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春ねむり、愛と怒りで叫ぶ激情 この世はクソ、でも優しく生きたい

春ねむり、愛と怒りで叫ぶ激情 この世はクソ、でも優しく生きたい

春ねむり『LOVETHEISM』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2020/04/30
春ねむり

「愛」について考え抜いた先で。「自分のことしか考えられない」自分自身を認めて、彼女は今、新たな一歩を踏み出す

―“愛よりたしかなものなんてない”というのは2曲目のタイトルですけど、この曲はご自分にとってどんな曲なんですか?

春ねむり:すごく仲のいい友達がいて。前にその子が電話をかけてきて、「飛び込めなかった」って言ってきたことがあったんです。その子がいる新宿に行ったら、すごく青白い顔でしゃがみ込んでいて。

「本当に飛び込もうと思っていたのに、飛び込めなかった」って言うんです。普段そういうことを言う子じゃないから「ガチだ」って思ったんですけど、そのときの私には、かける言葉が見つからなかったんですよね。そのことがあったあとに『春と修羅』に入っている“鳴らして”を作ったんです。

春ねむり“鳴らして”を聴く(Apple Musicはこちら

春ねむり:その曲は「命を鳴らして」「生きてるって教えて」って歌っている曲で。……すごく腹が立ったんですよね、そのとき。泣かなかったんですよ、その子。「こんなときくらい、泣いてもよくない?」と思うのに、自分のことを「世界で一番かわいそう」くらいに思ってもいいのに、それすら自分に許してあげないのかと思って……。その子をその状況に追い込んだこととか、社会とか、その子をそういうふうにさせているすべてのものに、めちゃくちゃ腹が立って。

―“愛よりたしかなものなんてない”も、その体験と結びついていますか?

春ねむり:その子、「愛」っていう名前なんですよ。“愛よりたしかなものなんてない”は、このタイトルの言葉を、その子に言いたくて作った曲なんです。でも、結果としてこの曲は、すごく自分に跳ね返ってきているなっていう感じがします。

春ねむり“愛よりたしかなものなんてない”を聴く(Apple Musicはこちら

春ねむり:「腹が立った」と言いましたけど、結局、私が一番腹を立てているのは、私自身に対してなんですよね。なにもしてあげられなかったから。結果として、自分に向けて言っているような曲になったなって思う。作品全体の「愛」っていうテーマについても、すごく考えたんですよ。でも、その子の名前が「愛」だったということが、なにより大きかったのかもしれないな、と思います。

―“愛よりたしかなものなんてない”が、最初は友人に向けて発していたところが、結果として、ねむりさん自身に跳ね返ってきた。そういう曲とねむりさん自身との関係は、『春と修羅』までの在り様とは違うものなんでしょうか。

春ねむり:なんというか……前は、「私は自分のことしか考えられない」ということを認めたくなかったんだと思うんですよ。満員電車で他人の顔を見て気持ち悪いと思っちゃうのも、自分のなかにそれを見ているからで、結局、自分のことしか考えられていないんですよね。

春ねむり“Lovetheism”を聴く(Apple Musicはこちら

春ねむり:そういう自分を認めたくなかったんですけど、「私って、そういう人間なんだな」って思うようになったんだと思います。それを認めたうえで初めて、「どうやったら、人の顔をちゃんと見れるんだろう?」とか、「外側に向けて曲を書くってどういうことなんだろう?」っていうことを考えはじめたというか。

私、すごく好きな人の顔もわからなくなるんですよ。それはちゃんと見ていないからで、でも、「ちゃんと見なくちゃいけない」と思って、初めて書けたことがあるんだと思います。

春ねむり

本当に死にそうなとき、たまたま音楽がそばにあったからーー彼女自身も自覚していなかった、「歌わないと生きていけない」人生を歩んでいる理由

―このアルバムを2020年に世に出す必然性について、ねむりさんはどのように考えていますか?

春ねむり:2010年代を締め括るものじゃなくて、2020年代のはじめにこの作品が出るっていうことが、私にとっては、すごく大きいことだと思います。さっきも言った“海になって”とか古い曲も入っているんですけど、最後の“りんごのうた”が、このアルバムでは一番新しくて、2019年の夏くらいに書いたんです。この曲が入ったことで、作品としてまとまったなって思います。

―“りんごのうた”は、ねむりさんにとってどんな曲なんですか?

春ねむり:モルモットを飼っていたんですけど、死んじゃって。その子の名前が「りんご」だったんです。「この世に、こんなに悲しいことってある?」っていうくらい悲しくて。

りんごが死んだとき、一緒にいたんですよ。1年ぐらい具合が悪かったんですけど、様子がおかしくなって、気づいたらすぐ動物病院に連れていって。もう、病院に行く途中から、涙が止まらなかったんですよね。病院で先生に診てもらっている間、私、無意識に祈っていたんですよ。「祈る」っていう行為についてはいろいろ考えてきたけど、そのときの私は、本当に祈っていたなって思う……そのくらい自然に祈っていて。そのあと、「作らないと生きていけない」と思って、“りんごのうた”を作ったんです。

春ねむり“りんごのうた”を聴く(Apple Musicはこちら

春ねむり:そういうときって、まともな人間なら、その対象のことだけを想って曲を書くべきだと思うんですよ。でも私は、そんなときですら、「歌わないと生きていけない」ということしか書けなかったんですよ。

もう本当に、本当に、自分が嫌だって思ったんですけど……でも書かないと嘘になっちゃうから、それでも書いたんです。……私、たまに「優しいね」って言われるんですよ。でも、全然優しくない。反吐が出るくらいに優しくない。でも、優しくないから、優しくなりたくて、優しくなろうと頑張っているんです。“りんごのうた”には、そういうことが全部出ていると思います。

春ねむり

―ねむりさんの音楽は、「救う」とか、「肯定する」とか、そういう言葉では追いつけないくらいの速度と重さで、「ただ、そこにある」ものだと思うんです。お話を聞かせていただいて、改めてまた強く、そのことを思いました。

春ねむり:……本当に人が死ぬときって、なにも届かないですからね。だから、もし人が「救われた」と感じたのであれば、それはその人が「救われたい」とか「許されたい」と思ったからなんですよね。そこに、たまたま音楽があったら素晴らしいことだと思うけど、本当に死にそうなときって、なんでもいいから、そばにあってほしいと思うもので。別に音楽じゃなくてもなんでもいい。私には、それがたまたま音楽だったっていうことだと思うんです。

―うん。

春ねむり:大学生の頃に付き合っていた人に、「贈与の一撃」っていう思想を教えてもらったんです。「救われてしまった」とか「与えられてしまった」という状況のときに、それをそのまま人に返したところで、人はなにかを返したことにはならない。自分がしてもらったことを、また他の誰かに、もしくは別のなにかにやってあげることでしか、その恩には報いることはできないっていう思想なんですけど……「私が音楽をやっているのって、そういうことじゃん」って思ったのを、今思い出しました。

春ねむり
春ねむり『LOVETHEISM』を聴く(Apple Musicはこちら

春ねむり『LOVETHEISM』ジャケット
春ねむり『LOVETHEISM』ジャケット(Amazonで見る
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リリース情報

春ねむり『LOVETHEISM』
春ねむり
『LOVETHEISM』

2020年3月20日(金)配信

1. ファンファーレ
2. 愛よりたしかなものなんてない
3. Pink Unicorn
4. Lovetheism
5. 海になって
6. Riot
7. りんごのうた

春ねむり
『LOVETHEISM』(CD)

2020年6月12日(金)発売
価格:2,000円(税込)
TO3S-0014

1. ファンファーレ
2. 愛よりたしかなものなんてない
3. Pink Unicorn
4. Lovetheism
5. 海になって
6. Riot
7. りんごのうた

プロフィール

春ねむり
春ねむり(はる ねむり)

神奈川・横浜出身のシンガーソングライター / ポエトリーラッパー。2016年に“春ねむり”としての活動を始め、自身で全楽曲の作詞・作曲を担当する。2018年4月に初のフルアルバム「春と修羅」をリリースした。2019年にはヨーロッパを代表する20万人級の巨大フェス「Primavera Sound」に出演。さらに6カ国15公演のヨーロッパツアーを開催し、多数の公演がソールドアウトとなった。2020年3月に約2年ぶりとなるオリジナルアルバム「LOVETHEISM」を配信リリースした。

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