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枝優花×松居大悟対談 エゴサで見る熱い感想が、次を生み出す

枝優花×松居大悟対談 エゴサで見る熱い感想が、次を生み出す

『少女邂逅』
インタビュー・テキスト
羽佐田瑶子
撮影:垂水佳菜 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

若い女性が映画を撮ることに対して、敵意むき出しな感想が届いたことは驚きました。(枝)

—『少女邂逅』は、新宿武蔵野館で9週間に渡り異例のロングラン上映でしたね。公開中はどんな心境でしたか?

:作るのも大変だけど、公開してからも大変なんだと痛感しました。毎日、劇場のお客さんの入りをチェックして、口コミをエゴサーチしていましたね。9週間も公開していただけたことは嬉しかった反面、公開が終わった時はもうお客さんの入りを心配したりエゴサしなくていいんだって、ホッとしました。

松居:どんな口コミが多かった?

:最初はキツい反応も多かったです。若い女性が映画を撮ることに対して、敵意むき出しな感想が届いたことは驚きました。自分が若い女性であることを武器にしたつもりはないけれど、そういう評価も受けるんだなと。でも、好意的な口コミも広がって、そこから気になって観に来てくれる人も多かったみたいです。何度も観てくださる人もいたりして。

撮影:松居大悟
撮影:松居大悟

松居:ああ、そういう反応は嬉しいよね。

:口コミをいろいろ見ていたら、1回目は1人で観て、2回目は身近な大切な人を連れて観に行ってくれる人が多かったんです。母親が観て、不登校の娘を連れてもう1度観に行ってくれたり、しばらく連絡をとっていなかった友だちにわざわざ連絡をとって観に行ってくれたり。私は、誰かと一緒に観るためにもう一度映画館に行く経験がなかったので、意外な反応でした。

—「この人と映画を一緒に観たい」と思うのは、とても特別な感情ですよね。

:感想のお手紙に「この映画は不特定多数へ向けられたものではなく、特定の人へ向けられた手紙のような映画だったので、一緒に観たいと思い浮かんだ子を連れていきました」とあって。私自身、必要な人に刺さってほしいと思って作った作品なので、こういう反応はすごく嬉しかったです。

枝優花

松居:高校生や20代前半くらいの若い子もたくさん観てくれたんじゃないですか?

:はい。20代前半の学割がきかない世代にとって、1,800円って高いじゃないですか。映画業界にいる私でさえ高いと思うので。それでも観たいとお財布を広げてもらうにはどうしたらいいんだろう、と一生懸命考えました。

映画は完成したら終わりではなく、観てくれたお客さんと育てながら形が変わっていく。(松居)

—松居さんの処女作は、客観的に言うと『アフロ田中』(2012年)だと思いますが、ご自身としての「処女作」はどの作品でしょうか?

松居:そうですね……自分のやりたいことをやらせてもらった初めての作品という意味で『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(2013年)ですかね。『アフロ田中』の時は映画の作り方もお金のことも何もわからず、口コミなんて全然見れなかった。でも『自分の事ばかりで情けなくなるよ』は、自分自身をむき出しにして作れたんです。自分の感覚はマイノリティーだと思っていたけれど、その感覚のまま作ることを許してもらえた。

松居:そんな作風になって公開規模は小さくなる一方ですけど、作品に関するTwitterの感想はひとつたりとも見逃していないですよ。なんなら、タイトルの「事」を漢字にしているのと、ひらがなの「こと」にしているのそれぞれ検索します(笑)。

:(笑)。客観的な意見が知りたくて調べちゃうんですか?

松居:病的な感じだったと思う。批判的な意見に対してスマホを床に投げつける夜もあったけれど、逆に長い感想を書いてくれた人の解釈が、自分が描こうとしていたことよりもさらに深いものになっていることがあって、それはいいなあって。

松居大悟

:ありますね。

松居:そういう熱い感想をくれるファンの話を書きたいと思って作ったのが『私たちのハァハァ』(2015年)なんです。だから、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』の時に熱い感想を書いてくれた子たちの名前を、『私たちのハァハァ』の女の子の役名につけました。

:えー! それは、その方は知っているんですか?

松居:「これは私の映画です」ってつぶやいてた。そういう風に、次の作品が生まれたりもするという意味では、エゴサーチもいいのかなと思います。

:『私たちのハァハァ』は劇場で観て、泣きました。

—『私たちのハァハァ』は、福岡に住むクリープハイプのファンの女子高生が、ライブのために自転車で東京を目指す作品ですね。

:私も高校生の時、クリープハイプさんが大好きだったんです。修学旅行の時に、友達といろんな曲をシャッフルで聴いていた時にクリープハイプが流れてきて。中毒的に好きになって、友だちとライブにも行って。だから、『私たちのハァハァ』は、自分と重なるところがありました。

しかも私も群馬県出身で、華やかな東京でライブをしている人たちは自分とは遠い存在だった。でも、そんな場所に私たちよりも遥か遠い福岡に住んでいる女の子たちが自転車で向かうというアホな発想が、すごくよくて。最後は涙がとまらなかったです。

松居:女の子たちとまったく一緒の境遇だったんだ。

左から:松居大悟、枝優花

—観た人たちの感想は、エネルギーになりますか?

松居:なります。なりますし、自分自身の作品に対する解釈が変わることもありました。

例えば、『アイスと雨音』(2018年)のタイトルは、単純に主人公の好きなものを並べただけだったんですけど、何度も映画を観てくれている方からタイトルの由来を聞かれて。そんな浅い理由だったから「逆に何だと思いますか?」って聞いてみたんです。

:(笑)。

松居:作品の最後に、誰もいない客席から拍手が聞こえてくるというシーンがあるんですけど、その方の答えは「彼らだけに聞こえる拍手が雨音のようで、一瞬で溶けてしまうアイスと一瞬しか訪れない時間をかけているのでしょうか」と。「……そうです」って言いました(笑)。それ以降は、タイトルの由来を聞かれたらそう答えています。

:私もそうだと思っていました!

松居:作っている時って感覚的なゴールしか見えていなくて、自分の中でなぜそうしたのか、作品について言語化できていないんですよね。映画は完成したら終わりではなく、観てくれたお客さんと育てながら形が変わっていくんだなぁって。特に2018年に公開した『アイスと雨音』と『君が君で君だ』で思いました。

:感想から発展するものはありますよね。私は聖地巡礼とか、映画と日常がつながる瞬間が好きで。『少女邂逅』では劇中に出てきたクリームソーダを象徴的に押し出したんですが、実は映画の中でクリームソーダは一瞬しか出てこないんです。公開してからのお客さんの「クリームソーダ」への反応を見て、映画館の方にお願いしてクリームソーダの提供を始めました。

『少女邂逅』Blu-rayアウターケースのビジュアル
『少女邂逅』Blu-rayアウターケースのビジュアル(Amazonで見る

松居:枝さんはプロデューサー的な視点もあるんだね。

:パンフレットは自分で写真を撮ったので、監修することにしました。自主制作映画ですしどうせなら色々やってみたいと思い、いろいろ言わせてもらいました。

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リリース情報

『少女邂逅』監督・枝優花 完全監修パッケージ仕様
『少女邂逅』監督・枝優花 完全監修パッケージ仕様(Blu-ray)

2019年1月16日(水)発売
価格:6,264円(税込)
PCXP.50618

『少女邂逅』
『少女邂逅』(DVD)

2019年1月16日(水)発売
価格:4,104円(税込)
PCBP.53868

イベント情報

『みみばしる』
『みみばしる』

2019年2月6日(水)~2月17日(日)
会場:東京都 下北沢 本多劇場

作・演出:松居大悟
音楽監督:石崎ひゅーい
主演:本仮屋ユイカ

プロフィール

枝優花(えだ ゆうか)

1994年3月2日生まれ。群馬県高崎市出身。監督作『さよならスピカ』(2013年)が第26回早稲田映画まつり観客賞、審査員特別賞を受賞。翌年の第27回早稲田映画まつりでも『美味しく、腐る。』(2014年)が観客賞に選ばれる。大学時代から映画の現場に従事し、山下敦弘監督『オーバー・フェンス』特典映像撮影編集、吉澤嘉代子、indigo la End、マカロニえんぴつのMV監督なども務める。その他も、「ViVi」「装苑」などでのスチール撮影、メイキング、助監督とその活動は多岐に渡る。初長編監督となった『少女邂逅』は、2018年3月の香港国際映画祭にも正式出品されて話題作に。6月30日から全国で上映され新宿武蔵野館では9週間のロングランとなった。

松居大悟(まつい だいご)

1985年11月2日生まれ、福岡県出身。ゴジゲン主宰、全作品の作・演出・出演を担う。12年に「アフロ田中」で長編映画初監督。その後「スイートプールサイド」、「私たちのハァハァ」、「アズミ・ハルコは行方不明」など監督作を発表、枠に捉われない作風は国内外から評価が高い。近年は、テレビ東京ドラマ「バイプレイヤーズ」シリーズ、若者たちの1ヶ月間を74分ワンカットで撮った「アイスと雨音」、「君が君で君だ」など。ナビゲーターを務めるJ-WAVE『JUMP OVER』は毎週日曜23時から放送中。

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