
坂田ゆかりが『F/T』で見せる、お寺や信仰と現代人との距離
『フェスティバル / トーキョー18』- インタビュー・テキスト
- 島貫泰介
- 撮影:鈴木渉 編集:川浦慧、宮原朋之
東京各所を舞台とする芸術の祭典『フェスティバル / トーキョー』。今年も日本やアジア各国から多くのアーティストが集まり、演劇に留まらない作品を発表する。そんな中で、西巣鴨のお寺で新作を発表するのが、演出家の坂田ゆかりだ。学生時代から交流のある俳優の稲継美保、パーカッショニストの田中教順とともに、お寺の本堂で上演する作品は、その名も『テラ』。
まるでダジャレのようなタイトルだが、そこには現代における信仰や宗教と、現代人の距離感を探ろうとする坂田なりの企みが込められているらしい。現在進行形で稽古に取り組む坂田に話を聞いた。
お寺って身近にあるものだけれど、けっして頻繁に行く場所でもなくて、個人的に謎感があるんです。
—まず、今回の新作『テラ』は、お寺で上演するから「テラ」という理解でよろしいでしょうか?
坂田:その通りです(笑)。『フェスティバル / トーキョー』では、ここ数年『まちなかパフォーマンスシリーズ』という劇場以外の場所で上演するシリーズを展開していて、その一環として今回は東京・西巣鴨の西方寺をお借りして上演します。お寺ってかなり身近にあるものだけれど、けっして頻繁に行く場所でもなくて、個人的に謎感のある場所です。その謎に、作品を通じて迫りたいなと思っています。
—たしかに初詣や夏祭り以外にお寺に行く機会は少ないですが、そんなに謎ですか? ライブを行ったり、カフェを運営したりするような、開けた印象も最近のお寺にはあります。
坂田:日本のお寺について自分が知っていることの少なさが、謎めいた印象を強くさせるんですよね。特に海外ではいろんなバックグラウンドの人と宗教の話をすることがあるんですが、「坂田さんの宗教ってなんですか?」と聞かれてもうまく答えることができない。
家族代々のお墓は父の実家の佐賀の浄土真宗のお寺にありますから、「私は浄土真宗です」と言ってもよいはずなのに、祖父母が亡くなってからはほとんど佐賀に行くこともないし、そもそもどんな教義なのかも知らない。知っているはずなのに、いちばん縁遠い場所っていう感覚が自分の中にはあります。
—『テラ』の原案になっている三好十郎の『水仙と木魚』の主人公は、お寺の一人娘ですね。
坂田:私は基本的に自分で戯曲を書いたりしないので、既存の本から探してくるのがすごく大事なんです。
今回、学生時代に一緒に作品を作ってきた俳優の稲継美保さんと「久しぶりになにかやりたいね」って盛り上がったのが『テラ』の発端です。去年、紛争地域に関わる小さなリーディング公演で一緒だったんですけど、もっと深く発展させていける手触りもあって、そのタイミングで今年の『まちなかパフォーマンスシリーズ』のオファーをいただいたのも嬉しい偶然でした。
稲継さんには「一人芝居をやってみたい」という気持ちがあったので、彼女に合いそうなモノローグを探していて、三好の書いたお寺の一人娘の話『水仙と木魚』に出会えたわけです。
—今回は坂田さんと稲継さんの他に、パーカッショニストの田中教順さんもメインのメンバーとして名を連ねています。「きょうじゅん」さんというお名前なので、ひょっとすると仏教関係の人なのかな、と思ったのですが……?
坂田:まさにお寺の息子さんです(笑)。田中さんは大学時代以来の友だちで、一緒に作品を作ったりはしなかったんですけど、たまたま共通の友人の結婚式で彼の「ドラム漫談」を見て衝撃を受けたんです。自分でドラムを叩きながらなにかを喋るっていう一芸で、とにかく会場を大いにわかせていました。
彼はお寺の跡取りとして育てられたけれど、横道にそれてミュージシャンになった人で、そこにもなにかありそうな予感がして、それで「一緒にやりましょう!」と声をかけさせてもらいました。
—予想以上にお寺要素の強い座組みです(笑)。
坂田:とはいえ、原案をかなり脚色しています。原作は1950年代当時の冷戦状況を反映した例え話のように、お寺とその隣の農家の間のいさかいを描いています。それを今あらためて読んでみると、「お隣さん」という距離感は、お寺という場所のあり方を考えるうえでもけっこう大事だと思うんですよ。
会場である西巣鴨はいわゆる寺町で、同じエリアの中に各宗派のお寺がギュっと集まっています。お寺とお寺がお隣同士というのも面白いですし、寺の娘である主人公に対して、常に隣にいるもう1人の存在=田中さんを併置させる関係性も、なにかを象徴するように思うんです。
イベント情報

- まちなかパフォーマンスシリーズ
『テラ』 -
2018年11月14日(水)19:00
2018年11月15日(木)19:00
2018年11月16日(金)12:00 / 19:00
2018年11月17日(土)12:00 / 18:00
会場:東京都 西巣鴨 西方寺
原案:三好十郎「詩劇『水仙と木魚』――一少女の歌える――」ほか
作・演出:坂田ゆかり
出演:稲継美保
音楽:田中教順
企画・主催:フェスティバル / トーキョー
特別協力:西巣鴨 西方寺
プロフィール
- 坂田ゆかり(さかた ゆかり)
-
1987年東京生まれ。東京藝術大学音楽環境創造科卒業後、全国の劇場で舞台技術スタッフとして研鑽を積む。2014年、アルカサバ・シアター(パレスチナ)との共同創作『羅生門|藪の中』を演出(F/T14)。近年は展覧会という形式に演劇の技術や考え方を応用させる実験を重ねている。建築家ホルヘ・マルティン・ガルシアとの長期プロジェクト『Dear Gullivers』は、第16回ヴェネチア建築ビエンナーレ(2018)のスペイン館に参加。既存の物語と協働を手段として、地域社会への芸術的介入を試みる。