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資生堂CMを手がけた小島淳二が映画に初挑戦。その理由とは?

資生堂CMを手がけた小島淳二が映画に初挑戦。その理由とは?

『形のない骨』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:湯浅亨 編集:久野剛士

映像を使って向き合えるものは何だろうって思ったとき、その根底にはやっぱり映画があったんですよね。

—これまで各方面の映像作品で活躍されてきた小島監督が、長編映画に初めて挑んだ理由は何なのでしょう?

小島:広告の仕事やミュージックビデオ、コント映像も面白いんですけど、ここから先、自分が映像というメディアを使って向き合えるものは何だろうって思ったときに、その根底にはやっぱり映画があったんですよね。なので10年ぐらい前から、「いつか映画を撮ろう」と決意していて。やっぱり、広告の仕事は条件が決められた中で、自分だったら何ができるかを、毎回考える仕事なわけじゃないですか。

小島淳二

—「お題」を与えられて、映像のアイデアを練る仕事ですよね。

小島:そうですね。その「お題」について、いろいろ考えた結果を、映像として提出する。ただ、今回の映画『形のない骨』に関しては、誰かの発注を受けて作ったものではないんですよね。自分の映像のアプローチがどういうものかをゼロから考えた結果、出てきたものなので。

だから、自分の中のいちばん奥底にある部分を表現したものになっているんです。それは何かと言うと、「自分と他人との関わり」であって……それを、自分に対する問い掛けみたいな形として、この映画を作っていったんですよね。

『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc
『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc

—これまでの広告とは違うアプローチができるんですね。

小島:あと、CMディレクターの業界って、40代がピークで、50歳を超えると急激に仕事が減っていきます。早い人は30歳ぐらいでCMディレクターとしてブレイクして、もう何でもかんでも仕事が来るようになって、40代まではそれが続くんです。ただ、まわりのクリエイティブなスタッフや代理店の人間も段々と若くなっていくので、あまり言うことをきかない50代の監督より若い監督のほうが選ばれやすくなっていく。

もちろん、その道のスペシャリストたちは残っていくんですけど、そういう意味ではシビアな世界なんです。それもあって、自分の映像表現といま一度、向き合ってみたかったんですよね。

現実はCMのようにきらびやかな世界だけじゃないだろうっていう思いがあったのかもしれないです。

—贋作の絵画を作って売る夫とともに地方都市で暮らす主人公・良子を描いた『形のない骨』。これは、これまでの小島監督のCM作品とはかなりテイストが異って、リアリズムが特徴のヒューマンドラマになっていますね。なぜあえて異なる方向性で映画を撮ろうと思ったのですか?

小島:若い頃は僕もやっぱりデヴィッド・リンチ(多くのカルト作品で知られるアメリカの映画監督)のような、画面がカッコよくて音楽もカッコいいスタイリッシュな映画に憧れていました。でも、そこからいろいろな映画を見ていくうちに、映画が本来持つ深さに気づくようになって。そこからヨーロッパの監督の作品とかを見て、そういう「リアリズム」に映画の可能性を見出したんです。

 

—具体的には、どういったヨーロッパの監督になるのでしょう?

小島:いちばん影響を受けているのは、ダルデンヌ兄弟(ジャン=ピエールとリュックの兄弟からなる、ベルギー出身の映画監督)ですね。彼らの映画に特有の、主人公のすぐそばにカメラが張り付いて、その人の吐息とか感情とかをずーっとカメラがそばで見ていく中で物語を進めていくスタイルが、自分にはすごくピッタリきたんですよね。彼らが持っているリアリティーというか、登場人物たちがすごく身近に感じられるようなものが、自分が撮りたいものに近いのかなって思いました。

『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc
『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc

—そういったリアリズム志向は、これまで監督が撮られてきたCMなどと裏表の関係にあるのでしょうか? それとも、両者はどこかで繋がっているのでしょうか?

小島:どうなんでしょうね……CMというのはやはり、華やかな部分、綺麗なところをより際立たせるのが使命だと思うんです。ただ、現実にはやっぱりそうではない生々しい部分もあるというか、そんなにきらびやかな世界だけじゃないだろうっていう思いがあったのかもしれないです。だったら、そっちの生々しい部分を自分の映画では描いてみたいなって。だから、「CMではできなかったことをやりたい」という思いはあるのかもしれないですね。

小島淳二

—いま仰られた「生々しさ」の部分とも関連するのかもしれませんが、この映画を撮るにあたって監督はまず、俳優と演技に関するワークショップを行ったそうですね。それはどういう狙いだったのでしょう?

小島:長い時間を掛けて、役者とじっくり向き合ってみたかったんですよね。僕自身、CMやミュージックビデオとは違う、人間の感情を長い時間で見せるお芝居に対する演出の経験値が低かったので、「お芝居とはいったい何なんだろう?」と、役者と一緒に考えたいと思ったんです。

—かなり念入りに役者の演技に対する準備をしていったわけですね。その際、小島監督は、この映画をどういった映画であると役者の方々に説明されたのですか?

小島:この映画でいちばん伝えたい部分はあえて言わず、登場人物たちの関係性や、それぞれのバックグランドを細かく伝えました。この人はどんなところで生まれて、どんな学校に通って、兄弟は仲がよかったとか、そういうものを細かく書いて、それぞれに渡して。物語がどうこう以前に、まずはその人物を、自分の中で咀嚼してくださいという部分から始めていったんですよね。

—劇中ではあえて説明されないディテールの部分を、まずは役者に落とし込んでいったんですね。

小島:そうですね。そのあと、人物たちがいま置かれている状況を説明しました。彼女たちの暮らしは、関係の希薄化など、現代の社会を反映したものになっていて、ちょっとした言葉の行き違いから、彼女たちがいろんなことに巻き込まれていく物語です。「こういうことって、日常でもあるのではないだろうか?」みたいな思いから制作を始めていったと思います。

『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc
『形のない骨』場面写真 / ©teevee graphics,inc

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リリース情報

『形のない骨』
『形のない骨』

2018年7月28日(土)からユーロスペースほか全国で順次公開

監督・脚本:小島淳二
出演:
安東清子
高田紀子
田中準也
熊谷太志
杉尾夢
ジョーイシカワ
渡邊ちえ
上映時間:104分
配給:エレファントハウス

プロフィール

小島淳二(こじま じゅんじ)

1966年6月12日生まれ。佐賀県出身。文教大学教育学部美術科卒。1989年よりデジタル編集のエディターとして活躍後、ディレクターに転向する。資生堂、Honda、ユニクロ、全日空などのTVCM、ミュージックビデオ、ブロードキャストデザインなどジャンルを越えて多くの印象的な映像作品を輩出している。海外のクライントからのオファーも多い。また、映像作家としてオリジナルショートフィルムの制作にも積極的に取り組み、その作品は『RESFEST』(USA)や『onedotzero』(UK)など海外の映画祭でも注目を集めている。『Jam Films 2』の1本として劇場公開された『机上の空論』では、『RESFEST2003』にて「AUDIENCE CHOICE AWARD」を受賞。『第57回ベルリン国際映画祭』の「短編コンペティション」部門に『THE JAPANESE TRADITION ~謝罪~』が出品された。部門への日本作品の出品は31年ぶりとなる。

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