インタビュー

今、音楽シーンの先端では何が起こっている? 有泉智子×柴那典

今、音楽シーンの先端では何が起こっている? 有泉智子×柴那典

テキスト
柴那典
撮影:Kana Tarumi 編集:山元翔一

yahyelって自分たちのことを「バンド」とは言ってないですよね?(柴)

:VJを含んだ特殊な編成というのが一番象徴的ですけど、yahyelはスタンスとしても、音楽性的にも、かなり意識的にエクスペリメンタルな志向を打ち出していますよね。そういう点で、彼らは日本の音楽シーンの今後を占う存在だと思うんです。有泉さんは、yahyelに対してどういう第一印象を抱きましたか?

有泉:第一印象は、Flying Lotus以降のビートミュージックやジェイムス・ブレイク以降のポップミュージック、つまり2010年代の新しい海外の音楽と明確な同時代性を持った、かつ、ただ流されるのではなく、それをちゃんと自分たちの解釈で自分たちの表現として音楽にしていく日本のアーティストが遂に出てきたな、という印象でした。

有泉智子

yahyel『Flesh and Blood』を聴く(Apple Musicはこちら

:yahyelって自分たちのことを「バンド」とは言ってないですよね?

有泉:言ってないですね。「音楽集団」と言ってますけど、彼らが自分たちをバンドと呼ばないのは意識的なことですね。たぶん、バンドという言葉に付随する既成のイメージに絡め取られたくない、という意図があるんだと思いますし、自分たち自身も、バンドであると言ったところから生まれてしまう馴れ合い的な感覚を排除したいんだと思います。

とはいえ、私は彼らをロックバンドとして捉えているし、今年出た2ndアルバム『Human』に至る過程で、彼らのなかに非常にバンド的な価値観の共有が行われていると思ってますけどね。ロックバンドっていう言い方をすると、「ロックって何だ?」って話にもなっちゃうんですけど、実際ロックバンドが鳴らす音楽って時代や世代によって変わってきたものだと思うし、別にオーセンティックなロックンロールをベースにしていなくてもいいと思ってるので。こういう言い方をすると非難もされるでしょうけど(笑)。でも要は、そのときに自分たちが一番カッコよくてエキサイティングだと思う音楽をバンドで鳴らしてるってことが重要だと思うし、そこからロックバンドの新しい可能性が生まれ、更新されていくものだと思う。

:yahyelとDATSに関してはメンバーも重なっているので(杉本亘と大井一彌が両バンドに在籍)、ロックバンドというものに対しての意識は明確に差別化されてると思いますね。端的に言うと、DATSはyahyelとまったく同じ時代認識を踏まえたうえで、それでも堂々とロックバンドをやろうとしている。1990年代にOasisが、2000年代にKasabianが出てきたのと同じように、実験的で先鋭的なものというよりも、1つの新しい王道を作ろうとしている。

柴那典

DATS『Digital Analog Translation System ver.1』(2018年)を聴く(Apple Musicはこちら

有泉:そうですね。DATSのほうがわかりやすいですけど、彼らは前提として、かつて自分が好きだったロックバンドと同じサウンドフォーマットでやっても、今の時代のロックにはならないんじゃないかという考え方を持ってますよね。もちろん憧れているし大好きだと思うけど、それが今の時代、今の若い世代の感覚としてリアリティーを持った音楽、ロックとして響くかといえば、そうではない。

だからかつてのロックバンドが持っていたメンタリティーを鳴らすためには、サウンドにしてもスタイルにしても、今の自分たちの価値観を反映して発信していかなければいけない。過去の焼き直しをやりたいわけではないですから。そういう意識は、若い世代はもちろん、上の世代のバンドでも今はみんな多かれ少なかれ持っているし、試行錯誤してますよね。

「集団としての1つの価値観や思想が育っていく」というのも、バンドの面白さだと思うんです。(有泉)

:これも世界中で同時代的に起こっている潮流ですけれど、今は「バンドというものが何であるか」が問い直されている時代とも言えるんですよね。特に先鋭的なクリエイターにとっては、どんどん個人の時代になっている。才能のある人が点と点で結びついてプロジェクト的に作品を作るようなあり方がモダンな音楽シーンでは当たり前になっていて。

DrakeとかKanye WestみたいなR&Bやヒップホップのシーンはもちろんだけど、Maroon 5みたいにバンドだってそういう発想になっているんですよね。かつてはバンドに一蓮托生の仲間みたいなイメージがあったんだけれど、どんどんそうじゃなくなっている。そう考えると、yahyelのあり方はすごく現代的だと思うんです。映像作家としていろんな仕事をしている山田健人(dutch_tokyo)がメンバーにいたり、yahyelとDATSとメンバーが重なっていることも含めて。

yahyel
yahyel

有泉:まさにそうですね。もちろん、固定されたメンバーで音楽を作っていくということには、すごく有用な側面もあるんですよ。長い期間を同じメンバーで同じ時間を過ごすなかで深まっていくものは必ずあるし、だからこそ生まれる物語もある。でも、メンバーが固定されればどうしたって制約も出てくるわけで、音楽的選択肢が絞られていく側面もありますよね。

柴さんが言った「現代が個の時代である」っていうのはまさにそうなんですけど、そもそもなんでそうなったかというと大きな要因は2つあって、その1つには、DTMを使って1人で音楽が作れるようになったということがありますよね。ギター、ベース、ドラムといったプレイヤーを集めなくても、コンピューターを使って全部の音を1人で構築することが可能になった。だから音楽を作る上で必ずしも他者を必要としない。

右:有泉智子

有泉:でも、それはそれで限界もあって。たとえば他者とコミュニケートすることで1人では思いもよらなかった発想が生まれて、100が120にも200にもなったりする。そういうことってクリエイティヴにおいてはとても重要なことで。で、そこにもう1つの要因である、ネットでコンタクトを取りやすくなり、かつ物理的に集まらなくてもデータのやり取りによって音楽を共作していくことが可能になった今という時代性が重なって、今は個と個が結びついてコラボレーションする時代になっている。

:そうですね。yahyelのメンバーそれぞれにもその時代認識はきっとあったはずだと思うんですけれど。

有泉:そう。だからこそ、彼らは自分たちのことを「バンド」とは呼ばないんですよね。5人の独立したクリエイターのコラボレーション=yahyelである、という認識を大切にしている。その意識は今も持ってると思いますが、でもyahyelのあり方も、初期と今とでは変わってきてると思いますね。1stアルバムから2ndアルバム『Human』に至るまでの間にライブや制作を重ねていくうちに、お互いに対する理解も進み、5人のなかで共有される価値観や思想が深まっていったと思うんですよ。

たとえば『Human』の重要な起点となった“Iron”という曲は、映像作家である山田健人のアイデアから完成に至った曲なんですが、それって彼がメンバーとして他の4人と共にyahyelという思想を培ってきたからこそ起こったことで。だからこの曲のMVから、映像自体にもyahyelとしてのメッセージがより明確かつ踏み込んだ形で現れるようになりましたし、今年の春のツアーでのVJの進化にも同じことが言える。

yahyel『Human』収録曲

有泉:単なるコラボレーションの結果じゃなくて、「集団としての1つの価値観や思想が育っていく」というのも、バンドの面白さだと思うんです。たとえばBOOM BOOM SATELLITESの中野(雅之)さんが「20年やってきたなかで、それぞれの人格とは別にBOOM BOOM SATELLITESという人格ができあがっていった」って言っていて。それはどのバンドにもあることで、そういう意味で今のyahyelは、「よりバンド的になっている」という言い方ができると思います。

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プロフィール

有泉智子(ありいずみ ともこ)

1980年、山梨県生まれ。音楽雑誌『MUSICA』編集長/音楽ジャーナリスト。音楽誌、カルチャー誌などの編集部を経て、2007年の創刊時より『MUSICA』に携わる。2010年から同誌編集長に着任。

柴那典(しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA」「MUSICA」「リアルサウンド」「NEXUS」「ミュージック・マガジン」「婦人公論」など。「cakes」にてダイノジ・大谷ノブ彦との対談連載「心のベストテン」、「リアルサウンド」にて「フェス文化論」、「ORIGINAL CONFIDENCE」にて「ポップミュージック未来論」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。

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