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コムアイ×ドミニク・チェン ヨコトリで考える孤立と共生の感覚

コムアイ×ドミニク・チェン ヨコトリで考える孤立と共生の感覚

『ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:相川健一  編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

声の響きや発音に込もるセクシュアルな可能性というのはあると思っていて、それは楽しさや喜ばしさ、笑いに通じている。(ドミニク)

コムアイ:ニルバー・ギュレシさんの作品とタウス・マハチェヴァさんの作品は両方とも体操をモチーフにしていて面白かったな。ちょっとオリンピックを意識してますか? 本当だったら、ちょうど今頃に東京五輪が行われてましたよね。

コムアイ
ズザ・ゴリンスカ『助走』2015(2020年再制作) ©Zuza Golińska
ズザ・ゴリンスカ『助走』2015(2020年再制作) ©Zuza Golińska

木村:そのとおりです(苦笑)。でも、彼女たちの作品に共通するのは、スポーツや国家が目指そうとする強く美しい身体への疑問の眼差しです。

タウスの作品では、奇妙なかたちをした体操器具のまわりから「シャンとしなさい!」「背筋を伸ばして!」といった身体の矯正をうながす声が聞こえてきます。タウスの出身地であるロシアでは、旧ソ連時代以来、体操というものが非常に重要な役割を担ってきましたが、その背後にある国家と市民の力関係について考えさせられます。

コムアイ:タウスさんの作品は、選ばれてる言葉がすごくいいなと思いました。私が感じたのはスポーツというよりも家族。家や家族のなかに潜んでいる「毒」です。小さなソサエティのなかで発生してしまう毒に侵されてしまうことの怖さ。それを感じました。

パフォーマーによる初回リハーサル。本文中で話題となっている「声」はこの時点でまだ聞かれない

コムアイ:声の力ってすごいと思ってるんです。インティ・ゲレロさんは、横浜美術館の所蔵作品などを組み合わせた「熱帯と銀河のための研究所」という展覧会内展覧会をキュレーションしてましたよね。

そのなかで、詩人で気候変動活動家のキャシー・ジェトニル=キジナーさんが、故郷のマーシャル諸島に貯蔵された核廃棄物について語っている映像がありました。彼女自身が書いた詩を彼女が自分の声で訴えかけているだけで、染み込むように伝わってくるものがあって「やっぱり声ってすごいなあ」と思い返しました。

ドミニク:肉声にはその人の歴史が織り込まれていますよね。声を聞くだけで一瞬にしてその人の通過した物語が立ち上がる。

そういえばコロナ禍のなかで、ラジオを聞く人が増えたという話を聞きました。テレビやYouTubeの映像が主流のいま、みんなの生活のなかで声というものがあらためて浮上してきているのは、すごく面白い変化だと思います。

ドミニク・チェン

コムアイ:抜け殻じゃいけないんだと思います。肉を求めて、みんな声に心を向けているんだと思う。「肉声」というように。

ドミニク:例えば聞き慣れない言葉に感じる色気ってありますよね。余談ですが、僕はポルトガル語は一切しゃべれないんですけど、世界で一番好きな響きの言葉なんですよ。

コムアイ:へー!

ドミニク:以前ブラジルに行くとき、飛行機のなかで必死に「このホテルの近所でいちばん美味しい店はどこですか」というフレーズをポルトガル語で喋る練習をして、リオデジャネイロでさっそく使ってみたんです。そうしたら完全に現地の人だと思われたのか、そのまま話を続けられちゃって、「ごめんなさい、話せるのはこれだけなんです」って英語で謝りました(笑)。でもそれですごく仲良くなれたんですよね。

これは笑い話だけど、響きや発音に籠もる官能があると思っていて、それは楽しさや喜ばしさ、笑いに通じている。会話を交わすというのは、言葉の意味以外のたくさんの価値を交換することだと思います。文字が非常に理性的だとすれば、声はとても親密なメディアですよね。

レーヌカ・ラジーヴの展示にて
レーヌカ・ラジーヴの展示にて

コムアイ:本当にそう思います。

ドミニク:そこにはある連続性もあって、壁でほとんど仕切られていない今回のトリエンナーレの心地よさ、気持ちよさの理由でもあるんじゃないでしょうか。実際、どの空間にいても、さまざまな声が重なって、響き合っているように感じられました。

コムアイ:「毒と共存する」って発想もそうですけど、白と黒みたいに断絶せずに存在させておくのは、東洋が広く得意としてきた方法かもしれないですね。孤立と共生がはっきり分かれているんじゃなくて、時間と空間とタイミングによって柔らかに移り変わっていくような。一人で考える時間、とくにコロナ以降の生活でもすごく必要じゃないですか。

ドミニク:自宅でNetflixを見ていたりすると、ついついTwitterを開いちゃって他の人の生活が細切れに意識に入ってきたりね。自分の部屋のなかにいるのに、逆に孤独になれないのがいまなのかもしれない。

コムアイ:そうそう。ばーっと横につながっていっちゃう。不思議ですよね。自分一人でちょうどいい状態ってなんなんだろう、って思います。

ツェリン・シェルパの展示の前にて
ツェリン・シェルパの展示の前にて
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イベント情報

『ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」』

2020年7月17日(金)~10月11日(日)
会場:神奈川県 みなとみらい 横浜美術館、プロット48、日本郵船歴史博物館
時間:10:00~18:00(10月11日は20:00まで、10月2日、10月3日、10月8日~10月10日は21:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休場日:木曜(10月8日は開場)
チケット:日時指定予約制
料金など詳細は下記をご覧ください

プロフィール

コムアイ

歌手・アーティスト。1992年生まれ、神奈川育ち。ホームパーティで勧誘を受け歌い始める。「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内だけでなく世界中のフェスに出演、ツアーを廻る。その土地や人々と呼応してライブパフォーマンスを創り上げる。好きな音楽は世界の古典音楽とテクノとドローン。好きな食べ物は南インド料理とグミとガム。趣味は世界各地に受け継がれる祭祀や儀礼を見に行くこと。音楽活動の他にも、モデルや役者など様々なジャンルで活動している。

ドミニク・チェン

1981年生まれ。博士(学際情報学)。NTT InterCommunication Center[ICC]研究員、株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て、現在は早稲田大学文化構想学部准教授。一貫してテクノロジーと人間の関係性を研究している。2008年度IPA(情報処理推進機構)未踏IT人材育成プログラムにおいて、スーパークリエイターに認定。日本におけるクリエイティブ・コモンズの普及活動によって、2008年度グッドデザイン賞を受賞。『あいちトリエンナーレ2019』、『XXIIミラノトリエンナーレ』に作品を出展。著書に『未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために』(新潮社)など多数。訳書に『ウェルビーイングの設計論:人がよりよく生きるための情報技術』(BNN新社)など。

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