接続する、内藤正敏のSF、イタコ、民俗学の写真世界

鳥居みゆきが接続する、内藤正敏のSF、イタコ、民俗学の写真世界

『内藤正敏 異界出現』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:木村直大

都会で生きている人の仮面を剥ぐのが好き。嘘が暴かれた瞬間を垣間見たいんです。(鳥居)

人間臭さが充満していた約40年前の東京に続いて登場するのは、岩手県を取材した「遠野物語」だ。このシリーズで内藤は、カッパが生息していたと伝わるカッパ淵をはじめ、伝説やおとぎ話が伝わる場所を訪ねている。

『カッパ淵 土淵』「遠野物語」より1972年 ゼラチン・シルバー・プリント
『カッパ淵 土淵』「遠野物語」より1972年 ゼラチン・シルバー・プリント

茅葺屋根の古めかしい日本家屋や、夜のとばりが降りる黄昏どきの夕景には、秋田で生まれた鳥居にも覚えがあるかもしれない。

鳥居:生まれたのは秋田だけど、育ったのは埼玉なので、これはけっこう心理的な距離を感じる風景ですね。

もちろん親戚を訪ねて行くことはたびたびあったから、昔のよいところを切り取って、そのまま静止したような時間のありようはすごく好きです。でも、住む場所としては東京が好きだな。

鳥居みゆき

鳥居:私ね、東京って嘘で作られた世界だと思ってるんです。でも、秋田とか田舎のほうになると、みんな自分の素の姿で歩いてる。私みたいな芸人のように「仮面」をつけてない。私が新宿を好きなのは、都会で生きている人の仮面を剥ぐのが好きだから。嘘が暴かれた瞬間を垣間見たいんです。

なんとも意味深で、彼女なりの「芸論」を感じさせる発言だ。「内藤さんは、生と死に想いが深い人なんですな……」と、誰に言うでもなくぶつぶつと言葉を漏らしながら、次の章へと鳥居は進む。

白黒写真だってことに全然気付かなかった。光と闇に没入していて、意識から色が抜けていたのかも。(鳥居)

展覧会の後半は、それまでとは一転して鮮やかな色彩の世界が広がっている。山形県庄内地方の名峰・出羽三山に根付く修験道や、そこで信仰される神仏を題材にしたカラー写真を前にして、鳥居は突然叫んだ。

鳥居:あ、たしかにカラーだ! というかこれまでの前半が白黒だってことに全然気付かなかったよ。光と闇に没入していて、意識から色が抜けていたのかも。もしくは、私の脳の中で勝手に色が想像されていたのかも。

『お沢仏 梵天帝釈両部大日大霊権現像 大日坊』「出羽三山」より1982年 銀色素漂白方式印画 作家蔵
『お沢仏 梵天帝釈両部大日大霊権現像 大日坊』「出羽三山」より1982年 銀色素漂白方式印画 作家蔵

鳥居みゆき

石田:時代が進み、カラーフィルムの技術が向上したことで、内藤さんは制作に色彩を持ち込むようになりました。ここから続くシリーズの特徴として顕著なのは、被写体が人間から離れ、山や現象へとシフトしていくことです。

じつは内藤さんは写真家としてだけでなく、民俗学の研究者としても高い知名度を誇る人なんです。遠野地方の伝承に現れる、山中で生きた「山人(やまびと)」たちの文化圏に異界や主流からのアジール(避難所)を見出した内藤さんは、自ら山伏の修行にも打ち込み、やがて独自の「東北学」を形成していきました。

右:鳥居みゆき

実践的研究者としての内藤正敏像が際立つほどに、初期の即興的な偶然性や前衛性を打ち出した作品傾向は影をひそめ、重厚で正攻法な写真表現が確立していく。それは例えば、富士山から臨む山梨県・七面山の夜明けの写真に見ることができる。

『七面山』「神々の異界」より 1990年 発色現像方式印画 作家蔵

山頂から登る太陽の軌跡を長時間撮影でとらえたこの1枚は、1年に一度、春分の日にだけ見られる風景で、古来からの宗教行事と密接なものだという。

鳥居:山のてっぺんにペンライトが挿さってるみたい(笑)。「推しメン黄色!」みたいな。

内藤さん、なんでこの部分で撮影をやめたんでしょうね。だって1年に一度しか見られない景色でしょう。もっと撮りたいって思わなかったのかな。夜に見たいテレビドラマとかあったのかしら?

鳥居みゆき

さすがにテレビが理由ではないだろうが、この構図にも、民俗学者としての内藤なりの確信が込められているのかもしれない。

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イベント情報

『内藤正敏 異界出現』

2018年5月12日(土)~7月16日(月・祝)

会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 2階展示室

時間:10:00~18:00(木、金曜は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)

休館日:月曜(7月16日は開館)

料金:一般700円、学生600円、中高生・65歳以上500円

※小学生以下、都内在住・在学の中学生、障害をお持ちの方とその介護者は無料

※第3水曜は65歳以上無料

トーク『内藤正敏の世界』

2018年6月29日(金)
会場:東京都 東京都写真美術館 1階スタジオ
時間:18:00~19:30
登壇:
赤坂憲雄(民俗学者、学習院大学教授)
定員:各回50名
※当日午前10時より1階総合受付にて整理券配布

担当学芸員によるギャラリートーク 2018年6月22日(金) 14:00~
2018年7月13日(金) 14:00~
※要展覧会チケット(当日消印)

鳥居みゆき単独ライブ狂宴封鎖的世界『Hotel La.Coffin』

2018年9月14日(金)~16日(日)
会場:東京都 新宿村LIVE
2018年10月6日(土)、7日(日)
会場:大阪府 近鉄アート館

プロフィール

鳥居みゆき(とりい みゆき)

お笑い芸人、女優、映像作家、小説家、絵本作家。1981年3月18日生。秋田県生まれ、埼玉県育ち。BSフジ『東北魂TV』でレギュラーを務めているほか、TBS『陸王』やANB『家政夫のミタゾノ』などにも出演。映画や舞台でも活躍している。絵本『やねの上の乳歯ちゃん』や小説『夜にはずっと深い夜を』『余った傘はありません』も話題を集める。趣味は般若心経、瞑想、被害妄想。

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