インタビュー

今、音楽シーンの先端では何が起こっている? 有泉智子×柴那典

今、音楽シーンの先端では何が起こっている? 有泉智子×柴那典

テキスト
柴那典
撮影:Kana Tarumi 編集:山元翔一

yahyelには、この現状を打破したい、そのために音楽をやっているというメッセージがある。(有泉)

:有泉さんは、yahyelとD.A.N.を比較してどう思います? まったく別の文脈と方向性を持った2組だけれど、同じように括られることが多いですよね。

有泉:音楽的には全然異なるものですよね。音楽性として共通点があるとしたら、お互いにテクノやエレクトロニックなダンスミュージックを参照しているということくらいで。音像としてもそのスタイルを体現しているyahyelに対して、D.A.N.はミニマルなテクノやハウスを人力でやることの面白さを追求している。

たとえば、海外にMoritz von Oswald Trioという、ミニマルダブの巨匠を軸にしたテクノトリオがいるんですけど。彼らは生楽器をフィーチャーしていて、かつ、ある時期からアフロビートの生きるレジェンド、トニー・アレンをドラマーに迎えてるんですよね。つまり、均一的なマシンビートによるテクノに即興性や生のグルーヴを大胆に持ち込むことで、新しいエレクトロニックミュージックを開拓してる。

Moritz von Oswald Trio『Live in New York』(2010年)を聴く(Apple Musicはこちら

有泉:で、D.A.N.は彼らの影響を受けていると思うんですけど、ロックバンドの文脈からそれをやろうとしているというか。D.A.N.は3人の人間が肉体的に奏でる音楽であるという意識は強い。音源でもD.A.N.のミニマルなビートって、長尺の曲でもループではなく、マルッと叩いてるんですよね。

:それに歌っている内容も違いますよね。

有泉:ディストピア観は通底してると思いますけど、アウトプットのやり方が違いますよね。というか、やっぱりyahyelって痛烈なメッセージ性があるんですよね。この現状を打破したい、そのために音楽というアートフォームを通して社会に対してメッセージを訴えかけるんだという、レベルミュージックとしてのアティチュードが明確にある。対してD.A.N.はそういうことを掲げてやっているバンドではない。

:D.A.N.に関しては、そこですごく思うことがあって。さっきyahyelとBOOM BOOM SATELLITESをつなげたように彼らを日本のロックのヒストリーのなかに位置づけるならば、フィッシュマンズ、ゆらゆら帝国、OGRE YOU ASSHOLE、そしてD.A.N.という1本の線を引くことができる。それは「ミニマルメロウ」というキーワードとか、バンドサウンドの方法論もそうなんですけれど、実は言葉の側面が大きいと思うんです。

フィッシュマンズの佐藤伸治さん、ゆらゆら帝国の坂本慎太郎さんの詩人としての才能って、世界を変革するメッセージ性というよりは、聴いた人の現実認識に作用する力にあると思っていて。つまり「今、あなたが目の前に見えている現実は、見えているとおりのものではなく、別の何かである」ということをすごく研ぎ澄まされた形で表現している。OGRE YOU ASSHOLEも『ペーパークラフト』(2014年)あたりからそうなっている(参考記事:消費社会にフェティシズムを取り戻す、OGRE YOU ASSHOLE)。

:最近だったらceroがダントツですよね。『POLY LIFE MULTI SOUL』(2018年)の音楽的な試みは称賛されるべきだと思うけれど、“魚の骨 鳥の羽”とか、高城さんの詩人としての冴え渡り方も半端じゃないレベルに達している。D.A.Nの櫻木さんはキリンジの堀込泰行さんを影響元に挙げているけれど、たとえば“エイリアンズ”(2000年)もそういう曲である(参考記事:堀込泰行×D.A.N.櫻木対談 影響し合う二人による「歌詞」談義)。

僕としては、櫻木さんにもそういった才能の片鱗を感じるんですけれど、正直に言ってしまうと、まだ覚醒はしてないと思うんですよね。スムースに聴けちゃうんじゃなくて、日常のふりをしながら隣に何気なく異世界があるような、ある種の怖さと快楽性を持つ言葉を歌ってほしいと。

有泉:なるほど。そうやって音楽的にも歌詞の面でも異なるyahyelとD.A.N.が同じように括られて語られるのは、どちらもビートミュージック、エレクトロニックなダンスミュージックの文脈を取り込んでいて、かつ、最初のほうで話したような、この世代ならではのユニバーサルな感覚とエクスペリメンタルな挑戦心を持って音楽をやっている、というところが大きいでしょうね。そこには2010年代という今の時代性があると言えますよね。私は今が日本の音楽シーンの転換期であるのは間違いないと思っていて。今この国の20代半ば世代が生み出している音楽はとても面白いし、この流れはしばらく続くと思っているんです。

:そこは同意ですね。

有泉:みんな感覚や姿勢に共通するものはあるけど、でもそれぞれがやっている音楽はそれぞれにオリジナリティーがあって、多様性がある。多岐にわたる参照点を持ちながら、ちゃんと自分自身の音楽を開拓するという点で挑戦をしている。新しい可能性がいろんなところで生まれていて、本当にワクワクしてますね。

左から:柴那典、有泉智子

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プロフィール

有泉智子(ありいずみ ともこ)

1980年、山梨県生まれ。音楽雑誌『MUSICA』編集長/音楽ジャーナリスト。音楽誌、カルチャー誌などの編集部を経て、2007年の創刊時より『MUSICA』に携わる。2010年から同誌編集長に着任。

柴那典(しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA」「MUSICA」「リアルサウンド」「NEXUS」「ミュージック・マガジン」「婦人公論」など。「cakes」にてダイノジ・大谷ノブ彦との対談連載「心のベストテン」、「リアルサウンド」にて「フェス文化論」、「ORIGINAL CONFIDENCE」にて「ポップミュージック未来論」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。

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