
岡田拓郎とduennのエンタメ化に抗う音楽精神 その社会的機能は?
Okada Takuro+duenn『都市計画(Urban Planning)』- インタビュー・テキスト
- 細田成嗣
- 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
毎日のように同じ時刻に鳴り響く防災行政無線の放送。店先で通行人に向けてマスクを売り込む声。不気味なほど静まり返った繁華街。あるいはこれまで気づきもしなかった虫の音との出会い。アパートの一画は以前に比して賑やかだ。新型コロナウイルスの災禍は都市部の音風景を少なからず変えてしまった。「新しい生活様式」という言葉を持ち出すまでもなく、多くの人々の生活様式それ自体が変わりつつある——むろん変わりようがない人々もいる。そのような時代に新しい録音作品はどんな意味を持つのだろう。
ギタリスト / 作曲家 / プロデューサーとして活躍する岡田拓郎と、福岡を拠点にイベント企画やレーベル運営も手がけるサウンドアーティストduennによる、2016年の『無常』以来4年ぶりとなるデュオアルバム『都市計画』が5月20日にリリースされた。レコードショップではアンビエントミュージックのコーナーに置かれるようなささやかで穏やかな作品である。だがよく耳を傾けて音を観察してみると、なにやら奇妙に動き回るメロディーとつかみどころのない質感に釘づけになってしまう。ポップスのようでいてヘンテコな形をしている。
再生環境は高級スピーカーでもiPhoneでも構わない。それぞれに特有のサウンドがリスナーをとりまいていく。『都市計画』はおそらく、環境音のように身近な響きでありながら、日常の音風景を一変させてしまうような面白さも秘めている。そもそも音楽とは生活に寄り添うとともに、思考の可能性を開いてくれるものではなかったのだろうか。岡田拓郎とduennが語る言葉は、コロナ禍でも変わることのないそうした音楽の意義を、改めて見つめ直すことへと導いてくれるはずだ。

岡田拓郎(おかだ たくろう) / 撮影:三船雅也
1991年生まれ。東京都福生市育ち。2012年にバンド「森は生きている」を結成。P-VINE RECORDSより『森は生きている』、『グッド・ナイト』をリリース。2015年に解散。2017年10月、ソロ名義「Okada Takuro」としてデビューアルバム『ノスタルジア』を発表。2020年6月、約3年ぶりとなる待望の2ndアルバム『New Morning』をリリース。

duenn(だえん)
福岡在住。エレクトロニクス / コンポーザー。必要最小限の機材でミニマル的な作品を制作。国内外のレーベルより多数の作品をリリース。ソロワークの他、Merzbow、Nyantoraと共にエクスペリメンタルユニット「3RENSA」、写真家吉田志穂とのアートユニット「交信」としても活動中。Nyantoraとアンビエントイベント「Haradcore Ambience」共催。
「ザ・ドリフターズで言ったら高木ブーみたいなもの」――実験的な音楽が持つ、この社会における意味
―コロナ禍のタイミングで新しい録音作品をリリースしたことについて、どう思いますか?
duenn:自分たちなりのささやかな社会実験という気持ちはあります。ポップスとも実験音楽ともつかない、アンビエントな、ある種曖昧なものを受け入れてくれる土壌がまだ社会のなかに残っているのかを知りたいと思っていて。
岡田:今の世の中って、中間の立場を取るような考え方が嫌がられることが多いと思います。でもこれだけ情報があふれていたら、どんな意見でも正解を見出すことが難しいと思うんです。もちろん作品が中立的な意味合いを持っているとは思いませんが、そうした環境下で音楽から響きだけを抽出したような、けれど音楽の立場としてはオブスキュアなものについて改めて考えてみようと思いました。
―通常のポップスとは異なるこうした実験的な音楽には、どのような意義があると考えていますか?
duenn:そもそもどんな音楽も歴史を遡るとアンダーグラウンドなものに行き当たるわけじゃないですか。そう考えると、ある種エンタメ化しているのが不自然な状況なのかなと思います。
岡田:音楽や芸術が社会の外側にある思考を引き立てるようなものだとしたら、アンダーグラウンドな音楽のプロセスって、音楽以外にも広く応用できるものだと思うんですよね。たとえば、硬直化した思考に対して社会の外側からテコ入れすることもできるかもしれない。
やっぱり資本主義下における大衆音楽はそれ自体が硬直化していると思うんですよ。日本の場合は特に。けれどもアンダーグラウンドな音楽というのは、常に既成の概念に囚われないことへと挑戦してきたものだと思うんです。今のような社会ではそうした音楽は商業的な場や、スピーディーな損益を考えれば真っ先に淘汰されてしまうかもしれませんが、そこをなくしてしまうのはものすごく危うい話だと強く思います。
duenn:たぶんですね、我々がやってるようなアンダーグラウンドな音楽というのは、ザ・ドリフターズで言ったら高木ブーみたいなものだと思うんですよ。
岡田:どういうことですか?(笑)
duenn:要か不要かで言ったら、高木ブーは不要だと思われていた時代が長かったじゃないですか。だけど高木ブーがいなくなったドリフを想像したときに、みなさん何を感じますかっていうことなんですよね。それがおそらく社会におけるアンダーグラウンドな音楽の意味だと思うんです。
岡田:めちゃくちゃポップでいい喩えですね(笑)。
リリース情報

- Okada Takuro + duenn
『都市計画(Urban Planning)』 -
2020年5月20日(水)配信
1. Waterfront (UP-01)
2. Aquapolis (UP-02)
3. Third Sector (UP-03)
4. Hana To Midori To Hikari (UP-04)
5. Nijuuisseiki No Mori (UP-05)
6. Green Park (UP-06)
7. Social Welfare (UP-07)
8. Public Space (UP-08)
9. New Urban Center (UP-09)
10. Subcenter (UP-10)
11. Landscape (UP-11)
12. Zone (UP-12)
13. 116 (UP-13)
14. Public Open Space (UP-14)
15. Cosmodome (UP-15)
16. Infrastructure (UP-16)
- 岡田拓郎
『Morning Sun』(CD) -
2020年6月10日(水)
価格:2,400円(税込)
ODCP-0231. Morning Sun
2. Nights
3. Birds
4. Lost
5. Shades
6. No Way
7. Stay
8. New Morning
プロフィール
- 岡田拓郎(おかだ たくろう)
-
1991年生まれ。東京都福生市育ち。ソングライター / ギタリスト / プロデューサー。2012年にバンド「森は生きている」を結成。P-VINE RECORDSより『森は生きている』、『グッド・ナイト』をリリース。2015年に解散。2017年10月、ソロ名義「Okada Takuro」としてデビューアルバム『ノスタルジア』をHostess Entertainmentからリリース。2018年には、1983年リリースされたスティーヴ・ハイエットの『渚にて』に収録されている“By The Pool”のカバー曲を含む4曲入り『The Beach EP』をリリース。2020年6月、約3年ぶりとなる待望の2ndアルバム『New Morning』をリリース。
- duenn(だえん)
-
福岡在住。エレクトロニクス / コンポーザー。必要最小限の機材でミニマル的な作品を制作。国内外のレーベルより多数の作品をリリース。ソロワークの他、Merzbow、Nyantoraと共にエクスペリメンタルユニット「3RENSA」、写真家吉田志穂とのアートユニット「交信」としても活動中。Nyantoraとアンビエントイベント「Haradcore Ambience」共催。