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大原大次郎×田中義久 互いのデザインを解剖するデザイナー2人展

大原大次郎×田中義久 互いのデザインを解剖するデザイナー2人展

クリエイションギャラリーG8『大原の身体 田中の生態』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

感覚の目盛りのようなものを増やしていくことが、自分の課題ですね。(大原)

—今回の試みを始めてみての手応え、この先の予感みたいなものは何かありますか? 例えばTwitterを使ってプロセスを公開しているのもユニークですよね。

大原:僕はSNS耐性があまりないので、Twitterに関してはわりと抗ったんですけど。やっていくうちに、公衆に晒すことで進むものが多くあるなと気づきました。

田中:伝達すべき物事を内包し、集約することでシンプルにまとめ上げていくというのがモダンデザインのひとつの伝統だと思うのですが、それがだんだんと通用しなくなってきた感覚があります。

例えばロゴマーク。昔はロゴの存在自体が珍しかったから視覚伝達の方法として優れていたけれど、いろんなところにロゴが氾濫している現代の環境では差別化の役割を果たすことができない。フラットに物事を突き詰めて考えていくデザイン思考から取りこぼされたものを拾って再コンテクスト化するような試みをしていかないと、何より自分自身が前に進めないんですよ。

そうは言ってもどんどん藪のなか、霧のなか……。まわりからは「何やってんの?」って言われるでしょうけどね(苦笑)。

左から:田中義久、大原大次郎
田中義久による大原大次郎の身体考察 『文字と採取の痕跡』
田中義久による大原大次郎の身体考察 『文字と採取の痕跡』

大原:僕がやっている図鑑化していく方法は、義久さんに限らずいろんな対象に使える手法だと思われるかもしれないんですが、そうはならないと思い始めています。デザインに対して与えられるボキャブラリーの、例えば「かっこいい」「かわいい」「やばい」などから漏れ出ている軸を探ったり、感覚の目盛りのようなものを増やしていくことは、自分の課題ですね。

大原大次郎による田中義久の生態研究 『点子』
大原大次郎による田中義久の生態研究 『点子』

—今、特にヨーロッパのアートシーンでは、美術館やアートスペースが展覧会の企画をアーティストやクリエイターに全権委任する取り組みが現れ始めています。いかにして、既存の体系や体制に別のシステムを取り込んでいくか、という関心から生まれたものだと思うのですが、この2人展も似たところがありますね。デザイナーがデザイナーの眼差しによって揺るがされ、新たに定義づけられる。

田中:SNSで、自分たちの迷い、最終的に失敗するかもしれないものをさらけ出しているのは、そうやって言葉にすることがひとつの誠実な態度だと思うからなんです。

「デザイン」という職業名は広く認知されていますが、プロセスが開示されにくいことによって、本質的概念への誤解を生む状況をつくってしまったのかもしれません。結局のところ、自分たちが蒔いた種ですよね。

単純な「わかりやすさ」とは違う、音楽的な空間に身をゆだねる心地よさについて考えたい。(大原)

—話をうかがっていると、デザイン的な手を動かす作業は、圧倒的に大原さんに強いられている感があります(笑)。

田中:いやいや、僕だって色々と(笑)。まぁ、でもそう見られることを自ら望んでいる感はあります。

大原:知り合いからは「(SNSを見て)お前らなかよしすぎだろ」って言われました。

田中:(苦笑)。さきほど話したことの繰り返しになりますが、あらゆる表現って、ある程度フォーマットされていくとどんどん排他的になっていきます。社会的な枠組みのなかで、デザインが広がった分だけ、その排他性が少しずつ審判されていると思うんですよ。

それってなんというか、自分としては生きた心地がしないんです。だから、自ら作ってきた体系を自身で溶解して、一度荒地に戻す。荒地という混沌の中でこそ、新しい生に出会えますよね。

展覧会設営風景(撮影:クリエイションギャラリーG8)
展覧会設営風景(撮影:クリエイションギャラリーG8)

大原:そこでひとつ聞いておきたいんですけど、義久さん、今回の展覧会に関して「わかりやすさ」ってどう設定してますか?

田中:「わかりやすさ」の設定基準は内容によって変化すると思います。例えば、今回の展覧会は何かをデザインしているわけでもないし、タイトルにある「身体」や「生態」という言葉も起点としてあるだけ。そういう意味では、一言で言い表せないことが重要だと思っています。

田中義久による大原大次郎の身体考察 『文字と採取の痕跡』
田中義久による大原大次郎の身体考察 『文字と採取の痕跡』
大原大次郎による田中義久の生態研究 『点子』
大原大次郎による田中義久の生態研究 『点子』

大原:僕は難解な状態を作りたいわけでもないし、伝わりづらいものを作ろうとも思ってないんです。例えば10年以上前に自分がやっているような描き文字が出てきたときに「読めない。何であえてこんなことするの?」みたいな反応がすごく多くあって。自分としては、音楽での「新しい聴こえ方を、こんなに単純な演奏方法でしている」みたいなことを文字でしてみたら、視覚的には見慣れない癖が出たというだけだったんですけど。

田中:例えば作品集でも、表紙にタイトルや著者が一切載っていないデザインを施すことってあるんですよね。「誰がどのようなコンセプトで、どんな作品を作ったか、表紙で明快に伝えなくてはならない」というデザイン的な責務からすると問題なんだけれど、そういう本で埋め尽くされた店頭の書棚だと、その方が視覚的に類型化され、見てもらえないという問題も同時に生まれてしまうわけです。

そこで、表紙にタイトルや写真すら載ってない写真集を考えてみる。代わりに、作品の一端を体現するような、あまり見慣れない紙を表紙に使うとします。すると、購買者が写真にたどりつくには1ターン遅れるけど、他との差別化によって本自体を認知してもらえるチャンスは持てる。それもデザインのひとつの手段で、文字が読みづらいデザインは「読めないだろう?」ってことにアイデンティティがあるわけではないと思うんです。

田中がデザインした作品集の小口部分
田中がデザインした作品集の小口部分

大原:単純な「わかりやすさ」とは違った、音楽的な空間に身をゆだねる心地よさについて考えたいです。例えば能楽って、全部のテキストが耳になじんで、平易に読み解けるものじゃないですよね。1時間半くらいの公演時間のなかに身を委ねることをふまえて設計されている。

「寝るほど気持ちよかった」という設計が、すとんとお腹に落ちて理解を助けることもある。会場で作品を目にしたすべてを理解するのではなくて、会場を出た後、あるいは数日間かけてピンとくるものが突然現れるとか。そういう成果物、そういう空間を作ることができれば嬉しいですね。

田中:そうだね。本を読む体験も、その時の知識の量や関心によって目に入ってくるものが変わるから。展覧会を観て、そこから得たかけらを持ち帰ってもらえればと思います。

『大原の身体 田中の生態』ポスタービジュアル
『大原の身体 田中の生態』ポスタービジュアル
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イベント情報

『大原の身体 田中の生態』

2019年1月11日(金)~2月14日(木)
会場:東京都 銀座 クリエイションギャラリーG8
時間:11:00~19:00
休館日:日曜、祝日
料金:無料

プロフィール

大原大次郎(おおはら だいじろう)

1978年神奈川県生まれ。グラフィックデザイン、展覧会、ワークショップなどを通して、言葉や文字の知覚を探るプロジェクトを多数展開する。近年のプロジェクトには、重力を主題としたモビールのタイポグラフィ『もじゅうりょく』、ホンマタカシによる山岳写真と登山図を再構築したグラフィック連作『稜線』、蓮沼執太、イルリメと共に構成する音声記述パフォーマンス『TypogRAPy』、YOUR SONG IS GOODの吉澤成友と展開する、ライブプリントとドローイングによる入稿セッション『New co.』などがある。受賞にJAGDA新人賞、東京TDC賞。

田中義久(たなか よしひさ)

1980年静岡県浜松市生まれ。近年の仕事に東京都写真美術館を始めとした文化施設のVI計画、ブックショップ「POST」、出版社「CASE」の共同経営、『The Tokyo Art Book Fair』、『アニッシュ・カプーア IN 別府』、『Takeo Paper Show』などのアートディレクションがある。また、飯田竜太(彫刻家)とのアーティストデュオ「Nerhol」としても活動し、主な個展に『Index』Foam Photography Museum(オランダ)、『Promenade』金沢21世紀美術館、『Interview,Portrait,House and Room』Youngeun Museum Contemporary Art(韓国)などある。

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