
蓮沼執太が訴える「音」を聴く重要性 誰かが声を上げるこの世界で
Ginza Sony Park- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:高木康行 編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)
9月7日からGinza Sony Parkで蓮沼執太のキュレーションによる『Silence Park』が展開されている。これは通常のBGMに代わって、蓮沼が呼びかけた世界各地のアーティストが「パブリック」をコンセプトに環境音の作品を制作し、それを「バックグランドサウンド」として流すというもの。移動することも、集まることも制限される中、銀座の地で世界中の環境音が鳴らされることによって、「パブリック」という概念の再考に繋がるはずだ。
蓮沼が今回の試みで重視しているのは「声を聴く」ということ。時代が転換点を迎え、世界中で多くの人が声を上げる中、「声を聴く」という行為の質がこれまで以上に重要となり、環境音に耳を傾けることは、その第一歩になり得る。この考えは、蓮沼がフィールドレコーディングを通じて「聴く」ことの重要性を認識してきたからこそであり、彼のすべての活動に通底している精神性だと言えよう。豊かなSilenceの時間をぜひ味わってほしい。
人の消えた渋谷で、鳴り続ける広告を聴いてーー「音」を考え直すために、蓮沼執太が仕掛ける環境音プロジェクト

蓮沼執太(はすぬま しゅうた)
音楽家、アーティスト。1983年東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織して国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、CM楽曲、音楽プロデュースなど、多数の音楽制作。また「作曲」という手法を応用し物質的な表現を用いて、展覧会やプロジェクトを行う。最新アルバムに蓮沼執太フルフィル『フルフォニー』(2020年)。
―まずは『Silence Park』という企画が立ち上がった経緯から話していただけますか?
蓮沼:Ginza Sony Parkとはこれまでも何度かコラボをさせていただいています。ここのBGMは、2週間に1回アーティストがアルバムを10枚セレクトして流してるんですけど、それも以前やらせていただいたことがあって。
今回の発端はやっぱりコロナで、ここは「Park」という場所ですけど、人が集まること自体が制限されている中、作り込んだ音楽としてBGMを流すのではなく、サウンドで何か別のアプローチをできないか、というのが始まりでした。
―「BGMではなくサウンドで」というのは、どういった発想から生まれたのですか?
蓮沼:先日雑誌の『TOKION』が復刊したんですけど、その中の企画で、サウンドエンジニアのオノ セイゲンさんに誘われて、緊急事態宣言後の渋谷の環境音を録りに行ったんです。スクランブル交差点、文化村、明治神宮、国立競技場とか、その辺で音を録ったんですけど、特にひどかったのがスクランブル交差点とセンター街で。普段より人が少ないのに、広告の音だけがいつも通りの音量で鳴ってて、人がたくさんいればその分音って吸収されるんですけど、そうじゃないから「消費の音」でエコーしちゃってるっていうか。
―普段はあまり意識しないですけど、四方八方から広告の音が流れている場所ですもんね。
蓮沼:センター街でも爆音でJ-POPがかかってて、正直疲れちゃうんですよね。渋谷は僕が慣れ親しんだ街でもあるし、思い入れは強いんですけど、シティサウンドスケープとして、「何だこれは?」って、本当に残念な感じでした。
でも、都市で鳴らされてる音って、つまりは人間が鳴らしてるわけで、それをもっと根源的に考えないといけないなと思って。なので、「音楽を流す」のではなく、「音を流す」発想になったんです。
コロナ禍で明らかになった、誰かがどこかで声を上げる世界の姿
―具体的には、世界各地のアーティストに「パブリック」をコンセプトに環境音の作品を制作してもらい、それを流すと。プレスリリースにも「バックグラウンドミュージック」ではなく「バックグラウンドサウンド」と記載されていますね。
蓮沼:基本的に渡航にも制限がかかっている中、日本の外から音を持ってくる。シンプルに言うと、そういうプロジェクトです。国や人種、宗教も違えば「パブリック」の概念も変わるだろうから、コンセプトとしてもユニークかなって。各アーティストに30分くらいの音を送ってくださいってお願いして、今流れているのは僕とフランシスコ・ロペスさんとヤン・イェリネックさんの3人の音で構成されています。
フランシスコ・ロペスによる環境音作品。『Silence Park』で流れる作品同様、熱帯雨林で収録されたものヤン・イェリネックの楽曲作品
―『Silence Park』というタイトルには、どのような想いを込めたのでしょうか?
蓮沼:これ「Silent Park」ではなく「Silence Park」で、日本語だと「静かな公園」ではないんです。さっき僕は渋谷の音を「消費」って表現しましたけど、音には何かしらの声があると思うんですよね。僕が今回オファーさせていただいた作家の音にも、何かしらの声が入っていると思う。その声を聴いてほしいんです。
―もちろん、実際に「肉声」が入っているということではなく、「意味を内包している」ということですよね。
蓮沼:そうです。「Black Lives Matter」などもそうですけど、コロナ前後……アメリカ大統領選まであと1年くらいになってからかな、それまで見えなかった問題がジワッと出てきて、ただでさえ毎日不安定な時期なのに、今もどこかで誰かが何かしら声を上げている状況が続いています。僕はそこで声を上げるだけじゃなくて、その声をちゃんと聞いて、どうアクションしていくかってことが大切なんじゃないかと思っているんです。なので、『Silence Park』でも環境音を通して、その音に含まれている声を聴いてもらいたいですね。
蓮沼:今回3アーティストで95分のループになっていて、曲と曲の間に5分くらいの無音部分があるんです。音的には無音なんですけど、でもやっぱりそこには「音」がある。例えば、ヤン・イェリネックさんの音が終わった瞬間に、パークで休憩してた人が「おや?」ってなると思うんですよ。
―無音になることで、環境音に意識的になる。『Silence Park』というタイトルともリンクしますね。
蓮沼:そうですね。それによって、「自分はここにいたんだ」とか、ちょっとした変化みたいなものが浮かび上がるといいなと。スタッフの方にもお伝えしたんですけど、一番大事なのはそのサイレントな時間で、しかも、その場所がどう使われるかで意味合いも変わってくると思うんです。
今のGinza Sony Parkは緩やかな人の出入りだと思うんですけど、年始にはQUEENのイベント(2020年1~3月に開催された『#013 QUEEN IN THE PARK ~クイーンと遊ぼう~』)をやっていて、その頃とは人の流れも時間の流れも全然違うはず。そうやってこの場所自体がどんどん形が変わっていくので、それに合わせたプログラムにしていきたいと思っています。
イベント情報

- 『「Silence Park」curated by Shuta Hasunuma』
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2020年9月7日(月)~10月11日(日)
『Silence Park』は、音楽家の蓮沼執太と世界各国のアーティストたちが、各地の街や自然から採取した音で作られた作品で、Ginza Sony Parkの新しいバックグラウンドサウンドです。
この環境音による作品は「パブリック」をコンセプトに制作され、さまざまなアーティストが参加することによって形を変え続けながら、Ginza Sony Parkが閉園する2021年9月までの期間、継続的に実施します(今後の日程は未定)。2020年9月7日(月)からは、スペインの音楽家フランシスコ・ロペスと、ドイツのエレクトロミュージシャンであるヤン・イェリネック、そして蓮沼執太の3名による作品が園内に流れます。特設サイトでは、蓮沼執太と各アーティストとのやり取りを示した「往復書簡」や、それぞれの作品説明をご覧いただけます。
プロフィール
- 蓮沼執太(はすぬま しゅうた)
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音楽家、アーティスト。1983年東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織して国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、CM楽曲、音楽プロデュースなど、多数の音楽制作。また「作曲」という手法を応用し物質的な表現を用いて、展覧会やプロジェクトを行う。2013年アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)のグランティとしてニューヨークに渡り、2017年文化庁東アジア文化交流使として中国に滞在制作を行う。主な個展に『Compositions』(ニューヨーク・Pioneer Works 2018)、『 ~ ing』(東京・資生堂ギャラリー / 2018年)、『OTHER 'Someone's public and private / Something's public and private』(東京・void+、2020年)。2019年に『Oa』(Northern Spy Records, New York)をリリースし、最新アルバムに蓮沼執太フルフィル『フルフォニー』(2020年)。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。