特集 PR

蓮沼執太が訴える「音」を聴く重要性 誰かが声を上げるこの世界で

蓮沼執太が訴える「音」を聴く重要性 誰かが声を上げるこの世界で

Ginza Sony Park
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:高木康行 編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)
蓮沼執太

「音を聴く姿勢が一番の作曲だと思ってます」

―話を『Silence Park』自体に戻すと、蓮沼さんの今回の作品はジョン・ケージが住んでいた場所として知られるニューヨーク州ストーニーポイントの森で録音されたそうですね。

蓮沼:ジョン・ケージはマース・カニンガム(アメリカの舞踏家 / 振付師)や何人かの友人とコミューンみたいな感じで暮らしていたんですけど、写真家のホンマタカシさんと一緒にその森に行って、僕はずっと音を録ってました。この企画で僕は何個かのフィールドレコーディングをリリースしていく予定なんですけど、今回は先にヤンさんとロペスさんの音があって、それに合わせて、最後に自分の音を選んだ感じです。

―やはり、「Silence」というテーマだから、ジョン・ケージ所縁の音を選んだわけですか?

蓮沼:そりゃあ、そういうふうに思いますよね(笑)。まあ、そこは自然過ぎるというか、ジョン・ケージの存在は切っても切り離せないです。「声を聴こう」っていう行為も、ジョン・ケージが昔から行なっていたことです。時代背景は違いますけど、僕も音を聴く行為もひとつの作曲や演奏だと思ってます。

ジョン・ケージ“4分33秒”。3楽章で構成されるこの曲は、すべてが「休み(休符)」で成り立っているため、演奏はしない

―録音したものを30分の作品にするにあたっては、何かポイントがありましたか?

蓮沼:フィールドレコーディングには構造の問題があって、シーンと時間が違うものを並べてひとつの作品にするときに、それが何を物語っているのか、何がその土地の背景にあるのか、そういったことを意識して並べていくと思うんですけど、僕は今回は記録したままの時間軸にしてます。

自分が起こしてしまった余分なノイズは切って、録った時間軸で並べて30分にしました。かたやロペスさんはめちゃめちゃ手を入れてて、そのクオリティは驚くべきものです。

―アーティストのキュレーションも蓮沼さんがされているとのことで、今回の2人について紹介していただけますか?

蓮沼:フランシスコ・ロペスさんは主にフィールドレコーディングを使ったサウンドアーティストです。僕が大学生時代にフィールドレコーディングをしていた頃は、ロペスさんやクリス・ワトソン、日本だと角田俊也さんなどの作品を貪るように聴いていたので、今回参加してくださったのはすごく光栄です。

環境音とかアンビエントミュージックって、「癒し」として扱われることが多いですけど、それって「消費」みたいな概念と一緒というか。ひとつの側面を強調して音を商品として提供しているようなものの考え方です。それらとは180度反対な姿勢で、ロペスさんの音には独特なトゲがあるんですよね。

フランシスコ・ロペス『untitled (2019)』を聴く(Apple Musicはこちら

―ロペスさんの作品は世界中の熱帯雨林・亜熱帯雨林・寒帯雨林で録音した音で作られているそうですが、いわゆる「癒し」のサウンドとは異なりますよね。

蓮沼:音的な話をすると、ロペスさんは高音が結構痛いんですよ。ど低音からど高音まで、人間の可聴範囲ギリギリまで音が入っていて、そこに作家性が出ていて、いわゆる癒しのサウンドには全くなってないんですよね。

蓮沼執太

―ヤン・イェリネックさんはいかがですか?

蓮沼:ヤンさんは僕が単純にファンなんですけど、2000年代のベルリンのエレクトロミュージックのキーパーソンで、音の質感がとても好きなので、環境音を扱うとどういったものになるんだろうと、その音を聴いてみたいと思って打診したんです。そしたら「ちょうどバケーションでいろんなところに行くから、フィールドレコーディングできるかも」ってことだったので、お願いしました。

いろんな場所で録ったものをベルリンのスタジオでまとめてミックスし直して、環境音だけじゃなくちょっと電子音とかフレーズっぽいのも入ってて、三者三様のアプローチになってますね。ヤンさんはやっぱり低音の扱いがクラブミュージック的なんですよ。ロペスさんはサウンドアート的手法で、僕は音域に関してはわりとニュートラル。そういうところにも作家性が出てると思います。

ヤン・イェリネック『puls-plus-puls』を聴く(Apple Musicはこちら

「Hear」じゃなくて「Listen」すれば、物事の見え方は変わるかもしれない

―来場される方には、『Silence Park』をどのように楽しんでほしいとお考えですか?

蓮沼:ただサウンドアートとして聴くだけじゃなくて、なぜそこで録られたのか、その場所にはどんな背景があるのかとか、そういった部分まで意識して聴いてもらえると、より面白いと思える視点がたくさんあると思います。

―やはり「声を聴く」という姿勢に繋がってほしいと。

蓮沼:ただ、90分以上あるから全部聴くのは大変だと思うし、全部聴くこと自体が重要なことでもないと思っています。このプロジェクトは映画ではないので、アタマから終わりまで全部見て理解するものではなくて、始まりも終わりもないくらいの感覚で、とりあえず来てみて、誰かの何かの音に触れることで何か発見があるといいなっていうくらいのプログラムでもあるんです。僕もさっき上でコーヒーを買って、来場者が普段通る階段から地下に降りてきたんですけど、外の環境音から段々別の環境音になっていく体験って、なかなか特殊だなって思いました。

蓮沼執太

―しっかり音を聴きに来るでも、ふらっと立ち寄るでも、いろんな楽しみ方ができそうですよね。ちなみに、蓮沼さんはGinza Sony Parkという場所自体の可能性についてはどうお考えですか?

蓮沼:こういう場所の使い方をされているのは、日本だけじゃなく欧米でもあまりないと思うので、すごくユニークだなって思います。今の時代、独特でオリジナルな視点のものって作りにくいじゃないですか? 何かしら去勢されていくというか、「こうじゃないと」って作り上げられていくものの方が多いと思う。

けど、そうじゃなくて「やってみなきゃわかんないね」っていうのを感じるし、それが許されてる……わけじゃないだろうけど(笑)、ギリギリまでアーティストに担保してくれてるってことだと思うので、それは現場のみなさんの努力があるからこそ実現可能なことで、そういうニュアンスは伝わってきます。

―「Park」でありつつ「Playground」というか、遊び場っぽいイメージもありますよね。

蓮沼:「Park」の語源って、貴族が狩りとかで遊ぶ場所のことで、馬を停めておく場所が「Parking」じゃなかったかな? 浜離宮の庭園ももともと徳川家が和歌を詠んだり、芸術を楽しむ場所だったし、「Park」にも「遊ぶ」っていうニュアンスはあるような気がする。語源に関しては曖昧だけど(笑)。

―でもそうやって「Park」の語源とか歴史まで考えて「聴く」っていう行為をすることで、Ginza Sony Parkの風景がちょっと違って見えるかもしれないですよね。

蓮沼:「Hear」と「Listen」でいうと、「Listen」ですかね。能動的に何かに興味を持って、声を聴きに行く。そういう姿勢が今、さらに大切だと思います。

蓮沼執太

記事の感想をお聞かせください

知らなかったテーマ、ゲストに対して、新たな発見や感動を得ることはできましたか?

得られなかった 得られた

回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Page 3
前へ

イベント情報

『「Silence Park」curated by Shuta Hasunuma』
『「Silence Park」curated by Shuta Hasunuma』

2020年9月7日(月)~10月11日(日)

『Silence Park』は、音楽家の蓮沼執太と世界各国のアーティストたちが、各地の街や自然から採取した音で作られた作品で、Ginza Sony Parkの新しいバックグラウンドサウンドです。
この環境音による作品は「パブリック」をコンセプトに制作され、さまざまなアーティストが参加することによって形を変え続けながら、Ginza Sony Parkが閉園する2021年9月までの期間、継続的に実施します(今後の日程は未定)。

2020年9月7日(月)からは、スペインの音楽家フランシスコ・ロペスと、ドイツのエレクトロミュージシャンであるヤン・イェリネック、そして蓮沼執太の3名による作品が園内に流れます。特設サイトでは、蓮沼執太と各アーティストとのやり取りを示した「往復書簡」や、それぞれの作品説明をご覧いただけます。

プロフィール

蓮沼執太(はすぬま しゅうた)

音楽家、アーティスト。1983年東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織して国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、CM楽曲、音楽プロデュースなど、多数の音楽制作。また「作曲」という手法を応用し物質的な表現を用いて、展覧会やプロジェクトを行う。2013年アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)のグランティとしてニューヨークに渡り、2017年文化庁東アジア文化交流使として中国に滞在制作を行う。主な個展に『Compositions』(ニューヨーク・Pioneer Works 2018)、『 ~ ing』(東京・資生堂ギャラリー / 2018年)、『OTHER 'Someone's public and private / Something's public and private』(東京・void+、2020年)。2019年に『Oa』(Northern Spy Records, New York)をリリースし、最新アルバムに蓮沼執太フルフィル『フルフォニー』(2020年)。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。⁠

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. 東京スカイツリー天望デッキから配信されるライブ『天空の黎明』全演目発表 1

    東京スカイツリー天望デッキから配信されるライブ『天空の黎明』全演目発表

  2. 常田大希提供曲に隠れたジャニーズらしさ SixTONES“マスカラ” 2

    常田大希提供曲に隠れたジャニーズらしさ SixTONES“マスカラ”

  3. 異才スティールパン奏者、電子音楽家の2つの顔 小林うてなの半生 3

    異才スティールパン奏者、電子音楽家の2つの顔 小林うてなの半生

  4. 在宅ワークを快適に。コロナ禍でさらに注目の音声メディアを紹介 4

    在宅ワークを快適に。コロナ禍でさらに注目の音声メディアを紹介

  5. お父さんはユーチューバー / 美術のトラちゃん 5

    お父さんはユーチューバー / 美術のトラちゃん

  6. シンセと女性たちの奮闘物語『ショック・ドゥ・フューチャー』 6

    シンセと女性たちの奮闘物語『ショック・ドゥ・フューチャー』

  7. カンヌ4冠『ドライブ・マイ・カー』の誠実さ 濱口竜介に訊く 7

    カンヌ4冠『ドライブ・マイ・カー』の誠実さ 濱口竜介に訊く

  8. 「ドラえもんサプライズ誕生日会」の「招待状」広告が朝日新聞朝刊に掲載 8

    「ドラえもんサプライズ誕生日会」の「招待状」広告が朝日新聞朝刊に掲載

  9. 「千葉=無個性」への反抗。写真展『CHIBA FOTO』を語る 9

    「千葉=無個性」への反抗。写真展『CHIBA FOTO』を語る

  10. ROGUEが語る、半身不随になってから再びステージに上がるまで 10

    ROGUEが語る、半身不随になってから再びステージに上がるまで