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いとうせいこう×石川直樹 偶然に身を任せる人生こそ面白い

いとうせいこう×石川直樹 偶然に身を任せる人生こそ面白い

東京オペラシティ アートギャラリー『石川直樹 この星の光の地図を写す』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:鈴木渉 編集:宮原朋之

東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の『石川直樹 この星の光の地図を写す』は、世界各地を旅し、見続けてきた写真家・石川直樹の約20年の歩みを総括する大規模個展だ。広い会場には、北極や南極、ポリネシアの島々、世界第2位の標高で知られる高峰K2など、これまで石川が出会った場所や人々や出来事が余すところなく紹介されている。

だが、それらを見て感じるのは「こんな秘境が世界にあるのか!」といった驚きとはすこし違うものだ。場所を示すキャプションはハンドアウト以外はほとんどなく、いかにもな風景写真も観られない。むしろ「なんでこれを撮ったのだろう?」と疑問を抱かせるものも少なくない。石川は、いったい何を写真にしようとしているのだろうか?

その疑問を解くべく、石川とは旧知の間柄である作家いとうせいこうをお招きし一緒に展覧会を巡ることになった。いとう自身も、さまざまな国や場所を訪ねてきた。そんな2人の対話から、写真、旅、世界との関わり方を知る。

石川くんの写真って、すごいところに行ってきました、っていうイキった感じがしないんだ。不思議だね。(いとう)

最初のゾーンにあるのは北極圏から南極圏まで人力で縦断した『POLE TO POLE』シリーズや、北極圏、南極といった極地で撮られた作品群。その冒頭には、今から21年前、20歳の石川さんがはじめて高所登山に挑んだ、アラスカ山脈、北アメリカ最高峰デナリの写真が展示されています。

左から:石川直樹、いとうせいこう
左から:石川直樹、いとうせいこう

いとう:この写真の下に写りこんでる赤い服は、石川くん本人?

石川:登山隊のメンバーです。このときは手袋を3重にして、しかもゴーグルをかぶっていたのでファインダーを覗かずに撮影したんですよ。それで帰国後にいざ現像してみたら仲間の頭が写っちゃっていた。「せっかく1か月かけて登ったのに!」って、ちょっと後悔しましたよ。

石川直樹『DENALI』(1998年) / 『石川直樹 この星の光の地図を写す』 https://www.operacity.jp/ag/exh217/
石川直樹『DENALI』(1998年) / 『石川直樹 この星の光の地図を写す』(サイトを見る

いとう:でも、これがあることでグッと物語感が出るよね。

石川:そうですね。当時は失敗した……!と思っていたんですけど、自分が置かれていた状況も思い出されて、今はとてもよかったなと思っています。「あのときは高山病でふらふらしてたなあ」とか思い出しますね。

左から:いとうせいこう、石川直樹

いとう:20年前の装備がどんなだったかわかるしね。極地での風俗文化写真になってる。

おー、こっちの部屋は北極、南極を集めてるのか! 氷と雪の風景は、抽象性を感じさせるなあ。

石川:これはグリーンランドですね。真冬、クリスマスの前後です。犬ぞりの猟についていったり、丘を登って見えた街並みとかですね。

いとう:石川くんの写真って、寒い場所でも寒い感じを出さないよね。むしろ温かみすら感じる。すごいところに行きました、怖いところに入って撮ってきました、っていうイキった感じがしないんだ。不思議だね。

『POLAR』(2007年)
『POLAR』(2007年)
石川直樹『この星の光の地図を写す』展示風景 撮影:木奥恵三
石川直樹『この星の光の地図を写す』展示風景 撮影:木奥恵三

アートって「それを見たら自分も何かやりたくなる」ことだと思っている。(いとう)

次の部屋には古代人が洞窟などに残した壁画を集めた『NEW DIMENSION』シリーズが並びます。

石川:ノルウェーやインド、アルジェリアやオーストラリアの壁画に出会うまでのプロセスを追って、左から右にシークエンスを組んでいます。壁画を見ることって、タイムマシンに乗っているような、時間を旅するような感覚がある。距離や空間を軽々と超えちゃうんですよね。10年くらいずっと追っかけていました。

いとう:俺は「アートって何か?」を説明するときにアルタミラやラスコーの壁画を例によく挙げる。なぜなら、アートって「それを見たら自分も何かやりたくなる」ことだと思っているから。

壁画を見ると、まさにそんな気持ちになるんだよね。音楽家はこれに音楽をつけたくなるだろうし、俺なら字を書きたくなる。そして、この壁画を描いた古代人自身も、それに似た衝動で描いたんじゃないか、って感じるんだ。

石川:気持ちが揺さぶられますよね。昔の人も「目の前の時間を止めたい」って感覚があったのでは、とぼくは思います。動物の足が動いているように見える壁画もあって、これを描いた人は「(絵のもとになった動物が)動いているんだ」ってことを一生懸命伝えようとしていたんじゃないかって。アニメの原点のようにも感じられます。一方で、顔料を吹き付けて手の輪郭を残した壁画なんかは、写真がない時代の写真そのものみたいにも感じられるんです。

石川:アルジェリアの壁画には、描くだけじゃなくて、岩に彫ってあるものもあるんですよ。これがまた臨場感がある。

いとう:俺はみうらじゅんと、もう20数年来、仏像を見るために旅してたんだけど、岩に彫った磨崖仏ってあまり好きじゃなかったんだ。やっぱり精緻な仏像がいい。

でも去年くらいから2人とも「やっぱり岩なんじゃない?」って心境になってきていて、今、我々に「岩の時代」が来てるのよ。それでついに中国の峨眉山(四川省にある山。中国三代霊山として知られる)まで行ったんだよ。

石川:「岩の時代がきてる」って、すごい(笑)。

いとう:聖地になる場所って、気持ちのよい風が通ったり、すごく雄大な風景が見通せる高地によくあるでしょう。峨眉山はまさにそんな場所だった。

石川:たしかに壁画が描かれた場所から見える風景ってどこもすごく美しいんですよ。

いとう:そうそう。そういう場所に古代の人たちは絵を残したかったってことなんだよね。石川くんはその壁画も撮るし、その壁画を背にした状態で見える周囲の風景も撮る。それって古代の感覚として正しいんだ。

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イベント情報

『石川直樹 この星の光の地図を写す』

2019年1月12日(土)~3月24日(日)
会場:東京都 初台 東京オペラシティアートギャラリー

時間:11:00~19:00(金、土曜は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合は翌火曜)、2月10日(全館休館日)
料金:一般1,200円、大高生800円
※中学生以下無料
※障害者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は無料

プロフィール

いとうせいこう

俳優、小説家、ラッパー、タレントとさまざまな顔を持つクリエーター。雑誌『ホットドッグ・プレス』の編集者を経て、1980年代にはラッパーとして藤原ヒロシらとともに最初期の日本語ヒップホップのシーンを牽引する。その後は小説『ノーライフキング』で小説家としてデビュー。独特の文体で注目され、ルポタージュやエッセイなど多くの著書を発表。執筆活動の一方で宮沢章夫やシティボーイズらと数多くの舞台・ライブをこなすなど、マルチな活躍を見せている。近年では音楽活動も再開しており、口口口やレキシ、dubforceなどにも参加している。

石川直樹(いしかわ なおき)

1977年東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞を、『CORONA』(青土社)により第30回土門拳賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。最新刊に、エッセイ『極北へ』(毎日新聞出版社)、都道府県47冊の写真集刊行プロジェクト『日本列島』(スーパーラボ×BEAMS)、本展のカタログでもある大冊の写真集『この星の光の地図を写す』(リトルモア)など。

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