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椿昇×松倉早星 反逆のアートフェアが描こうとする京都の未来図

椿昇×松倉早星 反逆のアートフェアが描こうとする京都の未来図

『ARTISTS' FAIR KYOTO 2020』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:伊藤信 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

過密さを嫌って外に流れていったもの、弾き出されたものから、ディープでこだわりの強い表現がたくさん現れるはず。(松倉)

―京都にはワン&オンリーなミュージシャンを多数輩出してきた歴史がありますよね。いっぽう、最近の京都は再開発が進んで、どんどん均一化していっている印象もあります。

松倉:狭い街ですからね。観光や商業を目的にすると中心部はどんどん過密になっていって、京都なのにまるで渋谷みたいな状態になっていっている……というのが今なんだと思います。そういう状態から面白いものが出てくるかというと、なかなかそうはいかないんですよね。

むしろそういう過密さを嫌って外に流れていったもの、弾き出されたものから、ディープでこだわりの強い表現がたくさん現れるはず。空間現代ってバンドがやっているスペース「外」とか、とっても京都らしい。それから、そういう中心からちょっと離れたところ歩いていると、エリアごとにまったく違う特徴があるのにも気付きますね。

空間現代によるスタジオ、ライブハウス「外」
空間現代によるスタジオ、ライブハウス「外」

―左京区は学生やカルチャーの街という感じがありますし、上京の西陣なんかは職人の街という感じで。それぞれの場所にそれぞれの息吹がある。今日の取材場所である京都造形芸術大学にしても、山にへばりつくように建っていて独特な空気があります。

椿:創立者が追われてたどりついたのが瓜生山で、そこで大学を作ったらしいですよ(笑)。

―そういった意外な原点にも、反逆の精神が。

椿:ちょうど先日、京都精華大学の学長、ウスビ・サコさんと鼎談したんだけど、精華大は学長選挙のシステムも独特で、教員と職員と学生の投票で決まるんです。そんな大学聞いたことない。

彼は西アフリカのマリ共和国出身だから、マリのバンバラ語はもちろん、関西弁、中国語、英語、フランス語を操るきわめてグローカル(グローバル+ローカル)な人。そういう人物を、大学全体の総意で学長に選ぶんです。

そういう多様性が京都にはあると思うし、個々のクオリティーも高い。そういった表面にはなかなか見えてこないところに面白さと深さが、京都にはある。もちろん、よく言われるように京都人はいじわるで性格が悪いけども、そういう陰の部分もなければ京都ではないよ。「いけず」と言われつつ、意外と寛容で懐深いところもあるしね。

松倉:他の人が何やってるかけっこうわかるんですよね、京都って。飲み屋でベロベロに酔っ払ってる初対面の2人がじつはアーティスト同士だったり研究者同士だったりして、そこから「何かやろうか!」って盛り上がったりする。

そういうことを踏まえて考えると、この数年続いてきたホテルの建設ラッシュが下火になりつつある今こそ、面白いことが起こる気がします。何かするときは一緒にやるけれど、同時に他と違うことでなければやる気が起きないのが京都らしいところ。

松倉早星

前田:京都って塩梅が良いんですよ。歴史と文化のある街でありながら、だからといって新しい情報に遅れているわけでもない。

自分のやりたいように活動したり休んだりできるのがありがたい。この数年で観光客が激増して、これまでの環境が保たれていくのか不安もありますが。

黒川:大きな動きが続いていますよね。でも、そういう外からの目線を僕ら若い世代は妙に気にしすぎている気もします。

それに合わせて作品も、それを扱うギャラリーも、「売れそうな」方へと傾斜してきているかもしれない。京都が本来持っている感じと方向性が違うんじゃないか? という思いはあります。

若いアーティストは、年齢的にも近いコレクターと一緒に育っていって欲しいんです。同世代が共感して評価するものを作る。(椿)

―そういった状況を踏まえて、『AFK』は今後どんな展望を持っていけるでしょうか?

椿:僕はエコシステム(生態系)を作るための1つのパーツとして『AFK』を位置付けているんですよ。日本のアートって、時代ごとの偶然でたまたま海外キュレーターにピックアップされた1~2人の日本人アーティストを待望するようなところがいまだにある。

けれど、そんな彗星が落ちてくる確率に依存し続けても仕方ない。ローカルなところから作家が常に育っていける環境を作らなければダメ。

椿昇

―『AFK』とほぼ同時期に椿さんが始めたのが「アルトテック」です。京都造形芸術大学のキャンパス内にありながら、他大学や専門学校出身の作家の作品を扱うビューイングルームやマネージメントオフィスのような役割も担っていると聞きました。とても特殊な場所だと思います。

椿:「特殊なところにしてくれ」って大学にお願いしたんですよ。だから、窓のすぐ外にお墓がある(笑)。この場所を薦められたとき「こんな端っこで申し訳ないんですが……」と、めちゃくちゃ恐縮されたんだけど、僕は端っこが大好きだから。お墓の横は風水的にも最高。

京都を中心に活動する若手作家作品のウェブアーカイブとして機能すると同時に、作品を行政、企業、個人へリース・販売、行政や企業からの委託を受けたコーディネートやコミッションワークの提案、アートフェア、企画展の運営、設置空間のアートディレクションなども行なっている 撮影:Kenryou Gu
京都を中心に活動する若手作家作品のウェブアーカイブとして機能すると同時に、作品を行政、企業、個人へリース・販売、行政や企業からの委託を受けたコーディネートやコミッションワークの提案、アートフェア、企画展の運営、設置空間のアートディレクションなども行なっている(サイトを見る) 撮影:Kenryou Gu

椿:この数年で、大学の卒業制作展にたくさんのコレクターや企業の人が来るようになったんですよ。それがどんどん加熱して、最近は卒制を制作中のスタジオにやってきて、絵の具が乾く前に「これ完成したら買うから」なんて人までいる。

そんな状況の中で、年間通して常に作品が観られる場所がなかったから、それを作りたかったんです。当初はビューイングルームと作品を置いておくストレージ(倉庫)として作ったんだけど、いつのまにか大学側が「大学院所属のコマーシャルギャラリー(作家と契約して作品を展示販売するギャラリー)です」と言っていて、僕らも「ええっ!?」って思っています。

―それだけ多くの人がやって来るからですよね。コレクターにしても、アートに関心を持ち始めた企業にしても。

椿:この時代のなかで、同じようなことを考えている人っていっぱいいるんですよ。だから場所と機会があればどんどんつながっていく。昔だったら高級車をコレクションするのがステータスだったけれど、いまはアートをコレクションしたい、若いアーティストを支援したいというマインドがいろんなところで渦巻いている。

これまでは70~80代の人が百貨店で美術品を買うという時代だったけれど、そういう世界はあと10年でなくなる。だから僕らが相手をしないといけないのは、30~40代の、自分でジャッジすることのできる若い経営者たちなんです。

年齢的にも近い、同じ時代を見てきたコレクターと一緒に、若いアーティストたちに育っていって欲しいんです。上の世代の評価に一喜一憂するのではなくて、同世代が共感して評価するものを作る。それが僕の徹底した思想。

松倉:そう考えると、『AFK』ロゴの逆流する血管のイメージは当たっていたのかもしれないですね。アートのインフラに新しい血管を通す、ということだから。

椿:どんぴしゃだったね。今回は会場も公募の人数も増えて規模は大きくなっていて、初回のようなインパクトのある何かを初めて仕掛ける感じではないかもしれない。でもさっき話したウェブ構想のように、次の何かを仕掛ける準備は着々としていて、継続性と恒常性のトライアルをするための可能性を示すようなものになると思っています。彗星のように現れては消えるものではなくて、続けるための戦略を見定めているところです。

左から:前田紗希、松倉早星、黒川岳、椿昇
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イベント情報

『ARTISTS' FAIR KYOTO 2020』
『ARTISTS' FAIR KYOTO 2020』

2020年2月29日(土)、3月1日(日)
会場:京都府 烏丸御池 京都府京都文化博物館 別館、丸太町 京都新聞ビル 地下1階
時間:11:00~18:00

プロフィール

椿昇(つばき のぼる)

京都造形芸術大学芸術学部美術工芸学科教授。アメリカ同時多発テロ事件をきっかけとした「UN APPLICATION PROJECT」、東日本大震災復興のための「VITAL FOOT PROJECT」など、時勢を受け、様々なプロジェクトを展開してきた。長年にわたってアート教育にも携わり、京都造形芸術大学美術工芸学科の卒展をアートフェア化、内需マーケット育成のためにアルトテックを創設。アートを持続可能社会実現のイノベーションツールと位置づけている。

松倉早星(まつくら すばる)

1983年北海道富良野生まれ。立命館大学産業社会学部卒業。東京・京都の制作プロダクションを経て、2011年末ovaqe inc.を設立。2017年7月より、プランニング、リサーチ、クリエイティブに特化したNue inc設立。代表取締役就任。これまで領域を問わないコミュニケーション設計、プランニング、戦略設計を展開し、国内外のデザイン・広告賞受賞多数。

前田紗希(まえだ さき)

1993年福井県生まれ。2015年京都造形芸術大学美術工芸学科油画コース卒業。個展に2017年『DUAL BLUE』(GALLERY TOMO ITALY,MAG / イタリア)、2019年(GALLERY TOMO / 京都)、2018年『アートフェア東京』(MISA SHIN GALLERY)等出展多数。作家が日常の中で感じ取る、物事の相対性や対比がトライアングルのフォルムとして画面に現れる。トライアングルは「隣り合うものによって答えが変わり、決して交わりはしない」という万物とその関係性の根本を主張する。

黒川岳(くろかわ がく)

1994年島根県生まれ。2016年東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科卒業、2018年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了。自身が出会った様々なものの音や形、動きを注視し、それらを自らの身体で捉えようとする行為を繰り返す中で生まれる形や音、動きなどをパフォーマンスや立体、映像、プロジェクトなど様々な形式で発表している。近年は音楽家やダンサー、パフォーマーとのコラボレーションによる作品制作も行う。

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