インタビュー

今、音楽シーンの先端では何が起こっている? 有泉智子×柴那典

今、音楽シーンの先端では何が起こっている? 有泉智子×柴那典

テキスト
柴那典
撮影:Kana Tarumi 編集:山元翔一

特にアメリカにおいては、ロックバンドをやるという発想がすでに懐古趣味的なものになっている。(柴)

有泉:それに加えて、もう1つ大事なことがあって。2000年代が終わったあたりで明らかになったのは、いわゆるオーセンティックなギター、ベース、ドラム、ボーカルというスタイルの音楽が、方法論としてやり尽くされてしまったということだと思うんです。その形態での新しい、かつ大きなムーブメントって、The StrokesやThe White Stripesが出てきた2000年代前半のガレージロック・リバイバル、ポストパンク・リバイバルあたりが最後ですよね。

The Strokes『Room on Fire』(2003年)収録曲

The White Stripes『White Blood Cells』(2001年)収録曲

有泉:わかりやすいのは、yahyelのメンバーであるMONJOE(杉本亘)も篠田ミルも、もともとはいわゆるギターロックの系統にあるインディーロックバンドをやってたんですよね。けれど、そこではもうやはり新しいことをできる可能性が少ないことを実感して、yahyelを組むに至った。もちろんオーセンティックなロックバンド・スタイルで新しくて面白いものを生み出せる可能性は一切ない、なんていうわけではないんですが、今その可能性を追うのって、針穴に糸を通すようなことに近いと思うんですよね。

これは日本に限ったことではなくて、海外でも同様、というかむしろ海外で顕著なことで。実際、もはやオーセンティックな形態でロックバンドをやっている若い子って非常に少なくて、シンセも打ち込みもバンドの表現に当たり前に入っている。ビートミュージックやエレクトロニカの要素をどう取り込んでいくかっていうことは、今の時代にバンドをやる上では切り離せないことで。もちろん、それをやらないという選択肢を取るというのもひとつですけど、それも含めて、そこを考えずにはできないというか。

:そうですね。特にアメリカにおいては、ロックバンドをやるという発想がすでに懐古趣味的なものになってしまっているという現状がある。そしてその一方では、フランク・オーシャンやケンドリック・ラマー、Chance the Rapper、Childish Gambinoのようなブラックミュージックが社会に強いインパクトを与えている。じゃあ、それを踏まえてどういうことをやろう、という。

有泉:今のこの状況を理解するにあたっての起点はもう少し前で、2010年前後、Flying Lotusによる新しいビートミュージックの登場と、ジェイムス・ブレイクに代表されるようなポストダブステップをベースにした、のちにインディーR&BとかオルタナティヴR&Bとか言われる現代的なR&Bの登場が、やっぱり大きかったと思うんです。Flying Lotusがジャズに接近して、ヒップホップとジャズを融合させた新しいビートミュージックのスタイルが生まれてきたのがちょうど2010年くらいのことで、彼を筆頭にしたLAのビートミュージックシーンがすごく面白くなった。で、ロバート・グラスバーがジャズの文脈からヒップホップを取り込むアプローチをはじめたのもほぼ同時期なんですよね。

Flying Lotus『Cosmogramma』(2010年)を聴く(Apple Musicはこちら

The Robert Glasper Experiment“All Matter”(2009年)を聴く(Apple Musicはこちら

有泉:一方で、2000年代におけるほぼ唯一のジャンル的な発明はダブステップだって言われてたこともありましたけど、その文脈やアンビエントを編集したジェイムス・ブレイクやFKA twigsみたいなR&Bが一世を風靡していくのも同じ時期で。そうなると、「今から自分たちが作り得る本当に刺激的で面白い音楽って何だろう」「先鋭的なポップミュージックって何だろう」ってことを考えて音楽を作りはじめる子たち、アンテナを張っている10代の子たちは、そこに気づくわけです。一方で、インディーロックは新しい発明が生まれずシーンが停滞している状況があった。そういう状況にある以上、いざ音楽をはじめるってなったときに、自分たちの表現に意欲的であればあるほどオーセンティックなインディーロックとは違う選択肢を選ぶのって当然の流れではありますよね。

失われていたエクスペリメンタルな挑戦を取り戻そうとしているのがこの世代。(有泉)

:yahyelやD.A.N.やDATSって、基本的にはロックバンドの音楽を聴いて育ってきているんですよね。たしか、DATSはインタビューで自分たちのルーツをNirvanaとOasisとELLEGARDENだと言っていました。

有泉:そうですね。D.A.N.や、あるいはThe fin.なんかも、中学時代にASIAN KUNG-FU GENERATIONを聴いたのが最初の音楽体験だっていうような話もしてましたね。

:つまり、2000年代の日本のロックバンドを聴いて育った世代なんですよね。でもそれを直接的に継承するような音楽性にはならなかった。

柴那典

有泉:彼らからしたら、そこから分岐していった2000年代後期以降の日本のロックシーンが非常に国内的なものになってしまったとことへのフラストレーションもあったんじゃないかな。特に2010年代前半の日本のバンドシーンって均一化が進んでましたしね。その背景にはフェスの現場でどれだけ盛り上げられるかってことが若手バンドの登竜門になった影響もあったし、そのなかで4つ打ちソングが大ブームになったというのもそうですけど。で、そういう動きに対してつまらなさを覚えるようなところがあったんじゃないかと。当然、人と同じことをやっても仕方ないって気持ちもあるでしょうし。

:そうですね。僕がさっき話したアイドルの話もそこにつながる話で。たとえば、ももいろクローバーZやでんぱ組.incのようなアイドルが頭角を現したというのも、結局のところ、アイドルというものが新しい音楽を発明するアートフォームとして機能したということだったと思います。

有泉:yahyelやD.A.N.の現場を見ていると、クラブミュージックの流れも大きいと思うんです。日本のクラブシーンというか、テクノを主体とするダンスミュージックのシーンって、1990年代に石野卓球、Ken Ishii、田中フミヤが作り上げたシーンから、それほど更新されてこなかったと思うんですよ。そのあとに出てきた世界にも通じる力を持ったDJはDJ Nobuくらいだし、『WIRE』や『METAMORPHOSE』といったレイヴが近年開催されていないことや、あるいは風営法の問題もあってオールナイトのクラブ文化が難しくなっていったりもしたし。もちろん、そこには世界のダンスミュージックの動向の移り変わりも関係してるんですけど。

有泉智子

:2010年代に入って広まったのはEDMのカルチャーですよね。それ以前にあったイギリスやヨーロッパのクラブミュージックとは違う文脈のものがアメリカのマイアミから世界中に広がっていった。

有泉:EDMはポップスとして成立したことが素晴らしいけど、先鋭的な新しい音楽を生み出すアートフォームではないですよね。クラブミュージックの現場って、新しい音楽の実験の場所でもあったと思うんですよ。新しいリズム、新しい音、新しいアプローチ、新しい構造を持った刺激的な音楽を作り上げていくような。

わかりやすい例を出すとRadioheadが『Kid A』(2000年)を生み出した背景にはAutechreの存在があったというのもそうですけど、前衛的で先端的な、エクスペリメンタルで創造的な場として機能がクラブカルチャーにはあり続けていたと思うんです。で、その実験の成果をポップミュージックのアーティストが取り込むことで、ポップミュージックが更新されていくという有機的な循環があった。

Autechre『Amber』(1994年)を聴く(Apple Musicはこちら

有泉:もちろん、さっき例に挙げたジェイムス・ブレイクだったり、2000年代以降にもあり続けてはいるんですけどね。で、国内に目を向けると、そういう文脈でのクラブシーン、エレクトロニック・ダンスミュージックで新世代が刺激的な現場を作ることって長らくなかったと思うんですけど、yahyelやD.A.N.のような世代からは、また出てきているんですよね。たとえばseihoやMadeggといったアーティスト、あるいはLicaxxxみたいな新世代のDJが活発な活動をしていることもそう。

Madegg『NEW』(2016年)を聴く(Apple Musicはこちら

有泉:だからちょっと大げさな言い方になるかもしれないけど、ロックにしてもクラブミュージックにしても、しばらくこの国で失われていたエクスペリメンタルな挑戦を取り戻そうとしているのがこの世代だと思う。

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プロフィール

有泉智子(ありいずみ ともこ)

1980年、山梨県生まれ。音楽雑誌『MUSICA』編集長/音楽ジャーナリスト。音楽誌、カルチャー誌などの編集部を経て、2007年の創刊時より『MUSICA』に携わる。2010年から同誌編集長に着任。

柴那典(しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA」「MUSICA」「リアルサウンド」「NEXUS」「ミュージック・マガジン」「婦人公論」など。「cakes」にてダイノジ・大谷ノブ彦との対談連載「心のベストテン」、「リアルサウンド」にて「フェス文化論」、「ORIGINAL CONFIDENCE」にて「ポップミュージック未来論」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。

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