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網守将平と音楽問答。我々は「音楽そのもの」を聴いているのか?

網守将平と音楽問答。我々は「音楽そのもの」を聴いているのか?

網守将平『パタミュージック』
インタビュー
杉原環樹
撮影:前田立 編集・テキスト:山元翔一
2018/11/22

「音楽を聴く」ということはどういった行為を指すのだろうか? 私たちは、日常的に音楽に接することが当たり前の社会を生きている。しかし、ときに私たちを踊らせ、ときに感動させているものは「音楽そのもの」ではないとしたら、あなたは何を考えるだろうか? 網守将平が11月21日にリリースした『パタミュージック』は、「『音楽を聴く』とはどういうことだろうか?」という問いを聴き手に投げかけている。

網守は、東京藝術大学音楽学部作曲科卒業、同大学院音楽研究科修士課程修了という経歴を持つ生粋のエリート。今、日本のポップフィールドでは、小田朋美、角銅真実、古川麦といったceroのサポートメンバーの面々や、King Gnuの常田大希といった東京藝術大学にゆかりのある音楽理論を修得したミュージシャンが頭角を現し、ポップとアカデミックの接近は、この国のポップミュージックの1つのトレンドとも言える状況が生まれつつある。

そういった状況がある一方で、社会学者・毛利嘉孝が本作を「宇宙人が作った音楽のようなもの」と評していることが象徴するように、網守の存在は極めて異質であるということを強調しておきたい。彼は一体どんな意図でこの『パタミュージック』を作り上げたのだろうか? 本稿では、エイリアンのような音楽家・網守将平との音楽問答をお届けする。

いろんな芸術文化に触れてきて、「音楽」ってものがちょっと変だなと思うんですよ。

—過去の網守さんのインタビューを見ると、経歴に質問が集中したものや、音楽的なバックグラウンドについて尋ねるものが多いですよね。もちろん、経歴にすごく説得力があるからだと思うんですけど。

網守:多いですね(笑)。

—でも、いただいた資料などを読むと、音楽以外の領域についてもかなり深く関心をお持ちなんだろうなと感じたんですよ。

網守:おっしゃるとおりで、僕自身、音楽だけをやってる意識はなくて、美術シーンとか演劇の人との交流のほうが、むしろミュージシャンとの交流よりも多いくらいです。

網守将平
網守将平

網守:ただそうはいっても、僕の活動は基本的に音楽に対する関心からスタートしているんです。それも、いわゆる「ジャンルを横断する」っていう感じではなくて、音楽が社会とどう関われるか、音楽にとって他の文化とは何なのかっていうことを考えていて、それが活動のベースにある。もっといえば、音楽家はもっと他の芸術領域に関わっていくべきだと思っていて。

—そう考えるのはなぜですか?

網守:単純にいろんな芸術文化に触れてきて、「音楽」ってものがちょっと変だなと思うんですよ。そもそも抽象的だし、これまで聴かれたり、作られたり、語られたりしているようで、音楽の謎ってまだまだ他の芸術より深いと思うんです。音楽を作るだけでは、その謎には迫れないという前提が僕の活動にはあります。

—歴史的にも、いろんな芸術家が、表現としての音楽の様態に憧れてきましたよね。たとえば、ワシリー・カンディンスキー(ロシア出身の画家、美術理論家)が音楽に刺激を受けて抽象絵画を描いたり。音楽が何かしら他の芸術からみて特異な存在であるっていう感覚は、多くの人が抱いてきた。

網守:そうですね。そういう歴史がある一方で、たとえばヤニス・クセナキス(ギリシャ系フランス人の現代音楽作曲家、建築家)が、建築と音楽の創作を連関させ新たな具象性を目指しましたけど、実際に生まれてくる音楽は抽象度の高いワケのわからないものなんですよね。いろんな立場の人が音楽に憧れ、音楽が求められる場は歴史的にも社会的にも存在しているのに、うまくアプローチできないもどかしさをこういった例から感じているんです。

網守将平 

—そうしたなかで、網守さんは「人間に耳という奇妙な器官が備わっていること自体のヤバさを、音を通じて問題提起したい」という関心を持たれているそうですね。これはどういったことですか?

網守:まず僕の関心は、「いかに新しい音を聴くことができるか?」というところにあるんです。そして、それに対して自分の立場からアプローチしようとしたときに、人間には「耳がある」ってことに一度立ち返る必要性があるなと。ピュアに、音の情報を聴覚が認識する話をしたところで、その耳は何年か社会を生きてきた耳だし、社会的なコンテキストも背負っているわけじゃないですか。

—耳が社会的に何かしらの記憶を持ってしまっているっていうのは、よくわかります。完全にニュートラルな状態ではありえない。

網守:そう。そもそもの話、僕が音楽を作るにあたっては、「面白い音楽を作って届けたい」というところに関心はないんです。自分の音楽で感情を届けたいワケでもない。言い換えれば、何かを表現したり表象するために音楽をしているわけではなく、「実践」がベースにあると。「これをやったらどうなるかな?」っていう思考回路で、作品を作っています。

僕は、「そこに音楽がある」っていう状態をどうにかして提示したいと考えていて。

—耳を持ってることに立ち返る必要があるという立場は、今の社会における音楽や音のあり方に対して、何か疑問を感じることから来るのですか?

網守:今の社会では、聴取のためのインフラが整っているから、音楽は一般的なものとして捉えられていると思うんです。でも、逆にポップミュージックにおいては、民族音楽やアカデミックな音楽に比べて、我々が予想しているよりずっと早く絶滅する危機にあるんだろうなと実感する機会が多くて。

今回のアルバムでは、毛利(嘉孝)さんが解説を書いてくれたのですが、そのなかでヴェイパーウェイヴの話に触れているんですね。危機感の話はそこともつながっていて、問題意識で言えば、音楽の絶滅を食い止める、みたいな意図でやっているところもあります。

網守将平
毛利嘉孝による『パタミュージック』の解説を読む(サイトを開く

—毛利さんはヴェイパーウェイヴの特徴について、「音楽が終わったあとの音楽、人々が音楽に何の感情も動かさなくなった時代の音楽」だと書いていますよね。そうした音楽様式が登場した時代に、音楽の危機を感じると?

網守:感じますね。音楽が、ただの情報、1つの面みたいな状態になったんだなと。

—音楽が記号的に消費されているというか、身体が伴ってない感覚はありますよね。最近はストリーミングサービスの普及もあってか、音楽の聴かれ方がどこか気持ち悪いと感じることもあります。

網守:そういう状況がある一方で、僕は、「そこに音楽がある」っていう状態をどうにかして提示したいと考えていて。たとえば、音が出る「場」から考えたり、音が出る「もの」から考えたりするサウンドアートもそうですけど、それとはまた違った方法で「音楽がある、そしてそれを聴いている耳がある」っていう状態を知覚させたい、多くの人に音や音楽を知覚させたいというか。僕がやっているのは、それを「音楽」で目指す実践ですね。

網守将平によるインスタレーション『Broken Silencer』

—わかりやすい言い方をしてしまうと、ただのノリや身体的な心地よさに染まった聴取から、音や音楽そのものを解放したいということですか?

網守:平たい言い方をすると、そうなると思います。ただ、そういう実験をいわゆる「実験音楽」的にやってもしょうがないんですよね。今回、実際に作品を作るとなったときに、「前衛」とか、「実験」とはまったく別のことをしないとダメだなと思ったんです。本当にちゃぶ台返しみたいなことなんですけど、それを実践してみて、聴いた人がそれを音楽だと信じられるか? っていうことをやっています。

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リリース情報

網守将平『パタミュージック』
網守将平
『パタミュージック』(CD)

2018年11月21日(水)発売
価格:2,376円(税込)
NBL-225

1. Climb Downhill 1
2. デカダン・ユートピア
3. いまといつまでも
4. ReCircle
5. ajabollamente
6. Climb Downhill 2
7. ビエンナーレ
8. 偶然の惑星
9. Washer
10. 蝙蝠フェンス
11. パタ

プロフィール

網守将平
網守将平(あみもり しょうへい)

音楽家/作曲家。東京芸術大学音楽学部作曲科卒業。同大学院音楽研究科修士課程修了。学生時代より、クラシックや現代音楽の作曲家/アレンジャーとして活動を開始し、室内楽からオーケストラまで多くの作品を発表。また東京芸術大学大学院修了オーケストラ作品は大学買上となり、同大学美術館にスコアが永久保存されている。近年はポップミュージックからサウンドアートまで総合的な活動を展開し、様々な表現形態での作品発表やパフォーマンスを行う傍ら、CMやテレビ番組の音楽制作も手掛ける。コラボレーションワークも積極的に行っており、原摩利彦、大和田俊、梅沢英樹などジャンルを問わず多くのアーティストとの作品制作を断続的に行っている。

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