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坂口恭平の権力への抵抗。音楽は記憶を思い出させ人を治療する

坂口恭平の権力への抵抗。音楽は記憶を思い出させ人を治療する

坂口恭平『永遠に頭上に』
インタビュー
九龍ジョー
撮影:廣田達也 編集・テキスト:山元翔一(CINRA.NET編集部) 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

畑をはじめてから躁鬱が落ち着いて1年越え

九龍:道具を借りて、先人からきちんと受け継ぐわけだ。

坂口:そう。俺、大工のときからそうだったから(大学で建築を学んでいる時、大工の親方の元で修行をしていた)。親方が「こいつは大丈夫だ」って思ったやつには本人が使い易いトンカチとか道具袋とかをくれるのよ。もらったものじゃないとダメ。

で、俺の畑も先人にもらった道具と竹と麻ひもで作ってたら、逆にその先人が「俺が小さかった頃の畑にしか見えない」って言って、記憶の変容が始まっちゃった。「これは昭和30年の!」って(笑)。

九龍:向こうが原風景を思い出してしまう(笑)。まあ、言ってみれば子供こそミメーシスの天才だからね。その道のプロが惹かれるのは、そういうことなんだろうね。

畑のことをもう少し聞きたいんだけど、ずっと手を入れなきゃいけないわけじゃないですか。畑側の要請というか、土が何かを言ってくることはありますか?

坂口:「毎日いて」って言う。毎日いることによって何が変わるかというと、まず猫が俺が来る時間を知るようになる。そして虫も俺が畑に来る時間を知ってくるってこと。

九龍:ノラ・ジョーンズだっけ、あの猫の名前。

坂口:そう、ノラ・ジョーンズが知ってるわけよ。そして俺が畑に来るじゃない? その手前からもうバッタが2、3匹飛んでって、蜘蛛はもう足音聞いたらそのままシャラシャラシャラってどこかへ逃げて行く。蝶だけは逃げない。そういうコミュニケーションなんよ。

土って人間を理解してて、人間が定期的に来ていじること、つまり人間の行為の全てを、土は自然の一部だと思ってる。人間もプラスチックゴミも、土からすると「いや、自然です」って話で。

九龍:区別はなく、ぜんぶ自然なんだ。

坂口:放置された荒地の植物たちがどうしてあれだけ育つのかを研究してる人がいて、『動いてる庭』(2015年刊、ジル・クレマン著)っていう本がみすず書房から出てるんだけど、完全に植物が人間を理解しているんだって。植物は人間の動きを見越して全てやっていると。

九龍:人間の行動も織り込み済み。

坂口:そう。それは全て地面を元にした全体的なコミュニケーションで、人間もそこに入っている。そしてそのことに人間も気づいていると。もう無茶苦茶なわけよ。

坂口恭平

九龍:お互い暗黙の了解であると。面白いね。畑をはじめてから、躁鬱の波が落ち着いたということだけど、実際はどうなんですか?

坂口:それが本気で落ち着いている。

九龍:そうは言っても、ここから落ちるパターンもこれまで何度もあったから油断はできないけど、たしかに今の状態は長い期間続いてるよね。

坂口:もう1年越えたから。やっぱり植物を覚えたのは大きいかも。もうほとんど今、植物に忠実だから。

九龍:自然の命ずるがまま(笑)。

坂口:俺、植物が自分の畑の外に伸びていっても育てることにしてるから。もう隣の人にごめんなさいって言えばいいだけ。「坂口さん(伸びても)切らないもんね」って言われて、俺も「切らないですねえ~育とうとしてるんで」って。

九龍:「坂口さんは切らないよね」って、向こうの方も認めてくれている状態がすでに実現しているのがいいね。

坂口:『土になる』(参照:note連載『土になる』)をプリントアウトしていって、「切らない理由、書いてます」って言って渡せるからね。それは『自分の薬をつくる』(2020年刊、晶文社)で書いてることで言うと「声にしなさい」ってこと。

『自分の薬をつくる』晶文社(2020年)
『自分の薬をつくる』晶文社(2020年)(Amazonで見る

坂口:考えてることを声にすることによって、ちゃんと伝わるから。歌だってそれなんよ。

自分の本当に感じてることを声にしなさい、それだけが歌なのに、なんで人を感動させるとか、そういうごちゃごちゃした話になっていくの? っていう。そうじゃなくて、自分が感じたことを1秒も嘘偽りなく、声に表すっていうだけ。それが本来の歌だから。

石牟礼道子の詩が持っている旋律を音楽にする

九龍:少し今回のアルバムの話もすると、“海底の修羅”は石牟礼道子さん(詩人、作家。2018年没)の詩にメロディーをつけたものですよね。

坂口:うん、そうね。「三回忌に歌ってください」って石牟礼家から言われて、たまたま石風社から出てる『石牟礼道子全詩集』(2002年)を開いてたら、たまたま「墓場を出て」っていう1行目に出くわして、その瞬間にもうメロディーができたから。

それを石牟礼道子さんの三回忌で歌ったら、えらいことになったよ。もう全員泣いたんよ、これ本当に。「詩の意味がよりわかりました」っておじいちゃんたちが俺に向かって言ってきて。

坂口恭平『永遠に頭上に』収録曲“海底の修羅”を聴く(Apple Musicはこちら

九龍:もちろんそれは、坂口恭平の生み出したメロディーだけど、もともと石牟礼さんの中に歌が流れていたのもあるんだろうね。

坂口:石牟礼道子はいわゆる大和歌を作っていたんだけど、それは、五・七・五・七・七で作られてるわけで。それって旋律があるからなんだよね。そもそもちゃんと旋律が鳴っていて歌われていたんだけど、楽器が鳴ってないから音楽としての形を持っていなかった。

俺が石牟礼道子の詩に対して曲をつけるっていうよりは、石牟礼道子の旋律をちゃんと奏でてあげる感じ。収録されているのは本当に1発目の録音で、しかも詩を見つけた瞬間に歌った1発目のやつ。

九龍:なるほどね。本当は鳴っているはずの音楽を嗅ぎ取ってメロディーをつける行為って、他のこととも共通してるよね。

坂口:それって路上生活者の人の生活について、俺が「これは都市全体を機能的に使う生活してるんですよ」って言う感覚と一緒なんだよね。で、その人たちはわかってんだから「そうだよ」って、それに驚きはしないわけ。

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リリース情報

『永遠に頭上に』
坂口恭平
『永遠に頭上に』

2020年9月9日(水)発売
料金:2,200円(税込)
PECF-1181

1. 飛行場
2. 松ばやし
3. 霧
4. 露草
5. TRAIN-TRAIN
6. 海底の修羅

プロフィール

坂口恭平
坂口恭平(さかぐち きょうへい)

1978年、熊本県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
2004年に路上生活者の住居を撮影した写真集『0円ハウス』(リトルモア)を刊行。以降、ルポルタージュ、小説、思想書、画集、料理書など多岐にわたるジャンルの書籍、そして音楽などを発表している。2011年5月10日には、福島第一原子力発電所事故後の政府の対応に疑問を抱き、自ら新政府初代内閣総理大臣を名乗り、新政府を樹立した。
躁鬱病であることを公言し、希死念慮に苦しむ人々との対話「いのっちの電話」を自らの携帯電話(090-8106-4666)で続けている。2012年、路上生活者の考察に関して第2回吉阪隆正賞受賞。2014年、『幻年時代』で第35回熊日出版文化賞受賞、『徘徊タクシー』が第27回三島由紀夫賞候補となる。2016年に、『家族の哲学』が第57回熊日文学賞を受賞した。現在は熊本を拠点に活動。2023年に熊本市現代美術館にて個展を開催予定。近刊に『苦しい時は電話して』(講談社現代新書)、『自分の薬をつくる』『cook』(晶文社)、『まとまらない人』(リトルモア)など。

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