インタビュー

今、音楽シーンの先端では何が起こっている? 有泉智子×柴那典

今、音楽シーンの先端では何が起こっている? 有泉智子×柴那典

テキスト
柴那典
撮影:Kana Tarumi 編集:山元翔一

僕はyahyelを怒りの音楽、苛立ちの音楽だと捉えている。(柴)

:今、BOOM BOOM SATELLITESの名前を挙がったのでこの話もしたいんですけれど、yahyelには海外との同時代性という横の文脈と同時に、縦の文脈も当然あると思うんです。つまり日本で彼らのようなマインドと価値観を持った音楽をやっていた先人もいるはずだと。その1つにBOOM BOOM SATELLITESを位置づけることができると思っていて。そのあたりはどうですか?

有泉:yahyelがBOOM BOOM SATELLITESから直接的に影響を受けているとは思わないですけど、立ち位置だったり、何を志しているのかっていうことだったりで考えると、その系譜に位置づけることはできるとは思います。

:あと、『Human』を聴いたときの印象が、『UMBRA』(2001年)~『PHOTON』(2002年)あたりのBOOM BOOM SATELLITESにどこか近いんですよね。ビートミュージックでありつつ、グランジの要素がある。特にアルバムの最後の“Lover”という曲にそれを感じるんですけれど。

BOOM BOOM SATELLITES『UMBRA』を聴く(Apple Musicはこちら

yahyel“Lover”を聴く(Apple Musicはこちら

有泉:『Human』と『UMBRA』の相似点を考えると、どちらも1人の人間がもがき苦しみながら答えを探り出していく、そのドキュメントが割とダイレクトに楽曲に反映されているという点もあると思います。『Human』の場合は池貝峻、『UMBRA』の場合は川島道行の苦悩と葛藤ですね。柴さんがグランジ的であると感じた要因は、そういう背景も関係してるのかなと思います。

ただ、BOOM BOOM SATELLITESは、テクノやダンスミュージックとロックバンドを融合させること、それによって「ロックバンド」のあり方とアウトプットを更新することにとても意識的だった。BOOM BOOM SATELLITESは「自分たちはロックバンドである」と常に自覚していたと思うんですよ。それに対してyahyelにはそういう意識は希薄というか、そこにはまったく囚われていない。

:グランジの要素って言ったけれど、それはジャンルとか1990年代感ということではなくて。苛立ちと閉塞感なんですよね。僕はyahyelを怒りの音楽、苛立ちの音楽だと捉えている。そこが、僕がyahyelを評価し、支持している理由の1つなんですけれど。

有泉:わかります。怒りの音楽であるというのは同意です。

:今の時代、特にエレクトロニックミュージックを作ろうとするときに、心地よく洗練された音楽を作ることは、より容易になっているんです。それはさっき言った、個の時代というのもリンクしている。もっと言うと、音楽だけじゃなく、社会全体がそうなっている。コミュニケーションのあり方が変わってきていると思うんです。今、社会全体が他人との摩擦を避ける傾向になっている。

卑近な例で言うと、みんなどんどん仕事の電話をしなくなってますよね。メールになり、Slackになっている。コミュニケーションがどんどんスマートになっている。だけど、怒りを表現した音楽というのは、あってしかるべきだと思うんです。

柴那典
柴那典

:居場所のなさだったり、あてどのなさだったり、自分たちが暮らしている日常や社会に対しての違和感だったり、そういうものを持っている人ならば、当然アウトプットに怒りは含まれるべきで。そのうえで、yahyelはスタイリッシュな音楽性と怒りや苛立ちを同居させている。そういうことができる人ってなかなかいないし、僕がyahyelを好きな理由はそこなんですよね。

有泉:そうですね。yahyelって社会に対する問題提起を含んだメッセージ性を強く持っているバンドだし、基本的に歌っているメッセージはずっと変わってないんですよ。

:有泉さんはyahyelのメッセージ性をどう捉えていますか?

有泉:根幹にあるのは「人はどう生きるのか」という哲学的な問いと個の存在意義や意思の尊重、そしてディストピアな現代社会への問題提起だと捉えていますけど、その背景の1つとして、差別に対するアゲインストがあって。それは池貝が海外に住んでいるときに経験した、個としての自分よりも日本人というステレオタイプなイメージに当てはめて判断される、という実体験がベースになってると聞いたんです。

有泉智子
有泉智子

有泉:彼らはデビュー当初、匿名性を前面に打ち出そうとしてましたけど、その理由は、国籍とかエスニシティー、性別といった、個々に付帯する情報とそこに纏わりつく既存のイメージを排除してフラットにすることによって、逆説的に個そのものの価値観とメッセージを強く浮かび上がらせようとしていたからなんです。

ただ、それはコンセプトが先走ってしまってわかりにくかった(笑)。今話したような、彼らがなぜ匿名性にこだわるのかっていう本当の意図は伝わらなかったんですよね。だから『Human』では、どんな人間がこの音楽をやっているのか、ということを出すようになった。それでアーティスト写真も顔がクリアに出る形になったわけですけど。で、楽曲的にも、池貝峻という人が持っている人間性や感情を一人称で音楽に素直に出すようになった。だからこそ『Human』はより人間味が増した、エモーショナルな表現になっているんですよね。

yahyel『Human』を聴く(Apple Musicはこちら

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プロフィール

有泉智子(ありいずみ ともこ)

1980年、山梨県生まれ。音楽雑誌『MUSICA』編集長/音楽ジャーナリスト。音楽誌、カルチャー誌などの編集部を経て、2007年の創刊時より『MUSICA』に携わる。2010年から同誌編集長に着任。

柴那典(しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA」「MUSICA」「リアルサウンド」「NEXUS」「ミュージック・マガジン」「婦人公論」など。「cakes」にてダイノジ・大谷ノブ彦との対談連載「心のベストテン」、「リアルサウンド」にて「フェス文化論」、「ORIGINAL CONFIDENCE」にて「ポップミュージック未来論」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。

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