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蓮沼執太が自身の活動を総括して語る。ソロ、フィル、アートなど

蓮沼執太が自身の活動を総括して語る。ソロ、フィル、アートなど

蓮沼執太フィル『ANTHROPOCENE』
インタビュー
杉原環樹
テキスト・編集:矢島由佳子 撮影:鈴木渉

結局、便利なほうばかりをやっていくと、いつの間にか失っているものがものすごくあって、それに気がつかずに終わってしまう。

—『ANTHROPOCENE』についても聞かせてください。地層の年代を意味するタイトルにしても、飛行機から地上を見ているジャケットにしても、今回のアルバムにはこれまでの作品にも増して俯瞰的な視線を感じました。ちょっと浮いた場所から人間社会を見ようとする態度というか。

蓮沼:俯瞰というよりも、見方を変えていこうよっていう感じに近いかもしれない。僕、飛行機から景色を見るのが好きなんですよ。普段とは違った視点で日常を見たときに、見えてくる景色があるから。「アントロポセン」という言葉は、オゾン層の研究でノーベル化学賞を取ったパウル・クルッツェンの造語なんですけど、人文学系で使われることが多いですよね。

蓮沼執太フィル『ANTHROPOCENE』ジャケット
蓮沼執太フィル『ANTHROPOCENE』ジャケット(Amazonで見る

—最近は、美術の世界でも聞くようになりましたね。

蓮沼:そうですね。要は、アントロポセンは「この地球になかったものを人間が生んでしまって、それが地層になってますよ」というもので、「人間のアクティビティーを見直していこうよ」というのが本当の意味だと思うんですけど。

僕がこうやってフィルのみんなとやるのは、経済的にも時間的にも非合理的だし、「ひとりでガンガン音楽作っていったほうがいいじゃん」っていう部分もあるかもしれないけど、音楽的にも芸術的にも可能性があると思っているからやっているわけで。「わざわざやっている」ということが、僕にとってはすごく「アントロポセン」的なんですよ。結局、便利なほうばかりをやっていくと、いつの間にか失っているものがものすごくあって、それに気がつかずに終わってしまう。それよりも、小さなきっかけを大切にしていこうよっていうのが、このアルバムですね。

—自然の長い時間のスケールのなかで人間の営みを捉え直してみようという視点は、最近色々な表現者から感じるものです。美術でも、近年の自然災害を受けて、日本という土地の条件と美術がどう関わってきたかを問う椹木野衣さんの『震美術論』(美術出版社、2017年発行)などがありましたよね。手触りは違うものの、『ANTHROPOCENE』にも同じ時代の空気が含まれているかもしれません。

蓮沼:露骨に「震災」どうこうとは言わないですけど、今あることを大切にやっていくのが一番だと思っていて、今なにができるのかを考えると、今の社会に関してどういうふうに自分の作品が在れるのか、ということだと思っています。

僕は「作品でなにができるか」ではなく、「作品がどう存在しているか」のほうが大切だと思っていて。啓蒙したいわけじゃなくて、各々が作品に触れることでどういうふうに感じ取ってくれるか、それがどういうふうに現代社会に対して機能していって、世界が変わるのかを考えたいんです。

蓮沼執太

—それこそが、『 ~ ing』と『ANTHROPOCENE』に共通しているコンセプト、問題意識とも言えそうですね。

蓮沼:結局、ひとりで生きているんじゃないので、みんなで生きていくなかでどう考えていくかが表れているんだと思います。『 ~ ing』もそう思ってやってましたね。作品に触れることによって、どうやって社会に機能していくかを積極的に考えていきたいなというのが、僕の今のフェーズなんです。

ミュージシャンが音を響かせて、観ている人もそこにいて、音楽で繋がるっていう、全員が役割のある公演として成立させたい。

—そういった意識の変化は、『ANTHROPOCENE』の曲作りにおいて、具体的にどういう違いとして表れましたか?

蓮沼:前は、楽器のためにスコアを書いていたんですよ。楽曲を書いて、スティールパンがあるといいなと思ったからスティールパンのスコアを書いて、それで「スティールパンの方、フィルに入りませんか?」って言ったら、(小林)うてなが手を挙げてくれた。でも今回は、スティールパンにではなくて、うてなに演奏指示を書いている。

—芝居でいう「当て書き」なんですね。

蓮沼:そうですね。ホーンセクションのなかで「なつみん(宮地夏海。フルート)がここで飛び出したら面白いだろうな」とか「(大谷)能生(サックス)がここで下にいったら面白いだろうな」というふうに、楽器ではなくて人を見てます。『時が奏でる』は、ドーンとダイナミックな音像になってるんですけど、『ANTHROPOCENE』は全員の顔が見えるような音作りになっているんです。そうさせている要因は、やっぱり、メンバーそれぞれに信頼が当然あるからですね。

蓮沼執太フィル『ANTHROPOCENE』(Apple Musicはこちら

—8月18日には、フィルの16人に加えて公募から選んだ10人とともに、「蓮沼執太フルフィル」としてコンサートが行われます。これもまた、非効率的ではあるけれども、人と交わることの本質が見えるものになりそうですよね。公募時の条件は、「音が鳴るもので音楽ができればなんでもOK」だったとか?

蓮沼:性別、国籍、年齢、楽器とかで制限するんじゃなくて、参加する意思があれば、それだけで素晴らしいことだと思ったので。この前(5月27日)、公開リハーサルをやって初めて26人で音を出したんですけど、即興したときにそれぞれの性格がすごく出てましたね。

—つまり、新たに加わる10人も、匿名的な存在ではないわけですね。

蓮沼:そう。26人で一緒にできるように再アレンジをしている曲もあれば、26人のために作っている新曲もあるんですけど、当て書きをさらに追求しているような作り方をしています。一人ひとり見ているのが、26個分になるというか。

しかも、会場がすみだトリフォニーホールというコンサートホールで、ライブハウスじゃないから音作りも全然違って。空間が違えば、音作りもアレンジも違うし、新しいフィルの演奏方法になるんじゃないかなという気がしていますね。一つひとつの音の響きを大切にして、聴いている人も参加しているって言うとおこがましいですけど、ミュージシャンが音を響かせて、観ている人もそこにいて、音楽で繋がるっていう、全員が役割のある公演として成立させたいと思って準備をしています。

蓮沼執太

—それを終えた次は、どういうことをやりたいかって考えていますか?

蓮沼:最近、機材とかを見ちゃうんですよ。なにかを作りたい気持ちの表れなんでしょうね。1月にはフィルとして草月でコンサートをやって、2月にはニューヨークで展覧会をやって、4月には『windandwindows』という6枚組のアルバム出して、『 ~ ing』をやってと、こんなにわちゃわちゃしているのに(笑)。次に進もうとする気持ちの動きはあると思うので、そこに正直に作れたらいいなと思いますね。

蓮沼執太

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リリース情報

蓮沼執太フィル
『ANTHROPOCENE』

2018年7月18日(水)発売
価格:3,300円(税込)
COCP-40486︎

1. Anthropocene – intro
2. Meeting Place
3. Juxtaposition with Tokyo
4. the unseen
5. 4O
6. off-site
7. centers #1
8. centers #2
9. centers #3
10. TIME
11. Bridge Suites
12. NEW
13. Anthropocene – outro

イベント情報

蓮沼執太フルフィル
『フルフォニー Shuta Hasunuma Full Philharmonic Orchestra FULLPHONY』

2018年8月18日(土)
会場:東京都 錦糸町 すみだトリフォニーホール
料金:SS席6,000円 S席5,000円 A席4,000円 B席2,000円

蓮沼執太フィル
『ANTHROPOCENE - Extinguishers in Aichi』

2018年9月16日(日)
会場:愛知県 ナディアパーク デザインホール
料金:前売4,500円 当日5.000円 学生割引3,000円

『ANTHROPOCENE - 360° in Osaka』

2018年9月17日(月・祝)
会場:大阪府 味園ユニバース
料金:5,000円(ドリンク別)

プロフィール

蓮沼執太フィル
蓮沼執太フィル(はすぬましゅうたふぃる)

蓮沼執太がコンダクトする、総勢16名が奏でる現代版フィルハーモニック・ポップ・オーケストラ。 2010年に結成、2014年1月にファーストアルバム『時が奏でる』をリリース。蓮沼執太(conduct, compose, keyboards, vocal)|石塚周太(Bass, Guitar)|イトケン(Drums, Synthesizer)|大谷能生(Saxophone)|葛西敏彦(PA)|木下美紗都(Chorus)|K-Ta(Marimba)|小林うてな(Steelpan)|ゴンドウトモヒコ(Euphonium)|斉藤亮輔(Guitar)|Jimanica(Drums)|環ROY(Rap)|千葉広樹(Violin, Bass)|手島絵里子(Viola)|宮地夏海(Flute)|三浦千明(Flugelhorn, Glockenspiel)

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