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遠藤薫はアイデアで取り締まりをかわし、規格外の変化球を投げる

遠藤薫はアイデアで取り締まりをかわし、規格外の変化球を投げる

shiseido art egg
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:前田立 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

沖縄で「揉まれる」生活を経て、生まれ故郷大阪で染物に挑戦

―沖縄での学生生活はいかがでしたか?

遠藤:絵を描くのが好きだったので、似たところにある染織に取り組んだんですけど混乱ばかりしていました。

「新しい紅型(沖縄の伝統的な染色技法)を作る」という課題を出されても、沖縄出身でもない私が、なにを根拠に「新しい紅型」を定義できるのだろうか、と悩んだり。ふだんから「(遠藤さんは)沖縄の人じゃないよね」と見られるのもカルチャーショックでしたし、ヘリコプターが堕ちたり、米軍関連の事件で人が亡くなったりするような事件が起きている土地ですから……それで同級生と一緒にデモに参加したりだとか。とにかくいろんなことに揉まれる生活でした。

―紅型の課題はどんな風に応えたのですか?

遠藤:結果的に「サンプリング」することにしました。音楽用語の転用ですけど、古い紅型の着物の模様を集めてきて、大きくしたり小さくしたり。とくに戦前に使われていた古典的な柄だけを使ってマッシュアップ(再構成)する。これなら沖縄の人間ではない私にも紅型を扱えるぞ、と思ったんです。

遠藤薫

DJ活動にもつながるようなアイデアの転換は、自らのルーツを意識するきっかけを与えたようだ。大学を卒業して大阪に戻った遠藤は、大阪らしい染織に挑戦しはじめる。

遠藤:沖縄の人には沖縄の染物、アイヌの人にはアイヌの染物がある。じゃあ、大阪の人の大阪の染物と言ったら……「注染染め」だろうと思いました。

注染染めは明治時代の大阪で生まれたもので、大量生産可能な近代的な染織技法です。7メートルぐらいのはしごを何度も上り下りして、布を引き上げるような重労働で、女性には向かない仕事と言われていました。実際、弟子入りを頼んでも断られ続けたのですが、なんとか受け入れていただいて。作業は大変でしたが、機械の騒音が大きすぎるので、大声で歌を歌っても怒られたりしないから気に入っていました(笑)。

―音楽好きとしては楽しい職場だったんですね。

遠藤:はい。でも、化学染料ってやはり毒性を含むものですから、私にとってこの技法を今後も違和感なく大事にできるのだろうか? という疑問もあって。それで志村ふくみさん(草木染めを用いた紬織の作品で知られる人間国宝の作家)のところで植物染料と工芸の基礎をあらためて学びました。

遠藤薫

「DJと称して、ターンテーブルを回してその上でパン生地をこねるのも真面目な工芸の問題意識からなんです」

2015年の東京での個展(『DJもしもしの幽霊について』)や翌年参加したクリエイティブセンター大阪(CCO)でのグループ展(『クロニクル、クロニクル!』)以降、現代美術のアーティストとして知られることの多い遠藤が、そのルーツやキャリアだけではなく、作家としての関心も工芸に強く向かっているのはちょっと意外だ。

『クロニクル、クロニクル!』2016年 CCOクリエイティブセンター大阪(大阪)小麦粉、石、ルンバ、隕石
『クロニクル、クロニクル!』2016年 CCOクリエイティブセンター大阪(大阪)小麦粉、石、ルンバ、隕石
『クロニクル、クロニクル!』2016年 CCOクリエイティブセンター大阪(大阪)小麦粉、石、ルンバ、隕石

遠藤:自分の関心の軸にあるのは、いまも昔も「工芸的ななにか」についてなんです。DJと称して、ターンテーブルを回してパン生地をこねてツボを作って土に埋めたり、蟻に食べさせたりしているのも「身近なもので陶芸をするにはどうしたらいいのか?」という着想から来ていて。「残るものと、残らないものとはなにか?」という、けっこう真面目な工芸への問題意識からなんです。

書道にしても、例えば世界中で見られるプリミティブな文様のひとつに「渦巻き文様」があります。渦が巻いているという視覚的な神秘性や、水や植物の動きを模倣してできる造形性が世界中で普遍的に受け入れられた理由だと思うのですが、いっぽうで私は「単純に手首の骨の構造なんじゃないか?」と考えてみました。

―自然に手を動かせば曲線が生まれる、と。

遠藤:基本的に縦横の線で整理された楷書を書くときに、単純な手首の動きを生かすと、自然にフィボナッチ数から生じる螺旋のかたちや、フラクタル(部分のかたちが全体と相似するような構造のこと)的な文字になっていきます。「人間も、身体はまだ動植物なのだな」と再認識するような文字を書いていました。書道教室の先生をしていても、そんな変わった文字は書けないので、ずっと家で実験していたんです(笑)。

そういう実験を、たまたま知り合ったキュレーターが面白がって声をかけてくださったのが、現代美術に関わるようになったきっかけです。

―『クロニクル、クロニクル!』展では、ロシア宇宙主義(19世紀後半のロシアで考えられた自然哲学で、独特の死生観を有する)に関わる作品を発表していましたね。

遠藤:ロシア宇宙主義の理念と共に、当時の名も無き造船工人たちを現代に復活させる試みでしたが、そこにも、私なりの工芸への意識があったんです。

工芸の世界の内側だと、私のやってるようなことは異色すぎて叱られることもあるんですけど、現代美術の世界では可能になる。むしろ外から考えることで、工芸の本質みたいなものに迫れるんじゃないか、と思っているんです。

『Practicing for write』2014 奈良・町家の芸術祭 はならぁと、ミクストメディア
『Practicing for write』2014 奈良・町家の芸術祭 はならぁと、ミクストメディア
『Practicing for write』2014 奈良・町家の芸術祭 はならぁと、ミクストメディア

数百年にわたって続く伝統芸能の世界では、「天才待ち」という考え方があると聞いたことがある。長い歴史のなかで研鑽された技術や思想を後世に正しく受け継ぐのが代々の後継者の使命だが、それだけでは本来の芸術性は途絶えてしまう。異端者的な天才が2~3代ごとに現れることで、流派の命脈は更新されるというのだ。遠藤の作家としてのスタンスや経歴は、そんなことを思い出させる。

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イベント情報

『shiseido art egg 13th』
遠藤薫展

2019年8月30日(金)~9月22日(日)
会場:東京都 資生堂ギャラリー
平日 11:00~19:00 日・祝 11:00~18:00
毎週月曜休(祝日が月曜にあたる場合も休館)
入場無料

作家によるギャラリートーク
遠藤薫

2019年8月31日(土)14:00~14:30
会場:東京都 資生堂ギャラリー

※事前申し込み不要。当日開催時間に直接会場にお越しください。
※予告なく、内容が変更になる場合があります。
※やむを得ない理由により、中止する場合があります。
中止については、資生堂ギャラリー公式Twitterにてお知らせします。
※参加費無料

プロフィール

遠藤薫(えんどう かおり)

1989年、大阪府生まれ。2013年に沖縄県立芸術大学工芸専攻染めコース卒業。2016年、志村ふくみ(紬織, 重要無形文化財保持者)主催、アルスシムラ卒業。現在は、ハノイ/大阪府在住。

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