
仲野太賀×中川龍太郎 同世代が選んだ、生きづらい時代での闘い方
『静かな雨』- インタビュー・テキスト
- 麦倉正樹
- 撮影:寺内暁 編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)
僕が見出したものは、ひと言でいうと、「行き止まりを生きる覚悟」。(中川)
―そのオファーを受けて太賀さんは?
仲野:いま監督がおっしゃっていたことは、言わずもがな僕もわかっていたので、少しでも力になれたらなと思って、引き受けさせていただきました。ただ、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』のときに、やれる限りのことをやった感覚もあったんですよね。なので、せっかくまた中川監督と一緒にやるんだったら、以前とは違う場所に行きたい。そう思って臨んでいました。
中川:そう、その違う場所へ行くために、どういうテーマを見つけ出せばいいのかということに、一番苦労したんですよね、お互い。その部分のディスカッションが、実は撮影前にかなりあったんです。
―今回の映画は、中川監督が翻案した要素も、実はかなり多く入っていますよね。
中川:恐らくそれは、原作者の宮下先生とはまた違う、プラスアルファで僕がこの作品に見出したものだと思うんですけど……それをひと言でいうと、「行き止まりを生きる覚悟」になるのかな。
若い世代にとっては、これから経済発展が見込めるわけでもないし、未来に対して明るい展望を抱けるわけでもない。そういう社会において、露悪的な映画を作ることもできるし、自堕落なものであったり、投げやりになるような映画を作ることもできると思うんです。あるいは、ナルシスティックに内向したりとか。
だけど、それを「絶対にしない」という覚悟のもとに映画を作るというか、そういう時代だからこそ、目の前の生活のディテールと向き合って生きていくことを、誠実に表現する必要があると僕は思っているんです。この小説の型があれば、それができるのではないかと思い、そこをひとつのテーマとして持ってきたんですよね。
映画がよりよくなるためにはどうすればいいのか、自分の感覚を誠実に提示したい。(仲野)
―なるほど。そういう話を、事前に太賀さんとすり合わせていったのですか?
中川:すり合わせたというか、正直どうしたらいいのか悩んだり、迷走していた時期もあったんですよね。脚本も何度も書き換えたりして。そういうときに、太賀が「これをいま一緒にやる意味、いま撮る意味って何だろう?」っていうことを、撮影直前の1か月前とかギリギリまで厳しく指摘しつづけてくれてた。だからこそ、そのテーマに自分も行きつけたし、それがなければ、また違う形の作品になっていたかもしれません。
仲野:この原作をいま映画にする意味を、僕も最初は計りかねていたんです。やっぱり、小説というのは活字で書いてあるものじゃないですか。この小説も、言葉豊かに美しく物語を描いているんですけど、それをいざ映像によって可視化するっていうのは、全然違う作業だと思うんですよね。
特に、この小説は、そこまでダイナミックな物語があるわけでもないので、その静けさや美しさを、脚本からどう立ち上げるか? っていうときに、やっぱりチーム編成がすごく重要になってくるんじゃないかと思ったんです。宮下さんが産み落としたこの美しい物語を核として、映像的にも音楽的にも、それを体現するスタッフがいて、それを中川監督がまとめてる形が、いちばんいいんじゃないかなと。まあ、具体的に僕がどうこうするわけじゃないんですけど(笑)。
中川:でも、今回、撮影を担当してくれた塩谷大樹さんは、太賀が紹介してくれた方なんですよね。
仲野:実際的なことは、何もしていないんですけどね(笑)。ただ、この映画がよりよくなるためにはどうすればいいのか、自分の感覚みたいなものは、誠実に提示したい。それは本来、役者が介入することではないのかもしれないけど、そういう僕の考えを、監督は誠実に受け止めてくれたし、聞く耳を持ってくれた。そういう意味では、すごくいいキャッチボールができたんじゃないかなって思います。
作品情報

- 『静かな雨』
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2020年2月7日(金)からシネマート新宿ほか全国で順次公開
監督・脚本:中川龍太郎
原作:宮下奈都『静かな雨』(文春文庫、2016年)
音楽:高木正勝
出演:
仲野太賀
衛藤美彩
上映時間:99分
配給:キグー
プロフィール
- 仲野太賀(なかの たいが)
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1993年2月7日生まれ。東京都出身。2006年、俳優デビュー。2007年の『風林火山』を皮切りに、2009年には『天地人』、2011年『江~姫たちの戦国~』、2013年『八重の桜』、2019年『いだてん』と過去に4作のNHK大河ドラマに出演。このほかのドラマ出演作にNHK連続テレビ小説『あまちゃん』、『恋仲』(フジテレビ系)、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)、『仰げば尊し』(TBS系)、『今日から俺は!!』(日本テレビ系)など。主な出演映画に『走れ、絶望に追いつかれない速さで』『南瓜とマヨネーズ』『タロウのバカ』など。
- 中川龍太郎(なかがわ りゅうたろう)
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1990年神奈川県生まれ。詩人としても活動し、17歳のときに詩集「詩集 雪に至る都」(2007年)を出版。やなせたかし主催「詩とファンタジー」年間優秀賞受賞(2010年)。国内の数々のインディペンデント映画祭にて受賞を果たす。初監督作品『Calling』(2012年)がボストン国際映画祭で最優秀撮影賞受賞。『雨粒の小さな歴史』(2012年)がニューヨーク市国際映画祭に入選。東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門では『愛の小さな歴史』(2014年)に続き、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(2015年)と2年連続の出品を最年少にして果たす。『四月の永い夢』(2018年)が、世界四大映画祭のひとつである第39回モスクワ国際映画祭コンペディション部門に正式出品、国際映画批評家連盟賞、ロシア映画批評家連盟特別表彰をダブルで受賞。第19回台北映画祭、第10回バンガロール国際映画祭にも正式出品された。