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コムアイ×ドミニク・チェン ヨコトリで考える孤立と共生の感覚

コムアイ×ドミニク・チェン ヨコトリで考える孤立と共生の感覚

『ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:相川健一  編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

相互に認識し合う関係性を介さなくても、ライフはありえるかもしれない。(コムアイ)

ラクスは、映画を学ぶ学校で3人が出会ったのをきっかけに結成されたグループ。だからだろうか。今回のトリエンナーレは長編オムニバス映画を見るような感覚がある。

近代や家族の問題などを扱う前半部の横浜美術館を経て、後半部のプロット48ではSF的で未来的なイメージが続いていく。闇のなかでピアノの倍音に反応して夜光虫が光るアンドレアス・グライナーの作品や、終末医療をテーマとするナイーム・モハイエメンの作品。ロシアの映像作家、アントン・ヴィドクルの映画二部作でも、懐かしさと新しさが同居する未来像が語られていた。

川久保ジョイ『ディオゲネスを待ちながら』2020
川久保ジョイ『ディオゲネスを待ちながら』2020

コムアイ:東西冷戦期のソ連やアメリカでは、宇宙開発ドンドン! って感じで「輝かしい未来に私たちは向かっていくんだ!」という科学進歩の理想が共有されていたと思うんですが、その感覚はとっくに薄れて、いまは過去と未来に同じような目線を向けている人がほとんどだと思うんですよ。進歩ではなく成熟の時代。ドミニクさんはどう思いますか?

ドミニク:完全にそうだと思います。僕がいま、注目しているアンナ・ツィンやマリア・ピュイグ・デラベラカーサ、ダナ・ハラウェイといった研究者、そしてアーティストたちの多くは、人間が地球環境を不可逆的な段階まで破壊してしまったという認識を前提として共有しています。つまり、昔の状態には戻れないというポイントからスタートして考えなければいけない。

そのときに有効な処方箋の一つが、人間以外の種の生命体と意識を重ね合わせていくこと。人間以外の種のことは、英語だとmore-than human(モアザンヒューマン)と言ったりします。人間以外、じゃなくて、人間以上の存在たち、というニュアンスの言葉ですね。

実際、僕らのお腹のなかには、人間の細胞の数よりも多い微生物が生息していて、もはや複合生物体としか言いようがないのが、人間なんです。それなのに、僕らはいまも、自分が個体であるという認識から抜け出せないでいる。そうでなく、他者や異種へ注意を向ける、つまり「ケア」することで、個であると同時にもっと広い生命の風景とつながっていると捉えられるようになるのだと思います。

ドミニク・チェン

ドミニク:今回のトリエンナーレはそういった近代的な思考に対する鋭い批判たりえていると思います。民族誌学的な物語の作り方、人類学的な調査の仕方、そしてそれぞれのアーティストたちが個別に鍛え上げてきた物語。

そういうものが、はからずも最先端の科学がもたらす「客観的な世界はないんだ」という新しい世界認識と調和しはじめている。これは教育や国家や文化を考えるうえでも大事な認識を、芸術がもたらしてくれる証拠なのだと思います。

コムアイ:そうですね。

ドミニク:それを悲観的ではない、未知の感覚で伝えようとする作品に多く出会えたのも、今日の大きな収穫でした。とてもエンパワーされましたし、娘にも体験してもらえて嬉しかった(笑)。

アモル・K・パティル『水面下への眼差し』2020  ©Amol K. Patil
アモル・K・パティル『水面下への眼差し』2020 ©Amol K. Patil

―20代~30代の若いアーティストが多く参加してるのも大きいかもしれませんね。

木村:出品作家の多くに共通してるのが、必ずしも成功体験をしていない世代であることのような気がします。2008年に起きた金融危機であるリーマンショック以降の時代にアーティスト活動を本格化させた彼らは、もちろんアートマーケットが存在することを知って、そことも付き合うけれど、さらにその先にアートがどうあるべきかってことを、若いときから意識してきたのではないかと思います。

これまでの歴史を引き受けながら、いかにして次に進むべきか。そういった過渡期である意識がとても強い世代なのではないでしょうか。

コムアイ:美術館のほうに戻っちゃうんですけど、キム・ユンチョルさんの作品は、新しいライフ(生命)って感じがしました。大きな黒い蛇みたいなものが、もわもわって光ってる。

キム・ユンチョル『クロマ』2020 ©Kim Yunchul
キム・ユンチョル『クロマ』2020 ©Kim Yunchul

木村:1時間のうち、15分だけ光るんですよ。

コムアイ:ユンチョルさんは、もう一つ別の作品を出品してますよね。微弱な宇宙線を感知して、電球がまたたく作品。これを見て、私はこんな仮説を立てたんです。

私たちが、動物やアンドロイドなど、相手が生きものであると認識する条件は、他者から認識、観測されていると感じている、簡単にいえば見られていると感じることだと思っていました。でも、そういった相互に認識し合う関係性を介さなくても、ライフはありえるかもしれない。宇宙線とか重力のような第三者ともいえる事象を感知している様を見るだけでも、ライフは感じられるんじゃないかって。

―サステナビリティや循環性が目指すような単純な共生だけではないということですよね。孤立もまた生きるために必要であって、それはラクスがキーワードの一つに「独学」を挙げると同時に「友情」や「ケア」も挙げているのともつながっている気がします。

サルカー・プロティック『ラブ・キル』2014-2015 ©Sarker Protick
サルカー・プロティック『ラブ・キル』2014-2015 ©Sarker Protick
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イベント情報

『ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」』

2020年7月17日(金)~10月11日(日)
会場:神奈川県 みなとみらい 横浜美術館、プロット48、日本郵船歴史博物館
時間:10:00~18:00(10月11日は20:00まで、10月2日、10月3日、10月8日~10月10日は21:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休場日:木曜(10月8日は開場)
チケット:日時指定予約制
料金など詳細は下記をご覧ください

プロフィール

コムアイ

歌手・アーティスト。1992年生まれ、神奈川育ち。ホームパーティで勧誘を受け歌い始める。「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内だけでなく世界中のフェスに出演、ツアーを廻る。その土地や人々と呼応してライブパフォーマンスを創り上げる。好きな音楽は世界の古典音楽とテクノとドローン。好きな食べ物は南インド料理とグミとガム。趣味は世界各地に受け継がれる祭祀や儀礼を見に行くこと。音楽活動の他にも、モデルや役者など様々なジャンルで活動している。

ドミニク・チェン

1981年生まれ。博士(学際情報学)。NTT InterCommunication Center[ICC]研究員、株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て、現在は早稲田大学文化構想学部准教授。一貫してテクノロジーと人間の関係性を研究している。2008年度IPA(情報処理推進機構)未踏IT人材育成プログラムにおいて、スーパークリエイターに認定。日本におけるクリエイティブ・コモンズの普及活動によって、2008年度グッドデザイン賞を受賞。『あいちトリエンナーレ2019』、『XXIIミラノトリエンナーレ』に作品を出展。著書に『未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために』(新潮社)など多数。訳書に『ウェルビーイングの設計論:人がよりよく生きるための情報技術』(BNN新社)など。

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