インタビュー

多様化するK-POPコンテンツとファンコミュニティ、その魅力と課題を考察

多様化するK-POPコンテンツとファンコミュニティ、その魅力と課題を考察

インタビュー・テキスト
後藤美波(CINRA.NET編集部)

『プデュ』をはじめとするサバイバルオーディションが呼んだ議論

―韓国ではここ数年、オーディション番組がブームと言えるほど多数放送されていますよね。連載では『PRODUCE 101』(『プデュ』)の日本版、中国版についても取り上げていただきましたが、『プデュ』シリーズの不正事件が発覚したこともあり、どうしても全肯定的なスタンスではなかったという印象があります。改めて、サバイバルオーディションをめぐる問題点については、どのような議論があったのでしょうか。

松本:サバイバルオーディションについては、『プデュ』シリーズをはじめとする投票結果の不正操作問題や長時間の撮影など、問題がいくつも顕在化していました。前者については刑事事件にも発展したほど明らかな不正だったため、アイドル業界の問題と言って良いのか難しいところですが、とはいえ、そもそもの構造的な問題に対しても今まで以上に不信感が生まれたと思います。

個人的には、一時IZ*ONE(『プデュ』シリーズのひとつ、『PRODUCE48』で結成)のメンバーが「投票操作によってデビューした」として批判されてしまったことに、強く心を痛めました。言うまでもなくメンバーは意図せず利用されてしまった被害者ですが、にもかかわらず利益を得た加害者であるかのように語られてしまう。誹謗中傷による事件が重なった時期でもあったので、活動休止や解散以前にメンバーのメンタルが本当に心配になりました。ファン心理としては、良い運営のもとで行なわれる適正なオーディションプログラムの可能性を諦めたくないところではありますが、実際に被害を受けている若い演者がいて、しかもそれが増えてもいる以上、視聴者としてどういうスタンスでいれば良いのか、心境は非常に複雑です。

IZ*ONEは『プデュ』とAKB48グループのコラボ企画『PRODUCE48』から誕生。運営側の投票不正操作事件の影響で昨年11月から活動休止状態だったが、今年2月にカムバックした

―そうなってしまう背景には、サバイバルオーディションというコンテンツ自体に多くの人を惹きつける魅力があるのだと思いますが、お二人がサバイバルオーディションを見ようと思う理由って何ですか?

菅原:これだけK-POP市場もしっかりしてきたら手堅い事務所の人たちにしかスポットライトが当たらないという風になりがちですよね。そんななかで小さい事務所に所属している練習生など、チャンスをあまり与えられていないけど素晴らしい才能がある人ってこんなにいるんだということに気づかされる喜びはすごく大きいです。

―大小様々な事務所の練習生が集う『プデュ』シリーズは、特にそういう面がありますね。

菅原:そうですね。例えば最初の事務所別評価の時点で実力を発揮できてない参加者も、トレーナーの指導だったり、他の参加者との共同作業によって驚きの才能を開花するパターンもいっぱいあるので、そこが『プデュ』シリーズが持つ大きな魅力の一つだと思います。シリーズごとでも、国によっても、その開花の仕方や成長の仕方が違うなと感じますし、そういう意味でも新しいシリーズが出たら注目してしまうところはあります。

実際私は中国版『プデュ』の『青春有你2』がきっかけで、そこからデビューしたTHE9だけでなく、日本とも韓国ともまた異なる中国の芸能界の構造やファンカルチャーに目を向けるようになったので、サバイバルオーディションが持つ魅力を身をもって実感しています。

本国の『プデュ』シリーズの最新作『PRODUCE X 101』から生まれたボーイズグループ・X1もIZ*ONEと同様に活動休止状態となった後、今年1月に解散が発表された ©CJ ENM Co., Ltd, All Rights Reserved
本国の『プデュ』シリーズの最新作『PRODUCE X 101』から生まれたボーイズグループ・X1もIZ*ONEと同様に活動休止状態となった後、今年1月に解散が発表された ©CJ ENM Co., Ltd, All Rights Reserved

松本:自分の場合は、オーディションに限らずアイドル全般に感じている面白さとして、「できないことができるようになる」プロセスを見られることに一番魅力を感じます。アイドルは歌もダンスもステージングも求められますが、すべてをプロフェッショナルにこなせる人は滅多にいません。常に「できないかもしれない」という余白を抱えながらステージに立っている。できないことに対してどう振る舞うか、できないことがどうできるようになっていくのか。一人ひとり違うそのスタイルに人間らしさを感じるし、時にそれがロールモデルにもなったり、エンパワーされたりもするのかなと思います。

良くも悪くも、サバイバルオーディションはそうしたアイドルの魅力をわかりやすく提示してくれるプログラムです。先ほどの審査基準の話にも重なりますが、魅力的だからこそ危ういし、惹かれるからこそ慎重でなくてはならないんですよね。

菅原:『日プ』の記事で松本さんが「『プデュ』はパフォーマンススキルによるサバイバルであるだけでなく、「人柄」をもジャッジされる人間観察リアリティショー的なサバイバルも同時に課せられる」って書かれてましたが、ファンが喜ぶからこそパフォーマンスだけではなくアイドルの人柄が見える側面を映すというのもそうですし、さっきも言ったようにそこを自分自身も楽しんで見てしまっている。運営側の不正とはまた別問題ですが、ファンに求められるものをどこまでも満たそうとするファンダムファーストの動きが行き過ぎてしまっている現状もあると思います(参考:『日プ』で生まれた化学反応。ローカライズ化と、新鮮な男性像)。

昨年放送された『日プ』こと『PRODUCE 101 JAPAN』からデビューしたJO1。同番組の参加者からは他にも複数のグループが生まれた

―韓国では今後も新しいオーディション番組がスタートしたり、現在放送中のものもありますが、最近議論になった問題について取り組む動きはあるのでしょうか。

松本:問題そのものはたびたび指摘されているにもかかわらず、改善への動きは遅いと言わざるを得ないと思います。そのために批判側がどんどん闘争的になってしまうのも危険です。じゃあどうすれば……というところで、中立的な立場のメディアがさまざまな意見を拾い上げてそれを精査し、議論や批判を展開して業界や事務所に適切なプレッシャーをかけられるようになると理想なのかなと思ったりもします。

以前、韓国のK-POPジャーナリストのパク・ヒアさんにインタビューした際に、彼女が近いことをおっしゃっていました。人権の観点から練習生システムのデメリットや、オーディション番組の功罪についてメディアで書くことは、事務所にとっては煩わしいことかもしれない。でも、それを自分がやらなければ、K-POP産業で活動する演者を守れない、と。本当にその通りだと思いますし、パク・ヒアさんは実際に自分でメディアも立ち上げています。

一朝一夕に真似できるものではないですし、現実的にどこまで影響力を持てるのかということもありますが、個人やファンが要望をダイレクトに訴えるのとは異なる回路を作ろうとするのは大事ですよね。それによって、本質的ではない炎上対策や、ファン同士の論争ではない、実のある議論が生まれるんじゃないかなと……言うは易しですが。

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